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意図せずかなりキツイ言い回しになってしまった。
正直騎士達の士気が下がっているなんて言うのは、完全なる言いがかりだ。
寧ろ彼女のお陰でやる気がみなぎっていると言っていいだろう。
第二部隊隊長と副隊長は別だが。
彼らは常に訓練を怠っている。
今や彼らの実力は新人騎士以下と言っていいだろう。
……そんなことはどうでもいい。
本当に、彼女にこんな強く言うつもりはなかった。
これでは私が彼女を傷付けてしまっているではないか!
現に彼女は大きな瞳に涙をうっすらと滲ませて、今にも泣き出すことを耐えるように、小さな手入れの行き届いた手できつくスカートを握りしめている。
「み、皆様、に……ご迷惑をお掛けしていたことにも気付かず、申し訳、ありませ……でした。し、失礼、致し、ます……」
震える声で何とか言い切ると、礼をしてから顔を伏せるようにして走り出して行ってしまった。
こんなはずではなかった。
彼女を傷付ける気など、これっぽっちもなかった。
彼女の笑顔を曇らせたくなくてやったはずが、傷付けて泣かせてしまった。
思わず伸ばしかけた手を下ろし、拳をギュッと握る。
爪が食い込んで掌に傷がついているだろうが、そんなことはどうでもいい。
彼女と一緒にいたマリー嬢は、私を射殺すような目で睨みつけてから、彼女の跡を追って行った。
彼女の倍以上、そして彼女の親よりも長く生きてきたくせに、なぜもっと上手く立ち回れなかったのか。
副団長のように頭のまわる者であったなら、こんな風に彼女を傷付けることなく解決出来ていたのだろうな……。
尤も、あいつにそんな話をすればきっと『これだから脳筋は』と呆れたように目を細めて言うことだろう。
ああしていれば、こうしていれば。なんて、たらればなことを考えたところで意味のないこと。
彼女はきっと、もう二度とここに足を向けることはないだろう。
傷付けてしまったことは不本意なことだが、今後はもう彼女が変な噂を流されることはないはずだ。
そういった意味であれば、良かったではないか。
何度も自分にそう言い聞かせた。
それでも、到底納得など出来るものではなかったが。
彼女の悲し気に伏せられた目が、傷付き震える指先が、私の脳裏にこびりついて離れない。




