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急ぎ会場を出て、用意しておいた馬車に向かう。
そこには先回りしていてくれたマリー様、ミランダ様、ミレーヌ様がいた。
「うまくいきましたわ! 無事婚約破棄致しました!!」
私のこれ以上ないほどのテンションの高さに驚くことなく、皆で抱き合って喜びを分かち合う。
もう少しこの余韻に浸っていたいのは山々だけれど。
「アビゲイル様? 急いでお屋敷に戻り御当主様を丸め込……婚約破棄の顛末を説明しなければなりませんわ」
「そうね、何よりもお父様に納得して頂かなければなりませんわね!」
そう、この婚約破棄はお父様を納得させて、ようやく完了となるのだ。
アビゲイルは慌てて馬車に乗り込み、皆がエールをおくる。
本来であれば一年後に起こるはずだった婚約破棄騒動。
ゲームの内容とはだいぶ違ってしまっているけれど、無事に終わらせることが出来たならば、これからはゲームとは全く関係ない、自分の人生を歩んでいけるはずだ。
◇◇◇
突然帰ってきた愛娘の姿に驚くクラーク家当主にしてアビゲイルの父親であるジェイコブ・クラーク。
応接間へと場所を移し、アビゲイルは入学してから今までの経緯を話し出した。
話が進むにつれ、眉間のシワが深くなっていくジェイコブ。
そして話がついに今日の婚約破棄のことに及ぶと、怒りのあまりジェイコブの拳は固く握られ、血管が浮かび上がり、体は小刻みにプルプルと震えている。
「ライアン殿下の仰る威圧云々は本当に身に覚えがありませんが、それほどに好き合っておられるのであればと、婚約破棄を受け入れて参りました。勝手な判断をしまして、申し訳ございません」
深々と頭を下げる。
どんな形にしろ、お父様には少なからず迷惑を掛けることとなってしまう。
ジェイコブは自分を落ち着かせるため、大きく息をはきだした。
「頭を上げなさい。もともとこの婚約は私も望むものではなかったのだ。国王様側から『どうしても』と言われて仕方なく了承せざるを得なかったこと。……こうなるまで黙っていたことはアビゲイルにも非はあるが、こうなってしまえばあんなクズに嫁にやらずに済んで良かった。今更だが、私はアビゲイルの幸せを一番に願っているのだよ? 今後気の進まない結婚話は全て断っていいし、何なら結婚せずにずっとここに居ればいい。アビゲイル一人養うくらい全く負担になどならぬからな」
最後は豪快に笑いながら、アビゲイルの頭を乱暴に撫でまわす。
「お父様、ありがとうございます。大好きですわ」
その言葉に目尻を下げて喜ぶジェイコブであった。




