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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はオジサマに夢中です  作者: 翡翠
第八章 近衛騎士団長サミュエル・トレス様
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1

 婚約破棄騒動からひと月ほど経ち。

 明後日から新学期、高等部二年生になるアビゲイル。

 無事に破滅ルートを回避出来たようで、ホッと胸を撫で下ろすが……。

 あれからクラーク侯爵家には、婚約の申し込みが殺到しているのだ。

 本来であれば婚約破棄された令嬢というものは、何か欠陥があるのではないかと疑われ敬遠されるなど、事故物件扱いの悲惨なものなのだが。


 元王子による学園内での傍若無人な振る舞いや、一方的に罪をなすりつけての婚約破棄騒動後の王籍剥奪。

 今までにない、大スキャンダルである。

 噂好きの貴族にとって、こんなに美味しい話題はない。

 その事実はパーティーの翌日(王子の王籍剥奪後)にはあっという間に拡散することとなった。

 だがなぜそれまで元王子とシャルロットの噂が学園外へ出ることがなかったのか。

 それは王子が王子であったためとしか言えぬであろう。

 ヘタに王家にとって都合の悪い噂を広めたとなれば、仮にもしそれが事実だったとしても、不敬罪として罰せられる場合があるのだ。

 それ以上広めないための見せしめとして。

 場合によっては本人だけでなく、家族や親戚も巻き込んで。

 そのため王子が王籍を剥奪され平民となるまでは、学園内だけで留めていたに過ぎない。

 そんな噂の中でも、アビゲイルは完全なる被害者として伝わっていたようなのだ。

 これは日頃の努力の賜物と言っていいだろう。

 侯爵家との縁を繋ぎたいという思惑もあるだろうが、上は六十七歳から下は十三歳までの者たちによる婚約申し込みが殺到する事態となっているのだ。

 そして……。


「アビー? この前にも言ったが、無理に婚約などせずとも、ずっとここに居てくれていいんだよ?」


 先日の婚約破棄騒動から、父が今まで以上に過保護になった。

 学園に入るまでのアビゲイルは、両親に散々甘やかされたお陰で、結構な我儘お嬢様であったのだが。

 両親やお屋敷の使用人たちも皆、全寮制の学園に入ったことで我慢することを覚えて帰って来たと思っているようである。

 勘違いしていてくれた方がこちらとしても都合が良いので、訂正せずに放置することにしたのだ。

 ミアには色々と醜態を晒してしまっているが、一人でよくやってくれていたので、今までに何度かお父様に給料アップをお願いしてあるので、かなりの高給取りとなっていることだろう。

 若干口止料的な思惑もなくはないけれども。

 今もアビゲイルの荷物を忙しく纏めている最中である。

 明日から寮へ戻るためだ。

 婚約破棄騒動も春休みを間に挟んだお陰で、多少はマシになっているはずだ。

 社交界の方も、本人から話を聞こうと目を光らせているであろうことが簡単に想像出来るため、現在全てのパーティーやお茶会を欠席している。

 因みに元王子のライアンとシャルロットは自己都合で退学した模様。

 平民となったライアンには学園に通うためのお金を捻出することは出来ないだろうし、シャルロットも特待生として通っていたが、あれだけの騒動を起こせば特待生でいられるわけもなく。

 貴族の多く通うこの学園の授業料は高い。

 平民で通う者はマリーのように商売に成功している金持ちの子どもたちか、高い能力を認められた特待生のみである。

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