58話 寛大な措置
「ん…朝か…」
気づいたら俺も眠っていたようで、起きたら朝になっていた。
「…よいしょっと!」
片手をついてベッドから勢いよく飛び起きる。
こうすると一気に頭が覚醒するのでよくやっている。俺は寝起きは悪くない方なので特に問題はない。
以前、寝起きの悪い弟にお前もこれをやれと言ったことがあったが、んなことできるかって言われてしまったことから、寝坊助の人にはキツイかもしれない。
ただ、寝起きをスタイリッシュに行いたい人だったらオススメする。
中々カッコイイですよ、コレ。
「さてさて…」
枕元で眠っていたナナを見る。
すると…
「ふへへぇ…」
ナナが涎を垂らしながらニヤけた顔をして眠っている。
うわぁ…一体どんな夢見てるんだコイツ…。
この姿を見るとインコの印象総崩れだからやめてほしいんだが…。
俺の知っているインコはこんな寝方しないし、まずベッドで寝ないもん。
…とりあえず
「ナナー、朝だぞー」
「ふへっ!? …あさ~?」
「おう。起きろ、仕事だ」
「…は~い」
まだ寝ぼけてはいるだろうが、しっかりと返事をしてナナが起きてくれる。
これが俺の弟だった場合だとほぼ起きないので、足でグリグリと背中を踏んだりするんだが…。コイツには必要なさそうだ。てか、したら潰れるわ。
「そろそろ生徒も起きてくるころだろうし、飯食って学院長室行くぞ」
「りょ~かい~」
◆◆◆
「さて…今日も昨日みたいな感じで頼む。クラスは昨日と一緒だ」
学院長室で今日のことについて説明を受ける。
昨日はグダグダだったので、今日はしっかりと依頼をしていきたいところだ。
「了解です。…でも昨日は結構適当な感じになっちゃったんですが…。午後とか先生いませんでしたし…」
「それは済まない…。だが昨日君のことは見ていたがあれで構わないよ。ぶっちゃけあの問題をなんとかできればそれでいい」
「見てたんですか?」
「まぁね。4限くらいの時から少し観察していた」
「そうですか…。でも、変えてやるとか昨日豪語しましたけど、あんなんで大丈夫ですかね? 自分の力を見せつけてるだけなんですけど…」
「いいんじゃないか? 十分効果を発揮してるみたいだし。アルファリアのことも相まって噂がどんどん広がってるぞ」
「あ、そういえばヴィンセントってどうなりました?」
噂が広まってるのも気になったが、それよりも気になる名前が出たのでそちらを優先する。
あいつ、結局どうなったん?
「ああ…それなんだが…。昨日職員会議をした結果、退学ではなく停学という形になった」
「退学じゃないんですか!?」
あれだけのことしておいて停学なのかよ!? どんだけ甘い処分下してんだ!
あいつは退学で当然だろうが。
「私もそう思っていたのだが…彼の父親が直々に懇願してきてな…。寛大な処分に留めてくれと言われたんだ」
「父親? それを…了承したんですか?」
「そうだ」
「次はもっと被害者が出ますよ?」
「かもしれないな」
オイオイ…。そんな軽く言うなよ学院長さんよー。
正気を疑うぞ。
「でも、それには条件を加えてある」
「…条件?」
何だ、それは?
「まずアルファリアが学院に残るにあたって、彼に課した条件は3つ。1つ目、授業以外での魔術の禁止、及び、常時魔封石装備の義務化。2つ目、授業以外での学内施設の利用の禁止。3つ目、アルファリア家から監視役を配備し、常にアルファリアの行動を見張ること。この3つだ」
ほう…。これだとほぼ拘束されてるに近い状態だな。
首輪付けて散歩させる感じか。
でも、聞きなれない単語が出てきたんですが…。
「えっと、とりあえず条件は分かりました。ですが、魔封石ってなんです?」
「知らないのか?」
「はい」
「魔封石というのは、その名の通り魔力を封じる効果を持った石のことだ。これを持っている者は魔力が一切使えなくなり、魔法の使用とスキル技の発動は出来なくなる」
へぇ…そんなのあるのか…。
ちなみにスキル技というのは、スキルレベルの上昇によって覚えるもののことを言う。
例えば俺は剣術のスキルレベルが3なわけだが、『見斬り(みきり)』『斬破』『千薙』という剣術のスキル技が使える。
どうやら1レベル上がるごとに1つ何か覚える模様。上限はあるだろうけど…。
魔法もまだレベルは上がってはいるものの、20を超えた辺りで覚えるのがピタッと止まってるのあるしね。
それでこのスキル達、普段は全然使ってないんだけど、それはまぁ、他にもいっぱい覚えたからとっさに使えないだけだったりする。
頭の回転早くないし…。こんなにいっぱいあったらどれ使えばいいか分かんないよ…。
こんな要らねーわ。
しかも魔法の方が圧倒的に便利なやつが多いし、魔力量増やせるしで、いちいち武器取り出してスキル技を使うのは面倒くさいってもんでしょうよ…。
ゲームとかのキャラクターって、ホントすごいね。
あと、魔法に比べてレベルの上昇は遅いっぽい。結果あんな風にレベルに差が出ることになった。
本当は全部平等に上げていきたかったんだけどね…。なんかキレイに見えるし。
ま、そんな感じ。
どれも使用には魔力を使うからか、すごくファンタジー感満載のエフェクトもあるし、カッコイイのもポイントってところですかねー。
長くなったが以上。
「へー。便利な石があったもんですね」
「ああ、演習場のフェンスにもこれを利用しているんだが、これをアルファリアに肌身離さずに持っていてもらう」
ふむふむ。そうですかそうですか。
じゃあアイツはなんもできないということなのね。
なら赤子も同然、誰でもけちょんけちょんにできちゃうと…。
でも…
「なるほど、魔力を使えなくするのは分かりました。…でもそれでも納得いきませんけどね。だって監視するのってアルファリア家お抱えの人ですよね? そんな人に監視が務まるとは思えないんですが…」
身内が監視とか全然意味ないと思うんだよなー。
「それについては信用してほしい。まぁ彼の父親には個人的にお世話になっていてね…。教師になる時に心構えや立ち振る舞いを教わったこともあって、人柄は良く知っているんだ。今の私があるのはその人のおかげなんだよ」
「…」
「失礼な言い方になるが、彼の父親はアルファリアとは全く違って、まともな考えを持っているよ。さっきは言わなかったが、4つ目の条件として武力による制裁も加えていいと言ってきていたからね」
「…貴族様にそんなことできるんですか? 後から難癖つけられて逆に嵌められそうな感じですが…」
「そうならないために誓約書も用意してくれたよ。万が一のことも考えて『血の誓約』による二重の誓約もしてくれた」
「…えっ!?『血の誓約』も…ですか…」
その言葉を聞いて疑いは薄れる。
そいつはちょっと驚きだ。




