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46. これは輝かしい道の第一歩なんですから

 結界の中にはフォード王子を中心に、大勢の兵士たちが控えているのが見えます。

 フォード王子の隣には、カレイドル男爵令嬢が当たり前のよう顔で収まっていました、

 兵士たちは隙なくこちらの様子を伺っており、完全に犯罪者に対する扱いでした。

 


 ――私が逃げ出すとでも思っているのでしょうか



 結界内を見て、私は引きつった笑みを浮かべてしまいます。




「これを渡しておこう」


 そんな中、魔王様はまるで結界内のことなど視界にも入らない、とでもいうように切り出しました。

 取り出したのは、キラキラと輝く蒼色の結晶。



「……ヴァルフレア様、それは?」

「余が魔力を込めて作った魔道具だ。

 この宝玉を割ることで、少しの間だけ通話することができる」

「それは――便利ですね」


 私は結晶を受け取り、しげしげと眺めます。



「出来ればずっと効果のある物を渡したいのだが……。

 その結晶は、1回発動したら壊れてしまう――余の魔法の限界だ」


 私がアビーを助けて以降、私のことをときどき見守っていたという魔王様。

 そのように一方的に景色を見るのとは違い、双方向に声を届けるというのは非常に高度な魔法であり、緻密な魔力の操作が必要らしいです。

 このようなものしか作れなかった、と悔しそうに言いました。



「いいえ、心強いです。

 魔王様が見ていると思えば、回りが敵だらけでも頑張れる気がします。

 この宝玉も最終手段として大事にしますね」


 大切なお守りです。

 私は宝玉を胸に抱いて、そう言いました。



「このようなことしか出来ず情けないな。

 魔族領で幸せになって欲しいと思っていたのに、結局はこんなことになってしまって。

 こういう時に、余は何と言えばよいのだろうな……」

「そんなことを言わないで下さい。

 これは輝かしい道の第一歩なんですから」


 これから敵しか居ない場所に戻るのだとしても。

 幸せな記憶を脳に刻み込むように――

 


「笑顔で送りだしてください。

 それだけで――私は頑張れますから」

「そうだな。

 フィーネ、また会える日を楽しみにしている」



 精一杯の笑顔を浮かべて見せた魔王様に見送られて。

 私はフォード王子たちをキッと睨み付け、歩き始めました。


「――行ってきます」




◇◆◇◆◇


 私が結界内に戻ると、こちらを警戒するように兵士たちが剣を向けてきました。


「か弱い令嬢相手に何を怯えているんですか。

 ……何もしませんよ」


 両手を上げて見せます。


 フォード王子を信じ切っているものだけを集めたのでしょうか。

 私が回復魔法しか使えないということは、フォード王子から聞いてるでしょうに。



「ねえ、フォード王子。

 わざわざ魔族領から私を呼び戻したんです。

 そんな風に兵士の陰に隠れてないで、こちらに来てくださいよ。

 ――そんなに私のことが恐ろしいんですか?」


 いけないいけない……。

 王子の顔を見ただけで、思わず皮肉を言ってしまいました。


「貴様っ! 国家反逆罪だけでは飽き足らず、我が主を侮辱するかっ!

 それだけで万死に値するっ!」

「あら? こんなところで私を殺して構わないんですか?」


 くっと悔しそうな表情を浮かべる兵士たち。

 フォード王子を守る兵士たちの質の低さが伺えます、

 そのような軽口に乗るようでは、あまりに直情的すぎるでしょう。


 激昂した兵士に内心はヒヤヒヤでしたが、あくまで余裕の表情を崩さず。

 フォード王子には、決して弱みを見せてはいけません。



「貴様は本当に忌々しい奴だな」

「お久しぶりですね、フォード王子。

 フィーネ・アレイドル、ただいま戻りました」


 やがて、心底憎らしいものを見るような目で。

 フォード王子とカレイドル男爵令嬢がこちらに向かって歩いて来たのでした。


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