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イザヤ目線です。
「迷惑ですわ。こんなことは早々にお辞めになって下さいませ。貴方には貴方のやるべきことがあるのではないですか?」
俺のことを『井の中の蛙』だと苦言を呈してくれた彼女の口から発せられた言葉に愕然とした。
初めて彼女に会った時の俺は、周りの人間から『優秀』だの『天才』だのと持ち上げられ、無意識ではあったがきっと天狗になっていたのだろう。
元々剣術の稽古は好きだったから、毎日一人でも訓練を怠ることなく続けていけた。
授業で対戦する相手は当然同じ学園の生徒なわけで。
全く張り合いがなく、一方的過ぎて面白くもない。
そんな毎日に飽き飽きしていたのだと思う。
そんな時に突然現れた彼女に自分の弱点を簡単に言い当てられたのだ。
悔しさでつい「女がわかったような口を聞くな」などと暴言を吐いてしまい、『井の中の蛙』に繋がってしまったわけだが。
まさに目から鱗の言葉だった。
誰も俺にそんなことを言ってくれる人はいなかったのだから。
彼女に何かお礼がしたい。
目を覚まさせてくれた、恩人に。
でも俺は口がうまくないし、得意なことといったら剣術くらいで。
だから、彼女の護衛をさせてもらおうと思ったのだが、はっきり迷惑だと言われてしまった。
そしてーー。
「俺の、やるべきこと……?」
俺は、何をしたらいいんだ?
何が出来る?
分からずに考え込む俺を見て、彼女は大きく息を吐きながら至極面倒臭そうに言ったのだ。
「いつまで井戸の中に居られるつもりですの? それとも井戸から出るつもりはありませんの?」
「出られるものならば出たいが、どうすれば良いのか分からない」
広い海に出てみたいとは思うが、井戸ではこれ以上の訓練は望めないだろう。
「貴方のお父様は軍務大臣様でしたよね?」
「ああ、そうだが?」
それが何か? と聞こうとした瞬間に物凄い勢いで彼女は捲し立てたのだ。
「どうしてソレを使いませんの? 『使えるものは親でも使え』と言うでしょう? そこに最高の『コネ』があるのに使わないとか、貴方の頭は飾りですかっ? コネを使って騎士様たちの訓練に参加させて頂くとか、幾らでもやりようがありますわよね?」
『使えるものは親でも使え』など、聞いたことがないのだが。
それにコネなどと、そんなズルいやり方は……。




