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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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68話 魔物化した人間

 ヴィンセントが手を振り上げているのを見て、魔法を使おうとしていると即座に判断した俺は、ヴィンセントの目の前に勢いよく降り立つ。

 勢いが強すぎて、舗装された道が凹んでめくれ上がったが、そんなものは気にしない。


「キャッ!」

「うおっ!」


 降り立った衝撃でアンリさん達が驚いているが、その声を聞きながらすぐさまヴィンセントに肉薄、腹に蹴りを叩きこんで吹っ飛ばす。


 加減はしてあるが、無事ではいられまい。


 ヴィンセントが20mほど地面をゴロゴロと転がって止まり、仰向けになったまま微動だにしない。

 若干やりすぎたかと思ったが、すぐさま後ろを振り返る。


 今はアイザさんが優先だ。


「先生っ!」

「ツ、ツカサ? お前、一体どこから…」


 俺がアイザさんへと駆け寄ると、アンリさんとフロムさんが声を掛けてくるがそれは一旦無視し、傷を確認する。

 アイザさんの腹部を見てみるとどうやら腹を貫かれており、とめどなく血が溢れ出していた。服は赤く染まっており、赤黒い血も流れている。


 傷が深すぎるな…。


 とりあえず『ヒーリング』をアイザさんに発動するが、完全に血を止めるには至らず、傷も完全には塞がらなかった。


「もう一回…」


『ヒーリング』を再度かける。すると徐々にだが傷が塞がっていき、今度は傷が完全に塞がった。


 よし! これでひとまず大丈夫だ。 アイザさんは…。


 アイザさんの顔を見てみると目を瞑っており、一瞬間に合わなかったと思ったが胸が上下しているのを確認して安堵。胸をなで下ろす。


 …ギリギリだったな。


「アイザ…。良かった、生きてるな…」


 フロムさんがそれを見て、ホッとした顔をしている。


「フロムさんは大丈夫ですか?」

「俺は全然平気だ。これくらいかすり傷だし…。ツカサ、ありがとな」

「当然のことをしたまでです。…二人も、怪我はないな?」


 フロムさんの怪我が大したことがないのを確認し、アンリさんとクレアさんに尋ねる。


「私は平気です」

「アタシも…」

「そっか…なら良か…っ!!!」


 良かったと言おうとしたところで、複数の火の玉がこちらに迫っているのを確認し、即座に『障壁』を展開しそれを防ぐ。

 火の玉は『障壁』にぶつかって大きな音を立てて消滅。『障壁』越しに放たれた方向を見るが、そこにはやはり…。


「ヴィンセント…!」


 ヴィンセントがニヤニヤとした気持ち悪い笑みを浮かべながら、ピンピンした様子でこちらを見ていた。


「あの坊主…なんで立ってやがる…!」

「そんな…」


 オイオイ、加減したとはいえ相当な力で蹴ったぞ…。なんで動ける…?

