94話 入浴でのハプニング
「ふい~! 生き返る~♪」
そう声を出しながら、最近では毎日入っている風呂に浸かる。
いや~ヒナギさんの家に風呂がついていて良かった。伝わっている文化背景的に釜風呂とかを想像してたんだが、どうやら魔道具で沸かしているそうだ。
なんか時代とのギャップに違和感があったが…まぁいいんですけどね。こっちの方が楽だろうし。
それに最近はシャワーみたいに簡易的なものしかしてなかったからありがたい。
風呂も10人くらいは普通に入れるほどの広さだし、全身を伸ばしたりできるので快適この上ない。
昨日は誰もいないのをいいことに泳いで遊んだりしたなぁ。
…何やってんだろ俺。子供か…。
「………」
ボーっとしながら色々と考える。
明日は午前中に【隠密】の鍛錬、夕方までヒナギさんとの稽古やってー…その後は調べものか…。
なんか最近は1日のサイクルが決まってるから、暇な時間が減った気がする。もうちょっとゆっくりしたいんだけど、知らないうちにこうなっていくんだよなぁ…。
自分の今の状態を見直してみると、結構ハードな生活がずっと続いているように感じ、小さなため息が漏れる。
すっかりほったらかしになっていた【隠密】もやっと習得できる目途が立ったし、早く会得したい。
書物を漁っている傍らで見つかったもののうち、【隠密】の習得に必要な要素が記されたものがあったので、今はそれを実践中だ。異世界人達もどうやら会得していたっぽい。
あいつの忠告もあるし、覚えておいて損はないだろう。それに聞いた限りじゃ俺には必須と言ってもいい性能らしいからな。
…まぁ明日はそれの鍛錬もあるから頑張っていきますかね~。
日に日に感覚が掴めていく実感があるから正直楽しいし、スキル開眼まであと少しってところか…。
あ、そういえばポポが【鳥拳】の最終段階に進みたいとかこの前言ってたっけ…。いつも俺のわがままに付き合わせてばかりだし、なるべく頼み事は聞いてあげておかないとな。
やること多いなー。
しばらく考えにふけっていると…
「失礼します、カミシロ様」
と、高い声が聞こえたかと思うと、浴室の戸が開く音がした。
「んーポポかぁ? お前が風呂なんてめずらし………」
…あれ? ポポって俺のことそんな風に呼ばなくね? てかこんな声してたっけ?
あいつはもっとイケボなはず…こんな高い声はしていない。
振り返って確認し、硬直。
そこには…体の大事な部分を布で隠した、裸のヒナギさんがいた。
………うそん。
「うわああああぁぁぁぁっっっ!!!? 何でココにいるんですかあああぁぁぁっっ!?」
硬直から解放された俺は、ヒナギさんがこの場にいることに大声で取り乱す。
「? 男女で風呂に入るのは…別に変なことではないですけど」
「いやいやいや!? 変ですからね!?」
子供じゃあるまいし、明らかに変やろ!
夫婦、恋人ならまだしも、まだ出会って長くもないぞオイ!
「そうですか? …確かにここらの地域と他では文化が少々違いますが…。でも、こうして隠せるわけですから気にする必要はないかと…」
と、巻いた布をピロピロと動かすヒナギさん。
やめてくれ! これが画面越しならまだ耐えられるけど、リアルじゃ威力が強すぎる!
「気にしますよ!!」
「えっと…ごめんなさい…?」
ヒナギさんが首をコテンと傾けると胸が少し揺れる。
大きさは学院長未満のアンリさん以上…。大体その辺りだと推測する。
クソッ! 無意識に本気で俺を殺しにかかってきてやがる…。
やめてー! その今にも飛び出しそうなものが強調されてて見るに耐えられないんですぅ!
普段の恰好は体形が分かりづらいから気づかないかもしれないが、ヒナギさんはスタイルが非常に良い。
布の下から女性特有の…男がエデンと崇めるものが自己主張しており、目のやり場に困る。
事前に入るにあたってのルールということでタオルのような布を湯船に持って行けとは言われてたけど、まさかそんな常識が浸透しているなんて…!
