8
「まずは『おめでとうございます』とでも言うべきですかね?」
「一応『ありがとう』と言っておこう」
そう答えれば、副団長はフンと鼻を鳴らした。
「状況を把握したいので、説明をお願いします」
隣には愛しい彼女が座っており、テーブルを挟んだ目の前には、マリー嬢とあと二人の令嬢が腰掛けている。
この状態で話をしろと?
壁に寄り掛かるようにして腕を組んで立っている副団長はニヤリという言葉がピッタリの笑顔を浮かべている。
こいつ、わざとだな。面白がっていやがる。
つい副団長を睨みつけていれば、マリー嬢が口を開く。
「私から説明させて頂いてもよろしいですか?」
つい「頼む」などと言ってしまったが、結果を言えばなぜ自分の口から説明しなかった!? と先ほどの自分を殴り倒したい気持ちになった。
マリー嬢はなぜそんなことまで知っているのだ? というほどに、細部にまでわたって説明をしてくれた。
私の精神はそれによってガリガリと削られていき頭を垂れていると、隣に座っていた彼女が膝の上に置かれた私の手を握り微笑む。
……ああ、癒される。
ふと視線を感じてそちらに目を向ければ、マリー嬢がこちらを見てニヤリと笑う。
この時私は思った。マリー嬢は間違いなく、副団長と同じ人種であると。
「こういう状況になりましたので、団長からクラーク侯爵様へのご挨拶はなるべく早めに済ませた方がよろしいかと存じますが、副団長様はどう思われますか?」
「そうですね。アビゲイル嬢には毎日のように結婚の申込みの手紙が届いているという話は有名ですからね。出来るだけ早く侯爵様からの了承を得て、さっさと婚約してしまうのが良いかと」
「侯爵様はアビゲイル様を溺愛されておりますから、骨の一本二本くらいは折られる覚悟で行きませんとね」
息ピッタリにそう言って笑う二人が悪魔に見える。
『アビゲイル様が許しても、彼女を傷付けたことを私は簡単には許しませんわよ。これで許されたなどと思わないで頂きたいものですわね』
そんな風に思うマリーと、
『脳筋な団長のお陰で散々苦労をさせられましたからねぇ。しばらくは私のストレス発散に彼女を利用させて頂くとしましょうか』
こんな風に考えている副団長。
数年後にこの二人がめでたくゴールインすることになるのは、まだ誰も、本人たちですら知らない。




