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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はオジサマに夢中です  作者: 翡翠
第八章 近衛騎士団長サミュエル・トレス様
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6

 一歩一歩がまるで、足に鉄の重りがつけられているように重く感じる。

 すれ違う騎士の方たちと挨拶を交わすも、私は今うまく笑えているだろうか?

 それすらも分からないほどに、緊張し過ぎて感覚が麻痺してしまっている。

 気を抜くと、右手と左手を一緒に出して歩いてしまいそう。

 それってロボット歩きって言うんだったかしら?

 それとも武士歩きだったかしら?

 いえ、そんなことはどうでもいいのだわ。

 ううう……口から心臓吐きそう。

 落ち着け〜、落ち着け〜。

 最早怪しさ満点の不審者の如く。


「アビゲイル様、大丈夫ですか? 少し休まれてから行かれますか?」

「いえ、大丈夫ですわ。時間が経てば経つほどに緊張は増しますから、チャッチャと済ませてしまいましょう」

「いえ、あの。チャッチャとって……」


 今歩みを止めたら二度と動けなくなりそうな気がして、必死で一歩ずつ前へと足を運ぶ。

 緊張のし過ぎで、口の中がカラカラに乾いてしまっている。

 そして、漸く訓練場の入口が見えて来た。

 中では刃を潰した剣を使っての激しい訓練を行っているのか、金属音が聞こえてくる。

 一歩一歩、入口に近付く度に大きくなる心臓の音。

 深呼吸を三度繰り返し、拳に力を込める。

 ……よしっ。

 入口の前に立てば、中では騎士たちが真剣な顔で訓練を続けている。

 邪魔にならぬように、静かに階段状の席へと移動した。

 サミュエル様は、まだ来ていないようである。

 会いたいのに会いたくないという、相対する気持ちに必死で蓋をする。

 こういう時こそ冷静にならなければ。

 前世の記憶があるとはいえ、こちらの世界でも貴族の令嬢として何があっても顔に出さぬよう、常に冷静に笑顔でいるように散々教え込まれたではないか。

 大丈夫、(アビゲイル)なら出来る。

 たとえどんな結果になろうとも、みっともない姿をサミュエル様に晒すことだけはないように。

 せめて彼の中で、私の記憶が悪いものにならないように。

 それだけを願い、彼が来るのを待つ。

 恋愛スキルの低〜い自分には難しいことは出来ないから、もうシンプルに行かせて頂きますよ?

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