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「会いに行っても……」
「ええ、アビゲイル様はやっとクズから解放されて、自由になったんですわ」
……会いに、行く? 自由? 本当に?
本心は彼に会いたい。会いたくて会いたくてたまらない。
けれども、彼の口からもし否定の言葉が出てきたら? そう考えると怖くて、怖くて、会いに行きたくても行けない。
アビゲイルは力なく首を横に振る。
「……会いたいですわ。とても。けれど、無理ですわ」
「何故ですか?」
「怖いんですの。他の誰に否定されても耐えられますわ。けれども、彼にだけは、サミュエル様にだけは……。もし彼の口からまた否定の言葉が出たらと思うと、私……」
サミュエル様の口から再度「二度と来ないでくれ」と言われる姿を想像して、思わず自分で自分の体を抱き締めてしまう。
そして自分の体が小さく震えていることに気が付いた。
ああ、私はこんなにもサミュエル様のことを想っていたのかと。
彼に否定されることにこんなにも怯えてしまうほどに。
◇◇◇
その余りにも傷付いたであろう姿に、マリー達も何も言えなかった。
そしてランチの時間は過ぎ、放課後。
アビゲイルを除いたマリー、ミランダ、ミレーヌの三人は、女子寮のマリーの部屋で作戦会議を開いていた。
「私、もう耐えられませんわ! あのように傷付いたアビゲイル様の姿が痛々しくて……」
ミレーヌが涙目でそう言えば、ミランダも頷く。
「婚約破棄を目標にしている時はそれに集中して忘れることが出来たのでしょうが、目標が達成されてしまった今、ゆっくり考える時間がある分色々と考えてしまうのでしょうね」
皆が合わせたようにフウと小さく一つ、ため息をつく。
あの後から、アビゲイルは明らかに元気がなくなっていたのだ。
とは言っても、他のクラスメートたちは気付いていないだろう。
アビゲイルとずっと一緒にいたマリーたちだからこそ、気が付けたといえるのだ。
「どうにかして二人を会わせて、団長に当時のことを謝罪させたいですわね」
ミランダがそうポツリと漏らせば、マリーが口の端を上げてニイッと悪い笑顔を作る。
「では、二人を会わせましょう。当日の団長のスケジュールなどは兄に確認致しますわ。そしてしっかり団長からアビゲイル様に謝罪をして頂きます! いえ、させます! いつまでもアビゲイル様にあんな顔をさせられませんわ! 何より私が彼女のあんな悲しそうな顔を見たくありませんもの」
「ええ、そうですわね。アビゲイル様には、笑顔でいてほしいですわ」
「ですが、どうやってお二人を引き合わせますの?」
「それは…………」




