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マリー様が一人で四阿へ戻ってきた。
先ほどマリー様と一緒に席を立たれたノア様が戻ってこないことに、
「ノア様は御一緒ではありませんの?」
とミランダ様が質問する。
「ええ、今は少し混乱されておられるようなので、しばらく放置の方向でよろしいかと。落ち着いて結論がでましたら、あちらからお見えになると思いますわ。……多分」
他国の王太子に放置って……流石はマリー様ですとしか言えません。
ノア様には本当に申し訳なく思っている反面、とても感謝している。
事実ノア様の明るさに救って頂いたことも、一度や二度ではなかったから。
私がオジサマ好きでなかったら、きっとノア様を好きになっていたと思う。
けれど私はオジサマ好きで、サミュエルが大好きで、それはきっとずっと変わらないことで……。
こんな私を好きだと言ってくれたノア様。ありがとうございます。
ノア様だけの素敵な女性と出会われることを、お祈りしております。
◇◇◇
お昼休憩を終えて教室へ戻ると、『アビゲイル』を待っている人がいた。
「あなたがアビゲイル嬢か?」
私の前に立っていたミランダ様へ声を掛けていたので、
「アビゲイルは私ですが」
と、一歩前へ出た。
そこには長身の優しげな目元の男性が立っていた。
アッシュグレーのストレートの髪に、青い瞳。
間違っても体育会系ではなさそうな、神父様っぽい雰囲気を醸し出しているその男性。
「大変失礼しました。私はジークバルト・オリバー。生徒会長をしております」
そう、最後の攻略キャラだったりする。
思わず「ゲッ」と言いそうになるのを耐えた私を誉めて欲しい。
必死に顔に出さぬようにし、
「アビゲイル・クラークですわ」
と微笑むが、ちゃんと笑えているだろうか?
笑顔がひきつっていないだろうか?
一体何故、攻略キャラ自らが悪役令嬢に会いに来るのだろう?
ヒロインはもういないし、ゲームはもう終わっているはず?
ならば、攻略キャラとかそんなのは無視してもいいのだろうか?
「あなたにお願いがありまして」
「わたくしにお願い……ですか?」
はて、何だろう? 思わず首をコテッと傾げて考える。
目の前の彼はフッと笑った。
「ええ、あなたに生徒会のメンバーに入って頂きたいのです」
「え?」
ゲームではアビゲイルに生徒会の勧誘などはなく、アビゲイルが一方的に生徒会室へ押し掛けて迷惑を掛けていただけだったのだ。
むしろ生徒会メンバーから邪魔者扱いされていたはずなんだけど……。
まあゲームは関係ないとして、生徒会とか面倒臭い。
そんな時間があるのなら、サミュエル様に会いに行きたい!
短時間で私の脳がそう弾き出したのでサクッとお断りしてしまおう。
「せっかくお誘い頂きましたが、わたくしでは力不足ですわ。申し訳ございません」
「え? お断り……?」
だから、何故そのように驚いた顔をしてるの?
断られるはずがないとでも思ってたの?




