76話 二つ名…『神鳥使い』
「お疲れ様ですご主人。終わったみたいですね」
「ああ。もう見る限りだといないな。多分全滅させられたと思う」
俺が皆の所に戻ると、ポポが労いの言葉と共に聞いてきたのでそう返す。
「ご主人様~。掃除したげる~」
「スマン頼むわ。ご主人様を掃除してくれぃ」
「ほ~い」
ナナの申し出に俺が了承すると、突如出現した水が俺の体を取り囲み、動き回る。そして血まみれだった俺の体が普段と変わらぬ状態へと戻っていく。
…まぁ単に血を落としただけなんだがね。
その証拠に、動き回ってた水は血のせいで真っ赤になってるし。
これはナナのオリジナルの魔法である『浄化』によるものだ。対象に付着している異物を水で拭い去り、キレイな状態にすることができる。
一応同じ名前で『クリア』の魔法があるが、あれの上位互換版のようなものか…。修行期間中も何度もお世話になった魔法である。
「ふ~さっぱりしたぁ…」
「じゃあ解いてもいい~?」
「おう。もう良いぞ。ご苦労さん」
「は~い」
ナナが『結晶氷壁』を解除すると、囲っていたものがなくなったことで皆がそれぞれ動き出す。
「お、終わったのか?」
「勝った…! 勝ったんだ俺らはっ!!!」
「「「「「わああああああああ!!!」」」」」
1人の冒険者が希望に溢れた声でそう叫ぶと、他の物も叫び声、もしくは雄たけびを上げて喜びを露わにする。
「カミシロ」
「あ、ギルドマスター」
しばらく興奮冷めやまぬ状態だったが、ギルドマスターとセシルさん。…あとシュトルムが俺へと近づき、声を掛けてきた。
「お主には感謝してもしきれぬ。恩に着る…!」
ギルドマスターが俺に対し、深くお辞儀をする。
「いやいや、恩とか別にいいですって。冒険者はこういう時のためにも必要だって言ったのは貴方方ギルドの人でしょう? だから頭上げてくださいよ」
「うむ。確かに言った。だが…それでも今回の戦いはお主らの力なくしては勝てぬ戦いだったのは明白。ならば当然であろう」
「…まぁ一番頑張ったのはポポだと思うんで、お礼はそっちに言って下さいよ」
「え、何でそうなるんですか!?」
なんか埒が明かなそうだし、ここは全てポポに押し付けよう。
アイツが一番の功労者なのは事実だし…。
「ポポ。ここまで被害が少なく済んだのはお主のおかげだ。私も何度も助けてもらったし、済まなかった…」
「いえいえ! 私が力不足なばっかりにご迷惑をおかけしました………」
よし!
取りあえずギルドマスターがポポをターゲットにしたようだ。
するとフリーになった俺を…
「…ツカサ」
セシルさんが今度は話しかけてきた。
いつもと同じような眠たそうな顔をしている。
「セシルさん…」
「…俺もいるんだけど?」
なんかシュ…なんとかって奴が一緒にいるが、無視だ無視。
「強いのは知ってたけど、ここまでとは思っても見なかった…」
「えっと…まぁ、その…ゴメン。言えなくてさ…」
「オイ!? 俺は無視か? 無視なのか!?」
「…何で謝るの?」
「いや、隠し事してて悪かったなぁって…」
「…それは悪くない。それほどの力、隠したくなっても仕方ないのは私も分かるから…」
「ちょっ…ツカサ!? お前すこs…ぐへっ!?」
やっぱり無視は無理だったので、取りあえずシュ…なんとかの腹を殴って沈めておく。
これで何も聞こえないはず…。
「…ありがとう」
「ん。こっちこそありがとう。私もすごい危なかったし、ツカサが来なかったら皆死んでたよ」
「そっか…」
…その割には、セシルさん全然傷とか見当たらないんだけど。シュトルムはそれなりにあるのに…変なの。
「それでさ、今のを見てただろうから聞くけど…今はどう? 怖いよねやっぱり…」
「いや…全然怖くないけど?」
セシルさんは先ほどと変わらぬ表情で即座に返してきた。
…本当に? 遠慮しなくていいんですよ? 俺がそっちの立場だったら怖いと思うんですが…。
だって人間だし、いつ何が起こるか分からんのだよ?
