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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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525話 心の友

◆◆◆




 ――翌日。


「両者そこまで!」


 リンドウさんの合図で竹刀の打ち合いが止まる。道内に響いていた心地良い乾いた音の余韻も止まり、二人の門下生が向き合って一礼をする。


「二人共随分自然に『気』を纏うことが出来るようになったな。後は終始その状態を維持することと基礎を積み上げるのみだ」

「はい!」

「しかしここから自身の成長が停滞し始める頃になるはず。だがそれは誰しも通る道……お互い腐らず修練に励むように」

「はい! ありがとうございます!」

「またよろしくお願いします!」

「――よし! 次の二人、準備を!」

「「はい!」」


 若い二人の少年が汗を垂らしながら大きくリンドウさんに礼を言い、すぐに道場端へと控えていく。すると今度は別の二組が現れ、今行っていた試合とは別の試合がすぐにまた始まった。


「へぇ~。これが絶華流の……。僕武芸は素人なんだけど、それでもすっごいねぇ~」

「シェーバスさん、流石に失礼っスよ」

「ふぁ~い」


 再び響き始めた竹刀の音を肴にでもしているのか。テトラさんの嗜めを軽く流しながら壁にもたれかかったシェーバスさんが腰にぶら下げていたひょうたんに手を付ける。

 中身は無論酒である。


 武道に精通していない俺でもこれはこの神聖な場でどうかと思うNG行動だが、珍しい客人だからと広い心で迎えてくれたリンドウさん達に許されているため俺からは強く言えない。


