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21. 最高の力を追い求めて

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 第7街区は、私の故郷だった。


 ただ「懐かしい」なんて思うことは一切ない。

 あるのは恨み、あとは決心だろうか。自分が拠って立つ意味は、この第7街区にある。


「ぶっ壊す、何もかも」


 この街に来ると、その言葉が自然と出てくる。

 ……そして私の指示通り、彼らはココに来ていた。偽の辻馬車に無事拉致されて、治安の悪いこの街に招かれた。


 保険はこれのことだ。

 不本意ながら培ったコネというのは役に立つことも多い。役立たせるのは全くもって不本意だけれど……。


 でももっと不本意なのは彼らが脱出してしまったことか。


 風の噂では、どうやらメイドが感づいて逃げてしまったらしい。

 工業区へは先回りして封鎖することに成功したけれど、その後の足取りは不明。まだ第7街区内を逃走中ということで、街中はやや騒がしい。


 もっともこの手の騒ぎは日常茶飯事なので、住民たちは大人しいものだ。彼ら住民たちが騒ぐときは、街そのものがぶっ壊されるときだろう。


 私が都市もろともこの街をぶっ壊す時が楽しみだ、とちょっと思っている。


 でもその前に。

 ヴァルトハイムらがあのまま拘束されていたらやりようがあったけれど、脱出して追われる身となっている彼らに会う算段なんて用意していない。


 いっそのこと助けてやろうか。それもまた不本意だけれども。


 でもどこにいるのかわからなければ助けようがない。

 とりあえずは誘拐犯と行動を共にして彼らを捜すとしよう。


 しかし、意外な事にはやく彼らは見つかった。


 幸運があったから? それとも実力?

 いいえ、昼間から第7街区で花火を打ち上げる人間がどれほどいるだろうか、というだけのこと。


 駆け付けた先に、ヴァルトハイム一行らがいました。

 ……その中に、なぜかメルヴィ様もいる。


 そしてメルヴィ様は颯爽と、愉快に、まるでお伽噺の中の英雄のように、彼らを救ってみせた。


 私はそれを見ている事しかできなかった。いや、正確に言えばそうじゃない。


 私はその光景に見惚れていた。

 メルヴィ様の圧倒的な力の前に平伏すしかない民たち、私の求めていた最高最強の力。


 なんと素晴らしいものだろうか、と。


 だけれども、私の冷静なる理性の部分が、警鐘を鳴らしていた。

 それはヴァルトハイム一行と仲良く話すメルヴィ様の姿を見ての警鐘である。


 ……あぁ、なんということだろう。


 敬愛するメルヴィ様が、親の権威と財力しか誇るものがない無能で怠惰な貴族の息子と戯れ……あまつさえ、笑顔を見せている。


 はた目から見れば、年ごろの少年少女の会話に見えるだろう。

 けれど、自分にはわかるのだ。あそこには、何か見えない信頼関係があるのだと。


 そしてその信頼関係が刃を向ける先に何があるのかも。


「……もはや、信じる道は我の道のみ、かしらね」


 暴漢らを制圧し、第7街区で唯一真っ当な店に入る彼らを見て、そう呟いてしまった。


 私は第7街区を出て、先程までいた違法魔導具店『アトラス』まで戻る。


 違法魔導具店で扱う魔導具は豊富にある。

 それこそ、禁忌に触れるような品や施術も。既にアトラスの主人の信頼を得ているため、私は金さえあれば何でも買えるようになった。


 ……この時ばかりは、あの大馬鹿野郎が羨ましい。


「ん? またあんたか。どうした? 買い忘れか?」

「えぇ、まぁそんなところね」


 そして私は主人に告げる。

 私の求める、最高の力が欲しい、と。


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