 それに、何でそんなに笑ってやがる…。目も虚ろな感じだし、様子が変だ。


 ヴィンセントに違和感を感じた俺は…


「フロムさん。アイザさんを担いで、その子達を安全な場所まで連れて行ってください。俺は、アイツの相手をします」


 ヴィンセントを見たままそう指示を出し、ここからとにかく離れてもらうように言う。


「お…おう! 任せていいのか?」

「ええ、早く!」

「先生…お気をつけて! あと、よく分かりませんがヴィンセントは無詠唱が使えるようです!」

「! …了解」


 無詠唱を? …やっぱり何か変だな。


「ほらアンリ! 行きますよ!」

「えっ…あ、うん! 先生…気を付けて…」

「ああ、任せろ」


 フロムさんがアイザさんを担いで、2人を連れて離れていく。

 すると…


「逃がすかあぁぁぁっ!!!」


 ヴィンセントが声を発しながら手を前に突きだそうとするが、当然…


「させるかよ!」

「ぶっ!!?」


 また即座に近づき今度は顔面を右手で殴る。

 ミキッ…と、嫌な感触がし、白いものが宙を飛んでいく。…どうやらヴィンセントの歯のようで、折れたことが分かった。

 ヴィンセントがヨロヨロと後ろにたたらを踏むが、そのまま追撃。ヴィンセントの首を掴んで地面へと叩きつける。


「がっ!?」


 そして抵抗させる暇もなく『バインド』を発動。口、腕、足を拘束し、身動きを取れなくする。

 拘束されたヴィンセントが呻き声を上げながら暴れようとするが、『バインド』によってそれは叶わない。

 完全に拘束状態となったヴィンセントを見て、俺は首から手を放して見下すように立ち上がる。


「さて、このバカ野郎が。おとなしくしてもらおうか? 今度は…容赦しない」

「っ~~!!! っ~~~!!!」


 が、呻き声は止まらない。


 チッ! しつけーな。どうせ動けねぇんだから大人しくしてろ。


「ゔっ!?」

「黙れよ」


 ヴィンセントの腹を足で踏みつけ力を込める。

 鳩尾辺りを踏みつけたからか苦痛に顔を歪めているが、黙らせるにはこれくらいで丁度いい。


「~~~~!! ~~~!!」


 痛みに耐えながらも、目だけは俺を殺さんばかりに鋭い。


 …オイオイ、ここまで本気の殺意を向けられるとむしろ引くんだが…。

 なんでそこまで執着するんだよ…。


 俺がそんなことを思いながら、なんともいえない顔でため息を吐いていると…


「~~~!! ……………」


 先ほどの抵抗が嘘のように、ヴィンセントがピタッと固まって動かなくなった。

 目も…ある一点を見つめたまま動いていない。


 ん? いきなりおとなしくなったな…。どした?


「! っ~っ~~~~!!!!」


 俺がそう思ったのも束の間。おとなしくなったかと思えば、今度は突然先ほどとは比べ物にならない勢いで暴れ出す。


 そして…


「…は?」


 ヴィンセントを拘束していた『バインド』が強制解除され、塵となって宙に消えていく。

 まだ足で押さえつけてはいるものの、自由の身になったヴィンセントがジタバタと手足を動かす。


「がああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」


 尋常ではない声でヴィンセントが叫ぶ。それはまるで断末魔のように…俺には聞こえた。

 そんな状態のヴィンセントを見て俺が動けずにいると、ヴィンセントの体から黒いオーラが滲み始める。

 禍々しいと言えるほどの…真っ黒な…。


「っ!?」


 突如足に違和感を感じた俺は、ヴィンセントを押さえつけるのをやめて咄嗟に距離を取る。


「魔力を…吸われた…? なんで…」


 一瞬だが、足から魔力が吸われた感覚がした。この前フェンスに触れた時と同じ感覚…間違いない。

 でもどうして?


「ああーーぁあーぁぁぁ」

「…オイ…ヴィンセントお前…」


 ヴィンセントがゆっくりと立ち上がりながら、今度は力の抜けた声を上げている。

 表情は何もない。…まるで人形のようだ。


「ツカサ君! 大丈夫か!?」

「学院長!?」


 そんな異様な光景を見ていた俺の後方から、学院長の声が聞こえてくる。

 振り返るとそこには、何人かの教師と共にこちらに走ってくる学院長の姿が確認できた。

 先ほどの花火はどうやら見えていたようだ。


「こっ、これはっ!?」

「あれは一体…!?」


 教師たちがヴィンセントを見て声をあげる。まぁ無理もない。

 ヴィンセントの表情もさることながら、禍々しいオーラはもう滲み出しているのではなく、吹き出すと表現した方がいいと言っていいほどになっている。


 闇属性? …いや、違う。闇属性は紫色のはずだ。こんなに黒い色はしていない。

 それとは違う別の何かだ。これは一体…。

 でもどこかで感じたことがある気がする…。


 そして…


「…オイオイ…嘘だろ…」


 ヴィンセントの体が完全に黒いオーラで覆われ、オーラの隙間からこちらを覗く目が確認できた。

 …目は、人間とはかけ離れた…真っ赤な色をしていた。


 あの目の色! それにこの魔力の感じ…! そうか! これは…まさか…。


「バカなっ!? この魔力は…」

「あり得ない…」



 学院長もこの魔力を知っているのか驚きの声を上げている。

 ただ、一緒についてきた先生は恐怖を感じているのか、おびえた声を漏らしている。

 …目の前のアイツは相当な圧力を持っているから、無理もない。


 ドラゴンには一歩及ばないくらいの圧力といったところか…。


「…魔物…なのか…!?」

「オオオォォォォッッッ!!!!!」




 俺の声は、ヴィンセントの声にかき消されて消えていった。

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