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3

 私が泣き止んでから、場所を移して皆で昼食をとり、また応接室へと戻って来ました。

 今応接室の中には私とサミュエル様とミアだけです。

 婚約者といえども、未婚の男女が二人きりになるのは良いことではありません。

 使用人が同席するか、又は扉を開けた状態にするのが常識とされています。

 ミアは紅茶を淹れると、部屋の隅へと移動した。


「幸せ過ぎて怖いなんて、まさか自分がそんな台詞を口にする時が来るなんて……」

「幸せなのに、何が怖いんだい?」

「怖いというか、ただ不安で」

「何に不安になっているのか聞いても?」

「例えばサミュエル様が心変わりを……」


 あれ? 何でそんな怖い顔をされてるの?


「あ、あの、サミュエル様? そんなに怖いお顔をされて、どうされ……」

「あなたは、私が心変わりするような、そんな男だと思っておられるのか?」

「え? あの、その、ち、近いです……」


 ソファーに隣あって座っていたのだけれど、サミュエル様が私の方へ前のめりになって来られるので、少しずつ横に移動するうちに、直ぐに肘掛けに背中がついてしまいました。

 これ以上は移動出来ない状態で、サミュエル様が目が笑っていない笑みを浮かべて、更に迫ってくる。


「そんなに私は信用ならないですか?」


 肘掛けを気にしてチラチラ後ろを見ていれば、サミュエル様のそんな台詞が聞こえ、慌てて視線を彼に戻す。

 その目には傷付いたような、悲しいような色が浮かんでいて。

 信用出来ないなんて、そんなわけない!

 ゲームのことは言えないから、きちんと説明することが出来ないけれど、サミュエル様を傷付けたかったわけじゃない。


「ちが、違いますっ! 決してサミュエル様を信用していないわけではないんです。これは、ただ、余り幸せ過ぎると、神様も意地悪したくなるのではないか、と思っただけで……」


 必死に言いわけしていれば、ミアがいる方向から『プッ』という吹き出すような音が聞こえた気がした。

 ミアは私たちがいるのと反対の方へ顔を向けているけれど、肩が小刻みに震えているように見える。

 それに、サミュエル様も下を向いて、何やらこちらも震えているように見えるのだけど。


「サミュエル様?」


 私が声を掛けると、彼は声を上げて笑い出したのだ。

 ミアも釣られたように笑っている。

 ミアが声を立てて笑うのを初めて見た。

 ……じゃなくて。


「何ですの、もう! 二人してなぜそんなに笑っておられますの?」


 少しむくれたように言えば、サミュエル様は目を細めて愛しそうに私を見ながら頭を撫でる。


「幸せ過ぎて神様が意地悪するとか、そんな可愛らしいことを言われてしまっては、ね」

「もう、子ども扱いは嫌だと申しましたのに」


 そう言いながらも、本当は彼に撫でられるのが好きなのだ。

 

「そうだな。あなたは子どもではないな」


 サミュエル様の顔が近付いてきて、唇に柔らかい感触がしたと思ったら、すぐに離れていく。

 ……え? 今の、もしかして、キス?

 そう思った途端に、カアッと顔に熱が集中するのが分かった。

 きっと今、私の顔は、今までにないほどに真っ赤になっているだろう。


「あうぅ……」


 余りの恥ずかしさに両手で顔を覆う私を、サミュエル様がギュッと抱きしめた。


「あなたが可愛過ぎるので、私は我慢するのが大変なんですよ?」


 耳元で囁かれ、座っているけれど腰が砕けるかと思った!

 本当にもう、幸せ過ぎるっ!!

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