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一歩一歩がまるで、足に鉄の重りがつけられているように重く感じる。
すれ違う騎士の方たちと挨拶を交わすも、私は今うまく笑えているだろうか?
それすらも分からないほどに、緊張し過ぎて感覚が麻痺してしまっている。
気を抜くと、右手と左手を一緒に出して歩いてしまいそう。
それってロボット歩きって言うんだったかしら?
それとも武士歩きだったかしら?
いえ、そんなことはどうでもいいのだわ。
ううう……口から心臓吐きそう。
落ち着け〜、落ち着け〜。
最早怪しさ満点の不審者の如く。
「アビゲイル様、大丈夫ですか? 少し休まれてから行かれますか?」
「いえ、大丈夫ですわ。時間が経てば経つほどに緊張は増しますから、チャッチャと済ませてしまいましょう」
「いえ、あの。チャッチャとって……」
今歩みを止めたら二度と動けなくなりそうな気がして、必死で一歩ずつ前へと足を運ぶ。
緊張のし過ぎで、口の中がカラカラに乾いてしまっている。
そして、漸く訓練場の入口が見えて来た。
中では刃を潰した剣を使っての激しい訓練を行っているのか、金属音が聞こえてくる。
一歩一歩、入口に近付く度に大きくなる心臓の音。
深呼吸を三度繰り返し、拳に力を込める。
……よしっ。
入口の前に立てば、中では騎士たちが真剣な顔で訓練を続けている。
邪魔にならぬように、静かに階段状の席へと移動した。
サミュエル様は、まだ来ていないようである。
会いたいのに会いたくないという、相対する気持ちに必死で蓋をする。
こういう時こそ冷静にならなければ。
前世の記憶があるとはいえ、こちらの世界でも貴族の令嬢として何があっても顔に出さぬよう、常に冷静に笑顔でいるように散々教え込まれたではないか。
大丈夫、私なら出来る。
たとえどんな結果になろうとも、みっともない姿をサミュエル様に晒すことだけはないように。
せめて彼の中で、私の記憶が悪いものにならないように。
それだけを願い、彼が来るのを待つ。
恋愛スキルの低〜い自分には難しいことは出来ないから、もうシンプルに行かせて頂きますよ?




