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「まあ、そうでしたの。生徒会長様もこんなに早い時間からいらっしゃって、随分と熱心ですのね」
にこやかに言っているが、これは『こんな朝早くから随分と生徒会長様も暇なのね?』と遠回しに嫌味を言っているのだろうなぁ、と思いながら生徒会長とマリー様のやり取りを見守る私。
「ええ、アビゲイル嬢はとても優秀な方だと伺っているのでね。是非ともその力を生徒会で発揮してもらおうとお誘いしているんだ」
何だろう、この攻略キャラの笑顔がとても嘘臭いんだけど。
マリー様も同じように感じたのか、先ほどよりも口角を上げた貼り付けたような笑みを浮かべた。
「ええ、アビゲイル様は大変優秀で人柄も良く、生徒会からお声が掛かるのも当然ですわね」
マリー様の言葉に思わず目を見開いて凝視してしまった。
買い被り過ぎでしょう。
それにそんなことを言ってしまったら、私の生徒会入りが決定してしまうのでは……?
「そうか。やはり君もそう思うか」
ほら、生徒会長が満足気に頷いているじゃない!
マリー様はそんな生徒会長に向けて「ええ」と答えてから一呼吸し、切羽詰まったような、懇願されるような表情を浮かべられ、胸の前で両手をギュッと握って。
「ですが、彼女の友人としての私からのお願いです。彼女をそっとしておいてあげてくれませんか?」
「え?」
生徒会長はまさかマリー様の口からも私の生徒会入りを否定されるとは思ってもいなかったようで、ポカンとした顔を晒している。
『この方のこんな顔を見られるのはきっと、最初で最後でしょうね』なんてどうでも良いことを思いながら、こちらをうかがっている生徒達と同じように、静かに生徒会長とマリー様のやり取りを見つめる。
「彼女はこの一年間、とても辛い想いをして来られましたわ。それは私がここで話さずとも、ご存知ですわね?」
生徒会長の癖に学園内のことを知らないわけないよね、と暗に言っているのだ。
生徒会長は眉間に少し皺を寄せて頷く。
「王家との婚約は契約ですわ。そのために血の滲むような努力をされ、それを全力で否定され続け、ようやくそれから解放されましたの。やっと自由になれたのですわ。……私は、アビゲイル様には今後、自分のために時間を使って幸せになって頂きたいのですわ。ですからっ!」
マリー様がクワッと目を見開き、真顔で生徒会長を凝視する。
それに生徒会長が怯んだのか、一歩だけだが後退りしたのを見逃しはしなかった。
「学園には他にも優秀な方が沢山おりますわ! ですからここは他の優秀な方にお任せして、生徒会長様も私と一緒にアビゲイル様の幸せを祈って下さいませんこと?」
コテッと可愛らしく首を傾げたマリー様は一見とても可愛らしく見えるけれど、生徒会長から見た彼女はきっとそうは見えないだろう。
何となく生徒会長にだけ、圧が掛かっている気がする。
端から見れば、可愛らしい女性からこんな風にお願いされて、それでも断って無理に勧誘など続ければ、生徒会長は完全な悪者になるだろう。
それを理解したのか、生徒会長は顔をひきつらせながら、
「……ああ。そうだな。気を回せなくて申し訳なかった。これからは自由に学園生活を楽しんでほしい」
そう言って、そそくさとどこかへ行ってしまった。
マリー様は私の方へと向き直ると、
「終わりましたわ」
ニッコリと今度は作られていない笑顔を浮かべていた。
マリー様、素晴らしい! グッジョブです!!




