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「そろそろお兄様に会いに行こうと思いますわ」
始業式も済ませ通常通りの授業が始まり、いつものように四阿でゆったりランチを楽しんでいる時に、マリー様が言った。
因みに今日はノア様は用事があるそうで、ランチには参加していない。
「あら、では私たちもまた一緒に見学させて頂いてもよろしいかしら?」
ミランダ様が笑顔で便乗しているけれど、騎士の訓練がそんなに気に入ったのかしら?
確かに前回一緒に行かれた時は、ミレーヌ様と一緒に真剣に見学されていた。
学生同士の訓練と違い、騎士の方たちの訓練は気迫が違うから、見応えはかなりあるものね。
「ええ、ぜひ。ミレーヌ様もご一緒でよろしいですわね?」
「ええ、楽しみですわ」
「アビゲイル様もご一緒でよろしいですわね」
マリー様が有無を言わさぬ眩しい笑顔でそう言ってきたけれど。
私はサミュエル様からもう来ないで欲しいと言われている身なのに、行けるわけがない。
だから気が付かない振りをして、欠席の旨を伝えた。
「私は……遠慮させて頂きますわ。皆様で楽しんで来て下さいませ」
自分で言っておきながらとても悲しい気持ちになるものの、顔に出さないように笑顔で頑張った。
頑張ったけれど、マリー様たちにはそんなのお見通しだったみたい。
「アビゲイル様? 団長様に言われたことをまだ気にしておられますの? あれは脳筋な団長の言葉足らずが原因の誤解ですのよ? あの頃はまだアビゲイル様にはクズな名前だけの婚約者がいましたから、変な噂が流れないように考慮した結果が、あの残念な言い回しになっただけですのよ? アビゲイル様は悪くありませんし、クズとはキッパリサッパリ縁が切れておりますから、堂々とされてればいいんです!!」
マリー様、脳筋な団長って……。
それにライアン様に至ってはただのクズ扱い。
彼には思うところが多々あれど、私は婚約破棄さえしてもらえたら良かったので、まさかの王籍剥奪は少しというか、かなりお気の毒な気が……。
もう会うことはないと思うけれど、どうかシャルロット様と幸せになってほしい。
いや、好きな人の側にいられるのだから、もうすでに幸せなのか?
その意味で幸せじゃないのは私の方じゃない!?
『来ないでくれ』って本人に言われているんだもの。
フラッシュバックのように、あの時のサミュエル様が何度も脳内再生される。
「ですが、あの時言われましたのは私がいては訓練の妨げになると……」
「ですから、それが間違いなんですわ! アビゲイル様がおられた方が少しでも格好の良いところを見せようと、騎士たちも張り切って訓練されておりますわ。あれは団長の言い掛かりなんです! 変な噂を流されないように、アビゲイル様を遠ざけようと思ってあんなことを言っただけなんです! もうあなたは婚約者もいないただの侯爵家の御令嬢なんですから、堂々と会いに行かれてもいいんですよ!」