「…本当に?」
「うん。確かにその力は驚異的。さっきのモンスターの集団よりも遥かに…。でもツカサだから全然平気だなって…」
な、なんかすごい評価高くね俺…。いや、普通に嬉しいけどさ。
「そ、そう…」
「自信持ちなよ。ツカサはその力を絶対に悪用したりしない…大丈夫。だってあり得ないし(ボソッ)」
「えっ?」
「何でもない」
セシルさんが最後に何かボソッと言ったが、それは聞き取れなかった。
何と言ったのか聞こうとしたその時、セシルさんの後ろから大勢の味方連中がこちらに歩み寄ってくる。
…地面で伸びているシュトルムを踏みながら。
酷い扱いだな…。
まぁ俺が一番酷い扱いしてたとは思うけど…。
「俺からも礼を言わせてくれ! ありがとな!」
「キミのおかげでまた家族に会えるよ。本当にありがとう」
「今まで失礼な態度をとって済まない。君は…我々の英雄だ」
冒険者の人たちが口々に感謝の言葉を俺に投げかけてくる。俺も見たことが何度もある人たちだ。
はへぇ………。
反応に困ったので口をポカンと、俺はしていた。
「おう坊主! オメーとんでもねぇ奴だったんだな! ビックリしたぜ!」
そんな俺のことも知らずに、後ろから強い力で背中をバシッと叩きながら、兵士の人が声を掛けてきた。
「え? あ、ハイ。どうも…」
言葉が見当たらなかったので適当に返事を返したんだが…
「あ? なんでそんな縮こまってんだ? さっきまでの威勢はどこにいったよ…もっと堂々としろって」
向こうは俺の返答が不思議だったのかキョトンとした顔をしている。
…なんだ? 俺がおかしいのか? 分かんねーなぁ。
「どこにそんな力持ってんだ?」
と、今度は別の兵士さんが聞いてくる。
「どこと言われましても…」
…一体どこでしょうかね?
それは神様にでも聞いてください。俺も知らんわ。
「冒険者辞めて詰所で働かないか? 君がいたら警備いらないだろうし」
と、さらに別の兵士さん。
今度は兵士への勧誘らしい。
「うえぇ!? それは流石にマズくないですかね!?」
「俺の娘と結婚しろ」
「それはもっとマズイでしょうに!?」
オイオイオイ!? 急に何を言い出すんだ!
大事な娘じゃないのかよ!?
俺が予想していたものと違う事態に戸惑っていると…
「ね? 大丈夫でしょ? ドミニクの一件で目を付けられたんだろうけど、皆今までのツカサをなんだかんだ見てきてるんだよ」
セシルさんが、微笑んでそう言ってくる。
「大きな力に畏怖を感じる者は確かにいる。だがそれ以上に、この場にいる者は皆お主らによって助けられたということを分かっているのだ」
いつの間にかギルドマスターが近くにおり、俺に対して話しかけてくる。
「ギルドマスター…」
「今までのお主のことを聞く限り、気の散るような視線の中で過ごしていたことは知っているし、受け入れがたいのも分かる。だが、これは事実だ。少なくとも、この場にいる者が今お主に向けている感情に、嘘偽りはない。信じてくれ」
…なんだ、これじゃあ俺がバカみたいじゃんか。変なことばっか考えてさ…。
あー恥ずかしい。
「…はい」
ちょっと照れくさかったこともあって、俺は短くそう答えた。
すると、どよよ…と皆がざわつき始める。
何事かと思って声のする方を見ると、どうやら声の原因は…ポポとナナのようだった。
俺の方へと近づいてきているが、周りに群がっている人たちがその進行ルートを空けるように退いていくのが分かった。
「フフフ…良かったですね、ご主人」
「うんうん。私たちもうれしいよ~」
「お前ら…よせやい、恥ずかしい」
『覚醒状態』のため表情はよく分からんが、きっと笑っているのだろう。
俺らはしばらく他愛ない話をする。
すると…
「えっと…お前ポポつったっけ? 姿変わっちまってるけど…。 ありがとよ。お前がいなかったらこうして立ってなかっただろうからな、サンキューな!」
そんな俺らを見ていた一人の冒険者が、ポポに話しかける。
どうやら戦闘中にポポに助けられたらしい。
「凄かったぞ。ギルドマスターとの共闘ぶり、見てて惚れ惚れした」
「ナナちゃんもありがとうね~」
「えっと…それは何よりです…」
「どういたしまして~、私特に何もやってないけど~」
ポポは恐縮といった具合に、ナナは能天気な具合に返事を返す。
「それにしてもその姿…一体何なんだ? おとぎ話に出てくるような姿みたいだが…」
ポポとナナの姿に疑念を抱く人がやはりいたようで、質問される。まぁ当然っちゃ当然だが。
巨大化も十分変なのに、加えてこの姿だ。突っ込まれない方がおかしい。
「これは…俺の『従魔師』のスキル技ですよ。今のコイツらの姿はそれのせいです」
「詮索はご法度だから詳しくは聞けないが、そんなスキル技があるのか…。それにしても、まるで神が遣わした鳥みたいだな。小せぇ頃読んだ本に出てくる鳥みたいだぜ」
へぇ、そんな内容の本があるのか…。
でもコイツらは神が遣わした鳥なんかじゃないっスよ? 俺がペットショップで買ってきた、ただのインコです。ちなみにヒナだったんで2匹で2000円くらいでした。
値段を出すのはあまりよろしくないと思うけど、そんなちゃっちい神の遣いがいてたまるか。
インコはインコ。それ以上も以下もない。
だが世間の評価以上にはめちゃくちゃ可愛いがな!
