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どうやら私はサミュエル様に嫌われてしまったらしい。
彼に会えるかもしれないことに舞い上がっていたのは確かだし、自分では隊員の方々に迷惑にならぬように気を付けていたつもりでも、自分の気付かぬうちに、大失態をやらかしてしまったのかもしれない。
恋だと気付いた途端に嫌われるとか、もう、ね……。
前世から、サミュエル様が『好き』だった。
今思うと、それは熱烈なファンの意味の『好き』だったのだと思う。
この世界に転生して、ゲームなどではない本物の彼に会って、私の想いは恋に変わった。
私の初めての恋。
そう、恋愛においては『超』のつく初心者だから、何をどうしたら良いのか分からない。
でも、好きな人から嫌われたり嫌がられたりするのって、本当に辛いなぁ。
好きになって貰えなかったとしても、せめて嫌われたくはない。
『恋』というのは、楽しいだけではないものだということを十六歳(前世と足すと三十三歳)にして初めて知りました。
……なんて、悲劇のヒロイン気取ってる暇など私にはないんだったぁぁぁぁぁあっ!!!!
大好きな生サミュエル様に会えるということに浮かれて大っっっ事なことを忘れていたけど、私ってば『悪役令嬢としての破滅ルート回避』に全力を注がなきゃいけないんじゃなかった?
なぁぁに呑気に恋とかしちゃってるんだよ、私!
そんなのは婚約解消して、無事に破滅ルートを回避出来てからゆっくり考えればいいのよっ!!
そうよ、破滅ルートを回避出来なければ恋どころか僻地で悲惨な生涯を終える事になっちゃうのよ!?
命あっての物種でしょうよ。
そんな大事な時に、本っっっ当に何やってるんだ、私。
頬を両手でパーンと叩き、
「……よし、初心に戻って破滅ルート回避に全力を尽くすわよ!」
握った拳を天井に向けて掲げたその時、部屋の扉を開けたミアにバッチリと見られ、そして彼女は残念なモノを見る眼差しで私を見た後、ゆっくりと扉を閉めたのだ。
だから、そんな目で見るのはやめて!
真剣に考えていたからノックの音が聞こえなかったのだもの。
ていうか、なんでミアはいつもいつもタイミング良く私の痴態を目にするのよ!
いつもいつも私が痴態を晒しているみたいじゃない。
偶にしか晒さないわよ。……多分。
ひ、人前では晒さないわよ?
私の痴態を知っているのはミアだけなんだからっ。……多分。
コホン、さて。
方向さえ決まってしまえば、あとはどう向かって行くのかを考えていけばいいだけよね。
大切なのは、ライアン殿下との婚約を円満に解消すること。
私はライアン殿下とヒロインの敵ではなく(味方でも無いけど)、二人の恋を邪魔する存在ではないと認識させること。
よし、タイムリミットはライアン殿下の卒業パーティー。
破滅ルート回避に全力を注ぐためにも、しっかり食べてしっかり寝ないとね。
まずはミアを呼ぶ。
「軽食とお茶をお願い」
……頭使ったらお腹が空いたんだもの。




