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……どうしてこうなった?
いよいよ週末になり、舞台が公演される劇場まで馬車で向かっているのだが……。
ノア様が手配をしてくれた馬車は、あまり目立たぬよう家紋などのないシンプルなものだが中のシートはとても座り心地が良く、外見と違ってとても贅沢な仕様であり、さすがだ。
馬車は四人乗り(御者は別)で乗り切れないので二台にわけ、ノア様とマリー様と私、そしてもう一台にミランダ様とミレーヌ様で行く予定だった。
だが、今私の横にはノア様が、そして私の目の前にはなぜか『イザヤ様』が座っている。
大事なのでもう一度。
私の目の前にはなぜかイザヤ様が、座っているのだ。
マリー様たち三人は、もう一台の馬車に乗っているのだ。
私もあっちに乗りたい……。
なぜ、こうなったのか。それは三十分ほど前に遡る。
◇◇◇
ノア様とは学園校舎前の車寄せで待ち合わせをしていたため、皆と寮から徒歩で向かうことに。
普段学園内では制服を着用しているけれど、週末のお出掛けの時は皆着飾って出掛けて行く姿をよく見掛け、今日は私たちが着飾って出掛ける立場である。
華美過ぎず、ちょっとよそ行きのお上品なワンピースで揃え、これから観る舞台についてアレコレと愉しげに話をしながら向かう。
訓練室の横を通り過ぎた辺りで、「そこの君、ちょっと待て」という声が。
待ってではなく、待て。
随分と偉そうな物言いだなぁ、なんて。
私たちは気にすることもなく愉しく話しながら進む。
なぜって、こんな偉そうなことを口にする知り合いなんていないし、私たちではないどなたかを呼んだのね、なんて。
……私たち以外に歩いている人はいないのだけれど。
そして歩き続ける私の右手をガシッと掴まれたのだ。
「待てと言っている」
訓練室の中から走って来たらしい彼、イザヤ様は眉間に皺を寄せて睨むようにしてこちらを見ている。
「あら、これは異なことを仰いますのね。待てだなどと、そんな失礼なことを仰るような友人など私の周りにはおりませんから、てっきりその辺りの犬猫でも呼んでいるのかと思いましたわ」
ニッコリ笑ってそう言えば、自分の言葉が如何に失礼だったかに気付いたらしく、ばつが悪そうな顔をする。
そして掴んでいた腕を離すと、「すまない」と謝罪の言葉を口にした。




