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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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522話 行商人②

 ◆◆◆




「お兄ちゃん、あの人達じゃない?」

「みたいだな。既に少し気になる点があるけど」

「うん。どうやってるんだろう……アレ」


 家を出て数分。三叉路になっている場所で数人の人だかりが出来ていた。

 道すがらこの集落では見慣れないものを手に持った人をチラホラ見かけていたので探すのに然程苦労はしなかった。

 大半の人は大部分の取引を済ませた後のようだ。今群がっている人達も一人を残して離れていったので丁度人の波が去ったタイミングのようだ。


 多分あの二人組が行商人かな。荷車に一杯荷物乗ってるし。

 それと小人に……あのケモ耳は獣人か。……なんか小人さんの方はふわふわ浮いてるのが気になるな。


「ねー、それ僕にも教えてー?」

「これはちょっと特別なものだから駄目なんだよ。ゴメンねー」

「え~っ!? ずるいー……!」


 行商人の一人と思われる人物が一人、傍目浮遊したまま子供に服を掴まれている。不安定なのか転落しそうになりそうなのを堪え子どもをあやしているようだった。

 対して荷車を引いている牛のような生き物は呑気にあくびをしており、まるで気にしていないのがちょっと笑えてしまう。


「こらこら。あんまり困ったこと言っちゃ駄目だろう? 落ちちゃうからその手離しなさいな」

「あー! 兄ちゃん!」


 流石に見かねたので俺が声をかけると男児がすぐ反応する。そして興味が移り変わったのかこちらにひょいっと近づいてきた。

 何度も遊びに付き合った子の一人だったのですんなり手を離してくれたようだ。


「おっと? 何やら村の人達と違った雰囲気の人が来たね」

「どうも。行商さんが来てるって聞いてちょっと気になったもので」


 こちらの存在に気が付いたらしい二人と視線が合う。

 小人さんの方は特に何も感じないが、獣人さんの方からはジッと深く見られているらしい。まるで相手を推し量る……そんな雰囲気の伝わる目力を感じた。


 女性ならばこの熱い視線は悪い気はしないのだが今回は男性だ。

 鋭い視線はなんかこう……無駄に緊張を強いられる。そんな見ちゃいやん。


「ね、ね! 兄ちゃん達も何か見に来たの?」

「見に来たっていうか、話を聞きに来たって言った方がいいかな」

「あ、小人さん。さっき話した術を使うのがこのお兄ちゃんなんだよ」

「えっ!? さっきの話って実話だったの!? その人が爆走アメンボの術で水の上を走るっていう……」


 小人さんが驚きの声を上げコントみたくズルっと足を崩す。その挙動を見て俺は器用な人だなーと思った。


 というか君何教えてんのさ。変な子って思われるからあんまりそういう話は周りに言っちゃ駄目じゃないか。

 そりゃ大人が聞いたら話半分になりますよねぇ。小人さんのその反応は分かりますわ。


「水の上走れるってほんとにぃ?」

「本当だってば。ね? 兄ちゃん」

「……まあ事実だな」


 相手に信用してもらえるかは別にして事実は事実である。疑いの眼差しを向けられているのは分かるが否定する理由はなかった。

 ただ気持ちとしては子どもみたいな術名やらを肯定しなければいけないというのが大人して恥ずかしさを覚えるので答えづらくはあった。初対面の相手なら尚更だ。身内ならともかく。


 命名はその場の勢いだったんスよ……。お願いだから言いふらして回るのやめて?


「普通人って水の上は走れなくない?」

「プカプカ飛んでるような人に疑われましてもねぇ」

「まあ確かに。正確には浮くなんだけど――でも実際僕は飛んでるもーん」


 もーんじゃないよ。そんな子どもみたいに勝ち誇ったような言い方されても。


 ただ小人さんの言い分はご尤もである。証明できているものに疑いの余地はない。


 しかしこの子が嘘を言っていると思われるのはよろしくない。精神衛生上まったくよろしくない。

 というわけでこの話の信憑性を明らかにする意味ならば――。


「じゃあ俺も浮いてみましょうか」

「は?」

「ほら。これで一緒ですね。なら水の上を走るって話も珍しくもないでしょう?」


 その場で軽くジャンプし、『エアブロック』で作った足場へそのまま着地する。

 地を踏み締めている姿勢は違和感があるが、これも一見飛んでいると見えるような構図だ。


 こういうのは実演してしまうのが手っ取り早い。相手が珍しいと思ってやってることを同様に軽々やってのける。

 普通ではない自覚があることが前提にはなると思うけど、俺の話が真実味を増す要素にはなるはず。

 パイルも何も使わない、魔法もとい術式の使い方ができるのは俺だけだからな。


「兄ちゃんすっげー!? 空も飛べんの!?」

「ほ、本当に浮いてる……」


 男の子は大はしゃぎ。小人さんも目を丸くして浮きながら体を前のめりに傾けていた。獣人さんの方は取り乱したりこそしていないが珍しいものを見る目に変わっている。


 唯一無反応なのはセシリィくらいだ。多分この中で一番信じられないものを見てきたからこそだろう。この程度は最早日常である。


 ……個人的には普通の女の子の感性でいて欲しかったけども。


「一体どういう原理……?」


 それ、俺が今小人さんに思ってることと一緒です。

 小人さんもどうやって風のように浮いてるん? 俺は空中を歩くように見せることはできてもガチ浮遊はできんぞ。


「これはこれは……。久しぶりに訪れてみればとんでもない人に会えたもんだね。お兄さん何者? 只者じゃないよね?」

「只者ではないので曲者ですかね」

「僕そういうこと言ってるわけじゃないんだけどなー」

「ハイ、冗談です。でも小人さんの方もフワフワ浮けるなんて只人ではないご様子……」

「うん。僕小人だからね。只人ではないよ」

「ハイ、知ってます」


 最初のリアクションから小人さんについてなんとなく人となりを予想してはいたが当たっていたらしい。わざとらしくボケれば反応してくれるし、振ればボケてくれる。


 この人ノリ良いわ。


「物も気になるところではありますが、色々お話しを聞かせてもらえませんか? ちょっとこれから遠出する予定があって、状況や情勢とか聞けると助かります」

「それは勿論。僕達もお兄さん達のこれまでの話とか聞いてみたいよ。情報交換しようよ」


 お互いに興味が湧いた意思を感じ、自然と顔にほころびが生じるのが分かった。


 取り合えずファーストコンタクトは問題なさそうだ。


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