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馬車の中は始終無言でキツかった……(遠い目)。
ようやく目的地へと到着した時には、やっと解放されると、無意識に安堵のため息を漏らしていた。
係の者にボックス席へと案内され、中に入ると椅子が六脚横並びに並んでいた。
そして今、左から順にミレーヌ様、ミランダ様、マリー様、ノア様、私、イザヤ様の順に腰掛けている。
「ノア様、チェンジで」
「却下だ」
ノア様が冷たい……。
仕方なく舞台のパンフレットを開くと、前世のような写真はなく、色も黒一色のただの説明書的な感じのものだった。
この世界には紙はあっても印刷技術はまだまだのようだ。
まず挨拶から始まり、出演者の紹介。
そして今回の演目のあらすじが書かれている。
ミランダ様たちはさっそく皆でキャッキャウフフして楽しそう……。
いいなぁ、私もあっち側に行きたい……。
防波堤が邪魔で行けないけど。
恨めしげな視線をノア様に向けるが、彼は静かにパンフレットに目を通していた。
仕方なく右側に座るイザヤ様に目を向けると、彼も静かにパンフレットに目を落としている。
諦めるように溜息を一つついてから再び大人しくパンフレットを見た。
『妖』と呼ばれるモノたちの中でも変わり者だと言われる妖が、ある日一人の人間に恋をする。
初めは怖がられ逃げられてしまうが、少しずつ二人の距離が縮まっていき、晴れて恋人に。
楽しい時間は長くは続かず、気付いた娘の両親によって娘は遠方の金持ちへと無理矢理嫁に出され、離れ離れに。
妖はそれでも娘を信じ続け、今もなお待ち続けている……といったお話のようだ。
私がパンフレットのあらすじを読み終えた丁度その時。
会場内の灯りが一斉に消え、それと同時に舞台へ照明が向けられると、スルスルと幕が上がっていく。
いよいよ話題の演目『妖』が始まる。
初めはおどろおどろしい音楽によって、妖が如何に恐ろしいモノかを強調していく。
そこへ主役の妖が登場すると、
「アリーヤ様ぁぁぁああ」
「アリーヤ様素敵〜」
「アリーヤ様アリーヤ様アリーヤ様ぁぁぁ」
と黄色い(叫び)声が飛び交い、ちょっと不快な気分になる。
黄色い声は直ぐにおさまったが、どうやらソレは人気の役者が初めて出てくるシーンのみに限定されているようだ。
まあ、毎回毎回やられたら舞台どころではないけれども、私としては出来れば舞台が始まったら全てそういうものはナシでお願いしたい。
だって、集中して観ていたいんだものっ!




