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10.バルザック

アリアとの時間は至福のひとときだ。


 最近はアリアがランチを届けてくれるようになって、愛おしい番と2人で摂るランチは最高だ。


 美しいアリアをひと目見ようと不埒なことを考える輩は排除した。


 玄関から直通で執務室までスムーズに来れるよう手配している。


 なのに、今日に限ってアリアが現れない。不安になって捜しまわると、薔薇の生垣の間に気怠げに座りこむアリアが見えた。


 透き通るような真っ白な肌もあいまって、消えてなくなりそうな程に儚げなアリアを抱き上げた。


 春だというのに外気にさらされた肌が冷たい。


「アリア、ここにいたのか?」


 アリアの身体に怪我はないか確かめる。アリアの様子が気になってそのまま自宅にアリアを連れて帰った。


 震える彼女をなだめるように抱きしめた。


「あなたの奥さんになる人は幸せね。」

とアリアが耳元で囁いた。


 幸せすぎて「妻を世界一幸せにすると誓う。」

と返した私はアリアがその時どんな顔をしていたのか知らなかった。




 エスメラルダの人間にとって番という言葉が持つ意味は、愛してるという言葉より重く神聖なものだ。


 だから、アリアには自分の想いの丈を存分に伝えていると思っていた。

 

 そして、アリアは母国レジオンだけでなく、帝国の血も受け継ぐ高貴な血筋。


 レジオンは帝国から、アリアの子を後継者にするという条件で支援を受けているのだ。


 今は手違いで公妾としてエスメラルダに来ているが、それが白日のもとに晒されればすぐさま帝国の横槍が入り連れ戻されるだろう。


 だから、相手の手違いを良いことに、正式な結婚まで彼女を公妾として匿わざるをえなかった。


 それが彼女の心を蝕んでいると、疑うことなどなかった。




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