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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はオジサマに夢中です  作者: 翡翠
第九章 悪役令嬢アビゲイル・クラーク
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 意図せずかなりキツイ言い回しになってしまった。

 正直騎士達の士気が下がっているなんて言うのは、完全なる言いがかりだ。

 寧ろ彼女のお陰でやる気がみなぎっていると言っていいだろう。

 第二部隊隊長と副隊長は別だが。

 彼らは常に訓練を怠っている。

 今や彼らの実力は新人騎士以下と言っていいだろう。

 ……そんなことはどうでもいい。

 本当に、彼女にこんな強く言うつもりはなかった。

 これでは私が彼女を傷付けてしまっているではないか!

 現に彼女は大きな瞳に涙をうっすらと滲ませて、今にも泣き出すことを耐えるように、小さな手入れの行き届いた手できつくスカートを握りしめている。


「み、皆様、に……ご迷惑をお掛けしていたことにも気付かず、申し訳、ありませ……でした。し、失礼、致し、ます……」


 震える声で何とか言い切ると、礼をしてから顔を伏せるようにして走り出して行ってしまった。

 こんなはずではなかった。

 彼女を傷付ける気など、これっぽっちもなかった。

 彼女の笑顔を曇らせたくなくてやったはずが、傷付けて泣かせてしまった。

 思わず伸ばしかけた手を下ろし、拳をギュッと握る。

 爪が食い込んで掌に傷がついているだろうが、そんなことはどうでもいい。

 彼女と一緒にいたマリー嬢は、私を射殺(いころ)すような目で睨みつけてから、彼女の跡を追って行った。

 彼女の倍以上、そして彼女の親よりも長く生きてきたくせに、なぜもっと上手く立ち回れなかったのか。

 副団長のように頭のまわる者であったなら、こんな風に彼女を傷付けることなく解決出来ていたのだろうな……。

 尤も、あいつにそんな話をすればきっと『これだから脳筋は』と呆れたように目を細めて言うことだろう。

 ああしていれば、こうしていれば。なんて、たらればなことを考えたところで意味のないこと。

 彼女はきっと、もう二度とここに足を向けることはないだろう。

 傷付けてしまったことは不本意なことだが、今後はもう彼女が変な噂を流されることはないはずだ。

 そういった意味であれば、良かったではないか。

 何度も自分にそう言い聞かせた。

 それでも、到底納得など出来るものではなかったが。

 彼女の悲し気に伏せられた目が、傷付き震える指先が、私の脳裏にこびりついて離れない。

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