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マリー目線です
アビゲイル様と近衛騎士団宿舎へ通うようになって早数ヶ月が経ち、彼女はすっかり近衛騎士たちに可愛がられている。
イケメン揃いと言われる近衛騎士団だけれど、皆アビゲイル様に良い所を見せたい一心で、彼女が訓練場で見学をする時にはこれまでに見たことがないほど真剣に訓練に励んでいる。
……全く、男というやつは。
初めて学園で彼女を目にした時、世の中にこんなにも美しい人間がいるのかと、とても驚いたことを覚えている。
可愛いもの、美しいものが大好きな私は、色々な場所で彼女を目にする度、『眼福』と満足していた。
いつからか縁あってこうして仲良くなり、一緒にいる時間が増えれば増えるほど、彼女の外見だけでなく人柄の良さがどんどんと見えてきて。
彼女とお友達になりたい人間は掃いて捨てるほどいても、彼女が心を許しているのは今のところミランダ様とミレーヌ様と私の三人だけだ。
……最近ちょっとお邪魔虫が湧いているけれど。
こんな素晴らしい婚約者がいるにもかかわらず、放置するあのクソ殿下(クソで十分だ)。
本人が何も言わないから私も大人しく黙っているけど、本心は腹わたが煮えくり返っている状態だ。
一体、アビゲイル様の何が不満だっての!
(殿下の)顔は確かに良いかもしれないけど、顔だけだから!
王子っていう肩書きがなければ、ただのイケメン。
いや、イケメンなんて言葉を使うのも腹立たしい。
クソ殿下なんかにアビゲイル様は、勿体なさすぎるんだからっ!!
「マリー様?どうかなさいました?」
アビゲイル様が小首を傾げつつ聞いてくる姿も可愛過ぎるっ!!
「いえ、なんでもありませんわ。騎士の方たちの訓練も終わりそうですし、そろそろお暇致しましょうか」
何とか平静を装いつつそう言えば、少し残念そうな顔をして「そうですわね」
と答える。
……彼女の瞳は、いつも近衛騎士団長を探している。
訓練場に団長様が姿を現した時のあの嬉しそうな顔、そして団長様に会えずに帰る時のあの寂しそうな顔。
完・全・に、恋する乙女だ。
父親ほども年齢の違う方にと最初は驚いたけれど、アビゲイル様の嬉しそうな、幸せそうな顔を見ていると、年齢のことはどうでも良くなって、何だか無性に応援したくなってくる。
団長様も、アビゲイル様をとても可愛がっているように見えるし、なかなか良い感じなのでは? と思ったこともあったのだけれど。
……最近、団長様の様子がおかしいのだ。
わざとアビゲイル様を避けているような、何というか余所余所しいような……。
多分周りは気付いてないと思うけれど、私の人間観察能力を舐めてもらっちゃあ困ります。
団長様は絶対に、アビゲイル様を避けている。
理由は全く分からないけれど。
アビゲイル様の寂しそうな顔など見たくないので、その辺はお兄様にしっかりと調べて頂かなくては、ね?
副団長様にご挨拶をし、差し入れを渡し、訓練場を出て直ぐの所で団長様とバッタリ出くわした。
アビゲイル様が嬉しそうな顔を団長様に向け、挨拶をしようとしたその時。
耳を疑うような言葉が団長様の口から発せられたのだ。




