第54話 DStarsマイクラサーバー稼働開始!(後編)
「はい、今日はここまで! おそくまで見ててくれてありがと! おつえるふ~!」
「今日は大満足のマイクラ実況だったバニ! これからも、ガンガンマイクラ配信していくからよろしくバニな! それじゃ今日はここまで! エンディング!」
結局、私とえるふの配信は深夜三時まで続いた。
なんでそんな時間までかかったかと言えば、チェスト整理が終ったあと、「せっかくだし、アイアンゴーレムトラップ(『鉄』を安定供給する便利な生産施設)一緒に作らん?」と、えるふが言いだしのだ。
そこから「村探し」「住人誘拐」「繁殖」「ニート間引き」という、外道マイクラを経て、ようやくトラップが完成してこの時間である。
マグマに当たって焼死するアイアンゴーレム。
その断末魔を聞きながら枠を閉じる。
長丁場&かなりダーティーな内容にも関わらず同接は悪くなかった。
コメント欄にも多くのスパチャが飛んでいた。
配信は大成功だ。
本来ならすぐにもスパチャ読みをしたいが、今日はコラボもあって疲れた。
また明日、まとめて読ませていただこう。
パソコンの前から立ち上がりふらふらの足取りで台所に向かう。
冷蔵庫から牛乳をとりだすと水切り台のグラスをとってなみなみと注ぐ。
小腹が空いたので、買いだめの『SOYJOY』を戸棚から一本取りだして、再びパソコンの前へと戻った。
それからTwitterをチェック。
トレンド欄に『ばにら誘拐』というワードを見つけ、「センシティブなワードでトレンド入りしたな」とちょっと後悔した。
牛乳を飲んで口の中を湿らせる。甘いミルクで満たされたそこに、大豆原料の栄養食品を放り込めば、じんわりと大豆の甘みが広がる。
昔からきなこが好きな私にとって『SOYJOY』はお気に入りのおやつ。
カロリーも低いから安心してつまめる。
最高の栄養補助食品だ――。
「ばにら、ちょっといい?」
「ふぐぁっ⁉ えぐふぅっ⁉」
至福のおやつタイムに割り込んだ同期の声に、私はむせ返った。
変な所に入った大豆の粉を牛乳で流す。「大丈夫?」と尋ねてきたえるふに、「心配ないよ」と返したが、かなり焦った。
どうやら、三期生のボイスチャンネルから抜けるのを忘れていたようだ。
しかし、どうしたんだろう?
普段から深夜配信をしているえるふ。
たぶん配信終了後にスパチャ読みをすると思っていたのだが――。
「えるふ、アンタ今日はスパチャ読みはしなくていいの?」
「うん。明日に回そうかなって。それよりばにらと話したくって」
「ばに~らと? はにゃん?」
「うみから聞いたよ、ずんだ先輩との関係について」
アイツ……!
美月さんとのことは内緒にって頼んだのに!
なに同期にバラしとんじゃ!