何か変だなーとか思ってたがこういうことかよ! 異世界人め、変な文化を残しやがって…。
『賢者』さん以外の奴は何考えてんだ。毎日賢者タイムになるようなことでもしてたのかよ…。
この場においては、この布が秘部を隠すための唯一のシールドじゃないか!
『永遠の守護盾』と命名しよう…。いや…『最後の巨壁』でもいいかもしれん。
ふむふむ。
…って、今はそんなんどうでもええわ!
一瞬でそれらを理解し目を背けるが…
「じゃあ失礼して…」
「ええっ!?」
あ! コラッ! 自然に湯船に入ってくるんじゃない!
しかも「じゃあ」って何だ!? 俺一言も良いですよなんて言ってないんですけど!?
…ってちょおおぉぉっ!!? なぜ隣に!? 近えって、マジ近えって…!
ヒナギさんは湯船の中に入ると、俺の隣に腰掛けてきた。
入る前にお湯かけないのか…。まぁ俺は気にしないけど。
てかむしろご褒…ゲフンゲフンッ!
「あの…なぜ隣に? てか近くないですか?」
「普通ではないでしょうか?」
…普通であってたまるか。
肌が掠りでもしてみろ。死ぬぞ………俺が。
少しでも動けば肩がぶつかりそうなくらいに、俺とヒナギさんは近い状態だ。
こんな広い湯船が非常に勿体なく感じる。
「ヒナギさん。軽はずみな行動は慎んでくださいよ。俺、男ですからね?」
風呂とは関係なく真っ赤になっているであろう顔をしながら俺は言う。
心臓はバクバクと鳴っているが、幾分か落ち着いてきた。
「分かっていますよ? でも、カミシロ様にはなぜか親近感しか湧かないのですよ。会ったのはつい最近ですが、そうではなく…雰囲気が私と似通っているような…。フフッ、あやふやなんですけどね…」
ゲッ…鋭いな…。
確かに俺は貴女が体現している文化の起源からきたみたいなもんですが…。
「き、気のせいじゃあないですかね?」
「ただ、それだけじゃなくて、私…なんだか弟ができたみたいで嬉しいんです。カミシロ様は年下の方で…失礼ですけど私よりも小さいですし…」
…まぁ確かに。
「…髪も私と同じで黒髪ですし…」
……そうですね。
「こちらの文化に随分と精通しているみたいですから」
………だって原点みたいなもんですから。
「稽古をつけてもらっている立場ですから、ちょっと変なこと言ってるのは分かってるのですが…」
「…まぁ気持ちは分からないでもないです。…それで、わざわざこんな行動に出た理由は何です?」
「いえ、細かい理由があるわけではないんです。しいて言うなら…改めて稽古の方をこれからもよろしくお願いしたかっただけで、他に他意はないです」
…俺が風呂あがってから言ってくれてもいいんですよ? それ…。
てかそっちがベストだ。おかげで俺のブツは今エベレスト状態ですよまったく…。
「それとも…少し意識しちゃいました?」
「うっ…分かってて意地悪な質問しますね、ヒナギさん」
クスッとしながらヒナギさん。
当たり前のことを何言ってんだ。貴女みたいな美人さんと一緒に風呂に入って、意識しないわけないでしょ。
俺の息子も反射的におっきしたけど、これは生理現象であり、正常な証。
俺は悪くねぇっ!
てゆうか理性を保っていられてるあたり、頑張ってる方だぞ俺?
弱い奴だったらル〇ンみたいに飛びついてると思う。
アンリさん…許してくんさい。裏切ったわけではないんです…説得力ないけど。
「フフフッ、冗談ですよ。カミシロ様は可愛らしい一面もお持ちなんですね」
「…からかうのはやめてくださいよ」
…やっぱり大人の女性なんだなぁ。余裕があるというかなんというか…。
敵わないや。




