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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はオジサマに夢中です  作者: 翡翠
第九章 悪役令嬢アビゲイル・クラーク
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2

 訓練場内は隊員たちから発せられる熱気によって、外に比べて幾分か気温が高いように思う。

 近くの者から手合わせの様子を見て、助言をしていく。

 時には私も剣を交える。

 うん、やはり体を動かすのは良い。

 何人かに助言を終えた時。


「団長、手合わせをお願い致します」


 そう言って来たのは、平民ながらなかなかの腕を持つローガンだった。

 最近私が目をかけている騎士の一人である。

 まだまだ粗削りではあるが、かなりの勢いで実力が上がってきている。

 きっとそのうち私を抜かしてゆくことだろう。

 剣を交えながら嬉しいような、寂しいような、何とも言えない気分になっていった。

 そして、ここへ来て三十分が経ったのだろう。

 副団長がタオルと水筒を持って現れた。


「団長、気分転換はもう終わりです」


 私はそれを受け取り、タオルで汗を拭いながら水筒の水を一気に飲み干す。

 近付いて来る者の気配を感じて振り返れば、そこにはよく見掛ける令嬢の姿があった。

 確か先ほど手合わせをしたローガンの妹……で合っているはず。


「君は確か、ローガンの妹の……」

「マリーでございます。見学させて頂いておりました」

「そうか。いつも差し入れをありがとう」


 間違っていなかったようで少しホッとする。

 そして彼女の後ろにもう一人見掛けない令嬢がいたのだが。


「君は……」


 こんなに美しい女性を見たことがないと言えるほどに、美しい容姿の令嬢だった。

 この枯れている私が思わず見とれてしまうほどに。

 彼女は若干緊張気味の笑顔を浮かべながら、


「お初にお目に掛かります。アビゲイル・クラークと申しましゅっ」


 ……盛大に噛んだ。

 余ほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして涙目になりながら俯いてしまった。

 そんな姿に、美しい容姿をもちながら中身はとても可愛らしい女性だと思った。

 思わず彼女の頭に手を伸ばし、壊れものを扱うように優しく撫でる。


「初めまして、お嬢さん。近衛騎士団長のサミュエル・トレスです。むさ苦しいところだが、楽しんで頂けただろうか?」

「むさ苦しいだなんて……。皆様の真剣な姿に魅入っておりましたが……、あの、頭を撫でて頂くのは嬉しい……じゃなくてですね、子ども扱いは……」


 口では子ども扱いは嫌だと言いながらも、頭を撫でると嬉しそうに微笑むアビゲイル嬢。

 その可愛らしい姿につい声をたてて笑ってしまう。


「いやぁ、済まないね。つい可愛らしくてな」


 彼女は恥ずかしそうにしながらも何かに気が付いたようで、


「あのっ、差し入れをお待ちしましたので、よろしければ皆様でお召し上がり下さい」


 と、バスケットを渡された。

 中身はクッキーのようだが、店で買ったものとは違うように感じた。


「これはもしかして君が作ってくれたのかな?」

「はいっ。味はミアの……私の侍女のお墨付きですわ」


 バスケットからクッキーを一つ取り出し、口の中に放り込む。


「うん、美味いな」


 普通に旨かった。私の言葉に嬉しそうに微笑む姿がとても可愛らしくて。


「ありがとう。後で皆で頂くとするよ」


 そう言って、また頭を撫でてしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この話で副団長になってるってことは前話のは誤字か、報告しておきますね。
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