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にわかに訓練場の入口が騒がしくなって、サミュエル様が姿を現した。
久し振りに拝見した顔には若干疲れが浮かんでいるが、アビゲイルフィルターにはそれすら凛々しく男前に見えているのである。
団長は副団長と何やら話しながら入って来られ、その後も次々と騎士たちに囲まれ、どうやらアビゲイルたちが来ていることには気付いていないようである。
そしてそのまま騎士達に混じって訓練を始められたのだ。
流石に訓練場内の人目の多い場所で話掛けることなど出来ないので、団長に気付かれぬようにそっと訓練場を出る。
アビゲイルは入口のすぐ側で、団長が出てくるのを待つことにした。
マリー達には悪いが、何人もで団長一人を囲むような真似はしたくなかったために、少し離れたところで待ってもらうようにお願いした。
どれくらいの時間が流れたのか、長かったようにも短かったようにも感じる。
前世と今生を合わせてもうすぐ三十四年、もうすぐ人生初の告白をする予定だ。
失恋しても、恋人になっても、どちらに転んでも初めての経験になるわけね。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、訓練を終えた団長が出て来られた。
そして私の姿を目にして、驚いたような顔をしている。
ああ、そんな顔をされても可愛いと思ってしまう私は、もう重症ね。
私はゆっくりと、重い足を一歩一歩前へと運び、彼の元へ。
「お久しぶりでございます」
緊張で少し声が上ずって震えているのが、自分でも分かる。
サミュエル様は困ったような顔をされながらも、答えてくれた。
「ああ、君は少し痩せたようだが、体調は大丈夫なのか?」
「そうですわね、色々、ありましたから……。ですが体調は大丈夫ですわ。サミュエル様こそ、少しお疲れなのでは?」
「このところバタバタしていてね、だがこれくらいどうってことはないさ」
「あまり御無理はされないでくださいませね」
「ああ」
王宮内もライアン様の王籍剥奪で色々と大変なようで、近衛騎士団もきっとその関係で忙しいのだろう。
ここで会話が止まってしまった。
次に何を話せばいいか、考えるが出て来ない。
長い沈黙の後、サミュエル様が口を開く。
「君も色々大変だったらしいね」
これはライアン様との婚約破棄騒動のことを言っているのだろうな、と何処か他人事のように聞いている自分がいた。
「……そうですね。大変でしたが、やっと、自由になることが出来ましたわ」
「自由に?」
「ええ。やっと、自分の想いを口にすることが出来るようになりました」
「……」
私は息を大きく吸い込み、覚悟を決めて。
「私は、サミュエル様のことを、一人の男性として、お慕いしております」




