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私が泣き止んでから、場所を移して皆で昼食をとり、また応接室へと戻って来ました。
今応接室の中には私とサミュエル様とミアだけです。
婚約者といえども、未婚の男女が二人きりになるのは良いことではありません。
使用人が同席するか、又は扉を開けた状態にするのが常識とされています。
ミアは紅茶を淹れると、部屋の隅へと移動した。
「幸せ過ぎて怖いなんて、まさか自分がそんな台詞を口にする時が来るなんて……」
「幸せなのに、何が怖いんだい?」
「怖いというか、ただ不安で」
「何に不安になっているのか聞いても?」
「例えばサミュエル様が心変わりを……」
あれ? 何でそんな怖い顔をされてるの?
「あ、あの、サミュエル様? そんなに怖いお顔をされて、どうされ……」
「あなたは、私が心変わりするような、そんな男だと思っておられるのか?」
「え? あの、その、ち、近いです……」
ソファーに隣あって座っていたのだけれど、サミュエル様が私の方へ前のめりになって来られるので、少しずつ横に移動するうちに、直ぐに肘掛けに背中がついてしまいました。
これ以上は移動出来ない状態で、サミュエル様が目が笑っていない笑みを浮かべて、更に迫ってくる。
「そんなに私は信用ならないですか?」
肘掛けを気にしてチラチラ後ろを見ていれば、サミュエル様のそんな台詞が聞こえ、慌てて視線を彼に戻す。
その目には傷付いたような、悲しいような色が浮かんでいて。
信用出来ないなんて、そんなわけない!
ゲームのことは言えないから、きちんと説明することが出来ないけれど、サミュエル様を傷付けたかったわけじゃない。
「ちが、違いますっ! 決してサミュエル様を信用していないわけではないんです。これは、ただ、余り幸せ過ぎると、神様も意地悪したくなるのではないか、と思っただけで……」
必死に言いわけしていれば、ミアがいる方向から『プッ』という吹き出すような音が聞こえた気がした。
ミアは私たちがいるのと反対の方へ顔を向けているけれど、肩が小刻みに震えているように見える。
それに、サミュエル様も下を向いて、何やらこちらも震えているように見えるのだけど。
「サミュエル様?」
私が声を掛けると、彼は声を上げて笑い出したのだ。
ミアも釣られたように笑っている。
ミアが声を立てて笑うのを初めて見た。
……じゃなくて。
「何ですの、もう! 二人してなぜそんなに笑っておられますの?」
少しむくれたように言えば、サミュエル様は目を細めて愛しそうに私を見ながら頭を撫でる。
「幸せ過ぎて神様が意地悪するとか、そんな可愛らしいことを言われてしまっては、ね」
「もう、子ども扱いは嫌だと申しましたのに」
そう言いながらも、本当は彼に撫でられるのが好きなのだ。
「そうだな。あなたは子どもではないな」
サミュエル様の顔が近付いてきて、唇に柔らかい感触がしたと思ったら、すぐに離れていく。
……え? 今の、もしかして、キス?
そう思った途端に、カアッと顔に熱が集中するのが分かった。
きっと今、私の顔は、今までにないほどに真っ赤になっているだろう。
「あうぅ……」
余りの恥ずかしさに両手で顔を覆う私を、サミュエル様がギュッと抱きしめた。
「あなたが可愛過ぎるので、私は我慢するのが大変なんですよ?」
耳元で囁かれ、座っているけれど腰が砕けるかと思った!
本当にもう、幸せ過ぎるっ!!