 見た目もアウトなのがなんとも言えんわな。子どもが酒飲んでるようにしか見えんし。

 スゲーのはアンタだよ。


「知名度は低いけどぉ東の人達の扱ってる流派って名のある武芸家には知られてるんだよねぇ」

「知る人ぞ知る珍しい流派ってことですか」

「うんー。この地域から出る人が少ないから知られる機会があまりないのが原因だよねぇこれはー。実際はかな~り有用だって評価する人が殆どみたいだけどさー」


 そりゃマナでもスキルでもない技術を使っているもんな。一般的な対処ではどうにかなるものじゃないし対策もロクにできない。実際に相対してみたら嫌でも痛感するだろう。

 恐らく二人は世界各地を巡る中でそういう強者の話を聞いてきたのだと思われる。


 確かアスカさんの話ではあのロアノーツって人も知ってたらしい。

 強者はいずれ辿り着く流派みたいな? なんか絶華流かっこいいな。

 世界に通じる流派ってだけでも心惹かれるわ。


「確か、ヴェントさんもここの流派を使えるんスよね?」


 試合を眺めながらふとある人物が浮かんだのだろう。テトラさんが思い出したように聞いてきた。内心俺も脳裏にチラついていた人物ではあったのですぐに質問に答える。


「そのはずですよ。聞いたら中伝はあるとか言ってましたよ」

「道理で。今日午前中暇だったんであの人の畑仕事手伝ったんスけど、あの人とんでもない早さで猪狩ってたんで」


 ああ……共感者がここにも。ここの人達皆それが普通みたいな反応するからぶっちゃけ困ってたんだよ。


「テトラさんも見てしまったんですね。ついこの前なんか俺が畑に着いたらグリズビットの死体が転がってましたよ」

「……やっぱり鍬で脳天一突きの?」

「ええ。あれは一撃必殺でした。剥製作れるくらい綺麗な死体でしたよ」

「……」


 おー、この部分にドン引きしてくれるとは。アンタは心の友や。


 隣でシェーバスさんが「鍬ってなぁにー?」って言ってるけど、これは実際目の当たりにしないと分からんわな。だって現実味ないもん。


「本人曰く農民らしいですがね。……何言ってんだこの人って思いましたよ」

「違いないっスね。番長の間違いじゃないっスか」

「っ……!」


 感動した。それはもう感激した。

 心でファンファーレが鳴るくらいには俺の心は打ち震えた。


 まさか同じ呼称を思いつく程思考が似てるとは思わなかったのだ。


「「……」」


 二人で謎の共感をして頷きあう。なんなら俺は握手を求めていた。

 昨日も思ったことだがシェーバスさんと比べテトラさんとは何かと気が合うようだ。感性は俺と本当に似ているらしい。


 というか番長もよく畑荒らされてるような……。それだけ美味いってことなんかね。




 ――閑話休題。


 この行商人二人と出会ってから一夜明け、俺達は今リンドウさんが師範を務めている絶華流の道場へと足を運んで見学中だ。

 奇妙なことに訪れたのが俺とシェーバスさんとテトラさんだけなのはただの偶然である。


 俺が道場を訪れた理由は単純に自分の『気』の修練の為だ。

 時間が少なかったためアスカさんから学ぶ順序がおかしくなってしまったが、『気』の在り方は様々であるためアスカさんという一個人をずっと見るよりも多くの在り方を見た方が漠然と把握しやすいと考えたのだ。

 魔力には人によって色んな保有の仕方や顕れ方があったので『気』も……とは期待していたが、やはり『気』もそれぞれで面白い気付きがあり勉強になる。


 この人は何故このような『気』の保有をしているのだろう? 

 何故この人は俺からすれば意味のないような『気』の在り方を敢えてしているのだろう? 

 ――と、様々だ。


 今日見学できたのはもう間もなく此処を発つ身としては間違いなく有難い貴重な時間だったと断言できる。

 こればかりはリンドウさんの配慮に感謝である。急なお願いであったのにも関わらず快く許可していただいたのだから。


 そして何故シェーバスさんとテトラさんも一緒にいるかというと、二人の場合はただの暇つぶしだ。御覧の通り。

 一応テトラさんは武芸に通じる人なので興味深々ではあったが、その雇い主が酷い。それはもう休日の駄目親父並みに酷いのなんの。


 将来こうはならないようにしようと決意した次第でございます。


 因みにセシリィはアスカさんとカリンさんに用があるらしく二人と一緒に午前中からどこかへ出かけて行ったようだ。

 俺の気配察知や魔力感知でも追えないから大分離れた場所にいるのは間違いない。ただあの二人が付いているならば俺も何の心配もする必要はないし、むしろ安心できる。


 セルベルティア以来の別行動だがセシリィにも色々と考えがあるだろうし、それに年頃なのでこういう機会は必要なはずだ。

 ずっと俺と一緒にいてもセシリィの精神教育上よろしくない。その点あの二人は俺よりも大分大人なのだから。


「そういえば魔大陸に行った後の予定はあるのー? 他の大陸も渡る予定?」


 既に昼間から出来上がっている酔っ払いことシェーバスさん。無下にしても面倒なことになりそうと思い、きっちりと聞かれたことには答えることにする。


「いけるならまだ行ったことのない大陸も行きたいところです。シェーバスさんに会ったのも何かの縁ですし、マムスにでも行こうかと」

「そっかぁ。もしマムスに来ることがあるならー、昨日言った竜の件で一発当てられるかもしれないねぇ。君なら」


 ドワーフ程じゃないが小人族も加工技術には優れており、特に携帯食料や保存食。また身体機能の補助効果のある丸薬の精製に長けているという。

 種族柄筋力が発達していないことが原因で武具の加工技術はあまりないのだが、生物の素材を精製する加工技術は種族間随一らしい。


 小人族には素材の効果を倍以上に引き上げる素材同士の組み合わせなど一部で秘匿されている技術も存在しているようで、この精製したものでこれまで成り立ってきたという歴史を持っているとのこと。


「魔大陸は危険だけど有用な素材が多い地域なのは確かだよ。だから一山当てる目的で訪れる人もいるにはいるんだぁ。……まあさっき話したように危険すぎて大抵失敗して死ぬんだけどねぇ、アハハ!」


