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雲一つない爽やかな朝。
気持ち良く目覚め、こんな日は何か良いことがありそうと、いつもより少しだけ早く寮を出て教室へと向かったのだが。
……そんな予感は大外れだった模様。
「やあ、アビゲイル嬢。どうだろう? 考えてもらえただろうか」
朝から(私にとっては)無駄に爽やかな笑顔を浮かべ、教室の前に立っている生徒会長様。
まだ少し早い時間のために、廊下を歩く生徒の数は疎らではあるけれど、全くいないわけではない。
いったいこの彼は、いつからここで待っていたのだろう?
チラチラと横目にこちらを見ている者たちがいる。
私が生徒会長を待たせていたなどという噂をされてはたまらない。
「おはようございます。その件に関しましては先日お答えした通りですわ。せっかくこんな朝早くからいらして頂きましたのに、ご期待に添えず申し訳ございません」
申し訳なさそうに困ったように眉尻を下げて二度目のお断りを口にし、頭を下げる。
ゲームは無事終了したとはいえ、ここからはシナリオなしのリアルな世界が始まるのだろうから、私は敵を作らない『無敵』を目指していきたいのだ。
いちいち目の前の敵と闘っていては、敵のレベルが上がる一方。
ならば、新たな敵を作らず弱いままでいてくれた方が、こちらも助かるというもの。
せっかくこの学園に入学して一年間、悪役令嬢にならぬよう、嫌われぬようにひたすら頑張ってきたのだ。
卒業までのあと二年間も同様に、どうせならば気持ち良く学園生活を送りたい。
そのためにも、ここで攻略キャラである生徒会長と交流を持つことは遠慮させて頂きたい。
そんな私の気持ちを全くもって汲んでは頂けないようで。
「アビゲイル嬢は噂通り、とても奥ゆかしい方のようだね。心配しなくても大丈夫。他のメンバーがしっかりとフォローするので安心してほしい」
どこまでも明後日な返答が返ってくるのだけど、私にどうしろと?
あなたが諦めてくれたら、これ以上ないほどに安心出来ますよ?
登校する方が増えるのと同時に少しずつ人目も増え、万事休す! な、その時。
「アビゲイル様、おはようございます。こんなところでどうなさいましたの?」
マリー様が目の奥が笑っていない笑顔を浮かべている。
なんて素敵なタイミング。グッジョブ、神様、仏様、マリー様!
「マリー様、おはようございます。先日に引き続き、生徒会長様からお誘いを受けまして。只今お力添え出来ない旨をお伝えして、謝罪させて頂いておりましたの」
少しわざとらしいほどに説明調になってしまったが、マリー様にお答えする体で、こちらを見ている方々にも説明するつもりで言ったのだ。
これで諦めてもらえませんかね?




