12.妊娠
それからマリーはドレスのデザインの修正や仮縫いの度に来てくれるようになった。
衝撃的な会話を聞いたあの日から、ここから出た方が良い事はわかっているなのにその決心がつかないのは私の弱さなのだろう。
思い悩む日々は確実に私の心を蝕んでいった。
「アリア様最近お痩せになりました?」
デザイナーが心配する。ここに来てからたくさん食べさせてもらって、ふっくらしてきていた私は、また最近痩せてきている。
食べ物が喉を通らないのだ。
来る度に変わるサイズにデザイナーが苦戦していた。
「ええ。少し食欲が落ちていて。」
同席するマリーの目が心配そうに揺れた。
試着室でマリーがキャンディのようなものを手渡してきた。
「これを舐めてください。」
どうしたのかしら?
不思議に思いながらも用意されたそれを舐める。
マリーはその物体を数分おいてから何かを確認するとアリアに告げた。
「妊娠しています。」と。
喜ばしいはずのその出来事にアリアは悩んだ。
このまま、バルザックの側にいたい。だけど、この子は?
ここにいれば堕胎されてしまう。なんとしても守りたかった。
「マリー、お祖父様はこの子を産ませてくれるかしら?堕胎しなければならないなら帝国には逃げられないわ。」
「陛下には、現状を報告済みです。万が一懐妊していても、帝国で育てて良いとのことです。」
腹が決まった。バルザックの忘れ形見を大切に育てよう。
「マリー、逃げるわ。手を貸してくれる。」




