2
訓練場内は隊員たちから発せられる熱気によって、外に比べて幾分か気温が高いように思う。
近くの者から手合わせの様子を見て、助言をしていく。
時には私も剣を交える。
うん、やはり体を動かすのは良い。
何人かに助言を終えた時。
「団長、手合わせをお願い致します」
そう言って来たのは、平民ながらなかなかの腕を持つローガンだった。
最近私が目をかけている騎士の一人である。
まだまだ粗削りではあるが、かなりの勢いで実力が上がってきている。
きっとそのうち私を抜かしてゆくことだろう。
剣を交えながら嬉しいような、寂しいような、何とも言えない気分になっていった。
そして、ここへ来て三十分が経ったのだろう。
副団長がタオルと水筒を持って現れた。
「団長、気分転換はもう終わりです」
私はそれを受け取り、タオルで汗を拭いながら水筒の水を一気に飲み干す。
近付いて来る者の気配を感じて振り返れば、そこにはよく見掛ける令嬢の姿があった。
確か先ほど手合わせをしたローガンの妹……で合っているはず。
「君は確か、ローガンの妹の……」
「マリーでございます。見学させて頂いておりました」
「そうか。いつも差し入れをありがとう」
間違っていなかったようで少しホッとする。
そして彼女の後ろにもう一人見掛けない令嬢がいたのだが。
「君は……」
こんなに美しい女性を見たことがないと言えるほどに、美しい容姿の令嬢だった。
この枯れている私が思わず見とれてしまうほどに。
彼女は若干緊張気味の笑顔を浮かべながら、
「お初にお目に掛かります。アビゲイル・クラークと申しましゅっ」
……盛大に噛んだ。
余ほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして涙目になりながら俯いてしまった。
そんな姿に、美しい容姿をもちながら中身はとても可愛らしい女性だと思った。
思わず彼女の頭に手を伸ばし、壊れものを扱うように優しく撫でる。
「初めまして、お嬢さん。近衛騎士団長のサミュエル・トレスです。むさ苦しいところだが、楽しんで頂けただろうか?」
「むさ苦しいだなんて……。皆様の真剣な姿に魅入っておりましたが……、あの、頭を撫でて頂くのは嬉しい……じゃなくてですね、子ども扱いは……」
口では子ども扱いは嫌だと言いながらも、頭を撫でると嬉しそうに微笑むアビゲイル嬢。
その可愛らしい姿につい声をたてて笑ってしまう。
「いやぁ、済まないね。つい可愛らしくてな」
彼女は恥ずかしそうにしながらも何かに気が付いたようで、
「あのっ、差し入れをお待ちしましたので、よろしければ皆様でお召し上がり下さい」
と、バスケットを渡された。
中身はクッキーのようだが、店で買ったものとは違うように感じた。
「これはもしかして君が作ってくれたのかな?」
「はいっ。味はミアの……私の侍女のお墨付きですわ」
バスケットからクッキーを一つ取り出し、口の中に放り込む。
「うん、美味いな」
普通に旨かった。私の言葉に嬉しそうに微笑む姿がとても可愛らしくて。
「ありがとう。後で皆で頂くとするよ」
そう言って、また頭を撫でてしまった。




