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朝から落ち着きなく、部屋の窓辺とソファーの行ったり来たりを繰り返す。
そんな私を何も言わずに真顔で見ているミアが怖い……。
でも、仕方ないじゃない?
だって、ついに、サミュエル様がっ!
我が家へ、両親に、挨拶にみえるのですものっ!!
夢にまで見た『娘さんを下さい!』というやつですね。
無事に両親からOKが出れば、私はサミュエル様の婚約者に。
そして卒業後はサミュエル様のお嫁さんっ!
あああああああああ、夢ならば覚めないでっっ!!
頬に手を当ててニカッと笑ったところで、今までで一番残念なものを見る目でこちらを見ているミアと目が合った。
『いつもいつも残念なものを見せてしまって、ごめんなさい』と心の中で謝罪し、大人しくソファーに腰掛ける。
浮かれポンチになりすぎていた自覚があるので、少しだけ反省。
お昼前になり、ついにサミュエル様の乗った馬車が我が家に到着しました。
応接室へと案内され、今頃サミュエル様は緊張しながらお父様とお母様を待っているのかしら?
私はお父様に呼ばれるまで応接室に行くことが出来ず、自室で待機中なので、先ほど以上に落ち着きがなくなり、立ったり座ったりを繰り返す。
テーブルにお気に入りのティーカップに淹れられたハーブティーが置かれた。
「お嬢様、落ち着いてお座りになって下さい」
なぜだろう? 『鬱陶しいから座ってて』って聞こえる気がする。
「……ありがとう」
私は小さく呟いて、そのハーブティーに口つけた。
ほんのりと立ち上る香りに、少しだけ気持ちが落ち着く。
そんな私の様子にミアが少しだけ口角を上げて優しく微笑んだ気がした。
◇◇◇
「失礼致します」
ようやくお父様に呼ばれて応接室へと向かえば、両親と可愛い可愛い弟が真面目な顔でサミュエル様と向かい合っていた。
私はゆっくりとサミュエル様の隣に腰を下ろす。
若干緊張してるみたい?
座っていても目線が私よりも高いサミュエル様を見上げれば、彼は『大丈夫だよ』というように微笑んでくれた。
私もサミュエル様がいて下されば安心ですという想いを込めて微笑み返す。
そんな二人のやり取りを見ていたお父様が、
「あ~、コホン」
と、わざとらしい咳をしたことで、サミュエル様の視線がお父様の方へと移動してしまった。
……もう少しサミュエル様の笑顔を見ていたかったのに、残念。
でも、キリッとした横顔も素敵!
サミュエル様が大きく息を吸い込み、話し出そうとしたその時。
お父様が『ストップ』と言うように彼の目の前に掌を突き出した。
「分かっとるから、もう何も言わなくていいからな!!」