その中でもうちの子はさらに可愛いのさっ!
「神が遣わした鳥ねぇ…。じゃあそれを使役しているわけだし、ツカサはつまり神鳥の使い手…神鳥使い様というわけだな」
いつの間にか復活したシュトルムが、顎に手をあてながらうんうんと頷いている。
「はあ? 何言っt「おおー。それいいな」
「えええ!? ちょっと何勝手に決めてんですか!?」
「私たちが神鳥ですか…」
「インコだけどねー」
シュトルムが言ったことに周りの人も同意しているのか、反対の声は全く出てこない。
な、なんでやねん! こんなん恥ずかしいだけやろ!
「いやいや! 恥ずかしいんでやめてくださいよ!?」
「あ? 二つ名が出来たんだぞ? むしろそこは喜ぶべきところじゃないか」
ぶほぉぉぉっっっ!!? ふ、二つ名!?
学院長みたいに『幻想者』ってか? や、やめてけれ!
今までは言わなかったけど、ぶっちゃけ痛いだけだと思ってたんだ俺は!
二つ名なんていらねー!
「うむ。お主の二つ名は『神鳥使い』で決まりだな」
ギルドマスターが二つ名の決定を告げる。
ちょっと待てやあああ!!! 勝手に話進めんじゃねー!!
「待て待て待て! 良いなんて一言も言ってないですから俺!?」
「………今言ったから、じゃあ決まりだな」
「シュトルムぶっとばすぞテメー!!」
上げ足取ってんじゃねーよ!
文脈的に『いい』って言ってねーだろうがっ!
「『神鳥使い』さんや。これからよろしくな」
「よろしく! 『神鳥使い』様」
「今度飯食おうぜ! 『神鳥使い』」
「………」
「ご主人…諦めませんか? もう何言っても聞かないですよこの人たち」
ポポが諦めた口調で俺に言ってくる。
確かに、もう収拾がつかなくなってきているところまできている。
クソッ!!
ああ、じゃあもういいよ、好きに呼べよ。『神鳥使い』でいいよコノヤローめ!
何だよこれ…ただの厨二じゃねぇか! 黒歴史だこんなもん。
「さて…二つ名も決まった。グランドルに戻り、危機は去ったことを報告するとしよう」
こうして、後に『ラグナの災厄』と呼ばれるこの戦いは、終息を迎えた。
俺には『神鳥使い』という二つ名がつくことになり、グランドルのみならず、この大陸…そして別大陸にまで名前が知れ渡ることになった。
俺たちは、グランドルへの帰路へとつくのであった。
◇◇◇
「ちょっとちょっと…何なんですかあの人は…! あんな化物がいるなんて情報入ってないですよ!?」
戦場からかなり離れた所の上空で、白い仮面の謎の男は一部始終を見ており、驚愕していた。
手には双眼鏡に似たようなものを持ち、どうやらそれで遠くの状況を確認していたようだ。
「ドラゴンをあんなにも容易く葬るなんて…英雄じゃあるまいし。それに従魔も相当な力を持っていそうですねぇ…モンスター消してましたし。あの人が何か施してから軽くSランクくらいの強さがありそうなんですが…」
謎の男はポポのこともよく見ており、モンスターを消し飛ばしたのも確認していた。そのため、司が来るまでは押されていたはずのポポが、司が戦場に来たことで急に強くなったのを見てそう考えているようだった。
「あぁ…せっかく入念に準備していたというのに…。溜めていた魔力も随分と無駄になってしまった」
謎の男が酷く落胆した声で言うが…それを聞いている者は他にいない。
「ま、魔力なんて腐るほどあるんですけどねぇ」
そして急におちゃらけたような声になって開き直る。
「また色々考えるとしましょうかねぇ。はぁ…。『魂』を集めるのって面倒ですよホント…」
今度はため息を吐いている。
コロコロと心境が変わっているのか、何とも掴みようのない人物である。
「彼もどうやら死に損なったみたいですし、色々計画通りに事が進んでいませんねぇ。再度情報収集をする必要がありそうです。…さて、主に報告しないとダメですねぇコレは。また集会でどやされそうですよまったく…」
謎の男は『ゲート』を開き、その中へと消えていった。




