13.逃亡
執務中、胸騒ぎを感じたバルザックは、急いで屋敷に戻った。
執事が真っ青な顔で駆け寄ってきた。
「アリア様がいらっしゃいません。部屋に置き手紙が」
捜さないで
あなただけのものでいたいの
ただそれだけの手紙。
ガツンと頭を殴られたようなショックに目の前が真っ白になった。何があった?
愛おしい番が自らいなくなったことを認めたくはなかった。
しかし、現実に番は自分のもとから去った。
理性よりも本能がバルザックを突き動かした。
「国境を直ちに封鎖せよ。バルザックの番が賊に攫われた。至急、天馬軍を派遣せよ。」
番がいなければ生きる意味などない。
どんな手を使ってもアリアを取り戻す。例え、アリアが嫌がろうとも。
バルザックは天馬を駆った。
正式な儀式を経て番となっていたことが幸いした。番を見つけるのは容易い筈だ。
しかし、アリアの血統を考えると国境を越えられると厄介だ。
この屋敷から容易に連れ出せるとしたら、手練れの帝国スパイが関与している可能性がある。
ならば、周到に用意されて連れ攫われているはずだ。
国境を越えられると連れ戻せなくなる。焦る自分を叱咤して天馬を駆けた。
あの老獪な帝国皇帝の顔が浮かんだ。