 なにわろてんねん。

 でもまあ失敗即ち死を意味するってのが本当で怖いのは認める。人じゃなく自然が殺しにきてるってところが特に怖いよなぁ。


「……ふぅー……」

「ん? 急にどうしたんスか?」

「ちょっと門下生の皆さんを参考にと思って。まあそのために来てたんでただ見てるだけでは終わりませんよ。『気』を練るんでちょい集中しますね」


 十分見学はできた。ならば後はこの見たものを己が実力へと結びつけるために修練あるのみ。

 この場でもできることの一つとして俺は自分の中の『気』に意識を集中させる。目を閉じ今度は自分の内側を観察する番だ。


「ん? 眠たいの? でも練るのに寝る? 寝る寝る詐欺? ねぇねぇ寝るってなぁに言ってんの君ぃ」


 それはこっちの台詞じゃい。やっかましいなぁこの人。


 ただ酔っ払いには俺に対する配慮なんてものはなかったようだ。隣で勝手に言葉を解釈して意味も分からず笑いだすシェーバスさんに対し、俺は内心イラっとして眉が動いていた。


 そして面倒くせーとも思う。実際酒くせーのも事実だ。


 ……うん、俺も人のことは言えないか。


「ほらシェーバスさん、邪魔しちゃ悪いっスよ」

「え、なんでぇ? ――かひゅっ!?」


 と、テトラさんがシェーバスさんを落ち着かせようとし――余りにも不自然に声が途切れた。

 俺はその時一瞬冷やっとした殺気を感じて目を開けてしまいそうになったが、そこはなんとか抑えた。――否、見れなかったのが正しいか。


 一緒に変な呻き声と鈍い音も聞こえたし、これは……。


「もうこれで大丈夫っスから」

「あー……どうもすみません」


 なにが大丈夫なのか? とは敢えて聞かなかった。


 目を瞑っていたので詳細は分からないがテトラさんが行った手段というのはその光景が自然と目に浮かびはする。恐らく容赦なくやったというのもなんとなくだが分かる。

 多分デュクシ的なことがあったに違いない、と。


 ただ実際やる人なんて見たことがないのでちょっと驚いてしまったというか。


「結構いい音してましたけどその人大丈夫ですか?」

「平気っスよ、いつものことっスから。それに起きたら覚えてないから問題ないっス」


 この人いつもデュクシ食らって記憶失ってんの? それ俺より悲惨なんスけど。

 問題ありありじゃね?


「……でも助かりました。有難うございます」

「当然のことをしたまでっス」


 シェーバスさんに同情する気持ちもありはしたが、それでもテトラさんに感謝する気持ちの方が勝った。

 心の友の当然とまで言ってのけたことに対する誠意とシェーバスさんの当然の犠牲を無駄にはしない。俺は激しい気を遣ってくれたテトラさんの後押しに従い、『気』を練ることに再度集中する。


「……」


 これまで『気』を練るために修行してきたことを思い出し、手順を踏まえて準備を整えていく。

 今からやることは簡単すぎず、そして難しすぎるようなことじゃない。

魔力と同化して気配を絶てるように、周囲の『気』と同化することでもまた気配は絶てる。そんなちょっとした技術程度のことだ。


 今まで俺が魔力で出来ていたことは他の方法……つまり『気』でも実現が可能なのだ。

 何故なら魔力と『気』は分類が違うだけでそもそも同一の力であるから。これは『気』に限った話ではなく他の力にも言えることだろう。


 やり方が違うだけ……。全ての結果は同じ過程を辿るとは限らない。

 それこそがこの世の全ての力に通じる真理。原初へと還り至るための――。


「おお……! これはなんとも……!」


 目を瞑り集中していると余計な声や雑音、そしてシェーバスさんの生死は気にならなくなった。

 このままもっと……と思ったところで、今日の見学を許してくれたリンドウさんの声が聞こえてきた。


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