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22. 私の魔族領1日目の生活は終わったのでした

「あら、この果実酒美味しいですね」


 まるでジュースのように甘いお酒。

 私がリリーネさんに進められるままに魔族領特産の果実酒を飲んでいると、


「宴会芸でリベンジしますぞ!」


 まずやってきたのは、ゾンビ門番のヴィル。

 そんなに悔しかったのでしょうか。

 できることなら、彼の一発芸は出来れば二度と見たくないところですが……。


「もう、復活したんですね。随分と早かったですね……」


 リリーネさんの冷たい目線を気にすることもなく。

 ついでに私からの冷たい視線もなかったことにして。

 ヴィルはこちらに歩み寄ってきました。


 その強メンタルは別の場所で生かしていただきたい!


「今度こそ、リベンジさせください。

 絶対に外しませんから! あっと言わせてみせますから!」


 ヴィルがそういうと同時に『ひめさま危ない!』と、顔に飛びついてくるアビー。


――不意打ちもふもふ!


 なでまわして堪能したいですが、さすがに状況が状況なので自重。


 渾身の宴会芸で再起を図ったヴィルは、リリーネさんに「食事中になんつーもん見せんの!」とすごい勢いで追い返されていました。

 一連の出来事が終わるまで、私の視界はアビーにより塞がれたまま。


 魔族領でのトラウマナンバーワンは、魔王城入り口でのゾンビの生首飛来事件です。

 今後、これが一生更新されないことを祈ります。

 



◇◆◇◆◇


「ワインも美味しいんですね。このワインも魔族領の特産品なんですかぁ~?」

『この土地の気候を生かしたブドウを使ってるからね。

 ひめさま、飲みすぎてない? 大丈夫?』

「へいき、へいき~~♪」


 癖もなくサラッと飲める赤ワイン。

 魔族領の料理も合わせて、すべてが物珍しいです。

 


「フィーネ様、見てください。この立派な翼と鱗!

 群れで一番の光沢だと評判なんですよ!」


 そんな中やってきたのは、これまた酔っぱらった小さなドラゴン。

 酔っ払いって嫌ですね! 本人に酔ってる自覚がないのがまた悪質です。

 魔族領には、本当にいろいろな種族がいますね。


「育つとこういうパーティーは出禁になっちゃうんだ。

 だから今! めいっぱい楽しんでるんだ。

 会場に入れなくなるからって理由なんだけど……」


 そんな悲しい事情と同時に、なにやら鱗の色について力説。

 あいにく、私にドラゴンの鱗についての知識はありません。

 魔族領1日目の初心者に、ドラゴンの鱗の光沢についてマシンガントークされてもついていけないですよ!?


 屋外パーティーで、また会いましょう。


 「どうせなら、乗ってみますか?」と、ワクワクと期待の目を向けるミニドラゴン。

 ちょっと興味ありましたが、「あんたはこの会場を破壊する気かい!」とリリーネさんに突っ込まれあえなく撃沈。

 ミニドラゴンは、とぼとぼと自席に帰っていきました。




◇◆◇◆◇


「リリーネさん~~。フォード王子ったらひどいんですよ~~~!

 何もしてないのに、国外追放なんて~~~~」

「は、はあ」


「でもここの果実酒美味しい~。

 アビーはもふもふで最高!

 あ、おかわり!」

「あの、フィーネ様? 飲みすぎでは?」


「へ~き、へ~き~~。

 ブヒータさんなんて、私の三倍は飲んでるから~~~」

「オークと比べてはいけません……」


 どうしたんでしょう?

 リリーネさんがこちらを見る目が、残念なものを見るまなざしになっています。



「ぶよん、ぶよん」


 そんな中、こちらに向かってきたのはゼリー状の球体。

 ぷるんぷるんと体を振るわせ、こちらに近づいてきました。

 これは、スライムでしょうか。つぶらな瞳が可愛らしいです。


 スライムは飛び跳ねながら私の足元まで近づき。

 顔を上げようとしたところで……


「ふん!」

「どりゃあ!」


 2本のほうきが振り下ろされました。

 リリーネさんと、もう1人は……城の入口でヴィルの後始末をしていたメイドの女の子。

 名前はたしか……アンジュさんでしたかね?


「このヘンタイスライムめ!!

 酔った勢いでも、それは見過ごせないっすよ!」


 スライムは、ぴゅーっとすごい勢いで逃げていきました。

 そんな様子を、「ひと仕事した~」と満足気にアンジュが見送ります。


「あ、ありがとうございます~~」

「これもあたいの仕事っす。どんどん任せてくださいっす!」


 ほうきを手に持ち、アンジュが満面の笑みでそう答えました。

 そんなアンジュに「こら、敬語」と後ろからリリーネさん。

 

 



 アビーたちの協力のおかげで、魔族との大きなトラブルもなく。

 それでいて、歓迎会で魔族の強烈な印象をたしかに胸に刻んで。


 ――私の魔族領1日目の生活は終わったのでした。

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