うみへの怒りに『SOYJOY』の銀紙を握り潰す。
その音をマイクが拾ったのだろう、えるふが「ちがうちがう!」と声を荒らげた。
「うみが私に相談してきたの! ばにらとずんだ先輩の関係を心配して!」
「心配? なんでうみが?」
「そりゃ同期だもの心配するでしょ。それでなくてもうみは責任感が強いから……」
「大きなお世話バニなぁ。まったくもう」
「こら! 自分のことを心配してくれる人に、そういうこと言わない! そこは感謝しなくちゃ! 友達なくすよ?」
えるふがいつもの口調で釘を刺す。
同期きっての人格者で常識人の言葉は重たい。
まぁ、たしかにうみにはずっと相談に乗ってもらっていた。
そしてその内容を、今まで彼女は他に漏らすことはなかった。
軽々しく彼女が「人の大事な秘密」を話さないのは知っている。
それでもえるふに、美月さんとのことを話したということは――彼女だけでは抱えきれなかったのかもしれない。
怒った矢先だが、同期に多大な心労をかけていたことを心苦しく思った。
ほんと、私は自分のことばっかりだな――。
「うみが言うにはさ、アンタみたいな感じになって、拗れちゃった娘をいっぱい見てるから、心配なんだって」
「それ、前にうみから私も聞いた。けど、私とずんだ先輩は……」
「ビジネス百合で済まないんでしょ? 週一で宅呑みしてるなんて相当だと思うよ。しかも、二人っきりなんだよね? どうして他のメンバーを呼ばないの? 呑みたいだけなら、別に他に人がいてもいいよね?」
「…………それは」
「ね? それがもう答えじゃない。ばにらの中でずんだ先輩は、それくらい大きな存在になってるの。彼女との時間を誰にも邪魔されたくない――って思うくらいに」
何も反論できなかった。
優しい口調で彼女は話を続ける。
「私にうみが相談したのはね、たぶんしのぎと同棲してるからだと思う」
「しのぎと?」
「私もしのぎとの関係を弄られてるからね」
えるふとしのぎが同棲しているのはオープンにしている情報だ。
彼女たちは、元は地方を拠点に活動していた配信者で、DStarsへの所属が決まり上京した。その際に「お金が貯まるまで、同棲しない?」と、えるふから話を持ちかけ、しのぎが了承し、二人で部屋を借りたのだ。
お互いの将来のための同棲。
恋愛感情だとか複雑な感情は一切なかった。
けれども、いざ一緒に暮らしはじめてみるとウマが合ったのだろう。
二人は三期生内でも屈指の「名コンビ」――いや、もはや「名カップル」となり、たちまち「えるしの」という名称で親しまれるようになった。
半年を待たずして、二人は「実は同棲していること」を公表し、カップリングを楽しんでいるリスナーたちを喜ばせることになる。
つまり、えるふとしのぎは――私と美月さんの一歩先を行く百合なのだ。
うみが相談相手に選ぶのも納得だ。
そして、えるふが私にわざわざ連絡してきたということは――先達として言いたいことがあるんだろう。
同期のおせっかいに胸焼けしそう。
けど、なんだかんだでありがたい。
「うみには、当人同士のことだから外野が言ってもしかたないよ、って説明しておいた。今後、うるさく言ってくることはないと思う。だから安心して」
「……そっか、ありがと」
「その上で、私からもアドバイスをするね」
「アドバイス?」
「あんまり『自分の気持ち』を押し殺さないこと。うみが『束縛しちゃダメ』って、アドバイスしたらしいけど――『束縛』と『自分の気持ち』は別だからね?」
どういう意味だろうか?
美月さんとりんご先輩が仲良くする姿を前に、「イチャイチャしないで欲しい!」と思ってしまうのは、やっぱり『束縛』なんじゃないだろうか? 『自分の気持ち』とそれは、同じじゃないのか?
沈黙する私に、えるふがスピーカー越しに温かな笑い声をかけてきた。「分からないなら、今はそれで大丈夫だよ」と言うと――。
「私たちは大人だからさ。どうするかは自分で決めないと……ね?」
彼女は私にそう念を押した。
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頼りになる同期生その2。五十鈴えるふがここで登場。
フッ軽で同期生の間をうまく取り持つうみですが、ちょっと根深い問題になると、対応できなくなってしまう――ちょっとポンコツな所があったりします。
そういう時にそっと代わりに出てくるのが、三期生で一番まともで、一番常識人で、一番苦労人で、一番やさしいエルフだったりするのです。そして、恩に着せることもなく颯爽とさっていく。なかなかできることじゃありませんね。
どうするかは自分で決める。えるふが投げかけた言葉の真意は。そしてばにらはどういう決断をするのか。『束縛』と『自分の気持ち』の違いがなんなのか、気になるという方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m




