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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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507話 『気』の秘密

 

 暗転した視界が元の状態に切り替わると、周囲から邪気は消え去っていた。

 暫く居場所を奪われていたのどかな雰囲気がこの場に帰り始めているらしく、澄んだ『気』とも呼ぶべき息吹が五感全てから感じられる。

 思い切り息を吸い込むとそれだけで身体が軽くなった気さえした。心無しか地の底からは土の豊かな匂いもしている。


「そん、な……」

「……」


『モルス≒ルクス』で刻印の刻まれた大地の塊を見てみたが、封印は無事終わったようだ。落ち着いた発光と一緒に訪れた静寂はこの騒ぎの終わりを確かに告げているらしい。

 その中でアスカさんのうわ言だけがハッキリと聞こえてきたので後ろから様子を窺うと、どうやらあまりの衝撃に言葉を失っているようであった。


 あれま、やっぱり上手く誤魔化せてたようでなによりですな。こっちに全然気づいてないや。

 まあそれだけ精巧に作ったつもりではあったけども。


「こんなことになるなんて……」


 安堵できる状況になったからなのか。呆然としているアスカさんを見ていて不謹慎にも俺の中にいたずら心というものが湧く。


 折角だし……ここは悪ノリしてみようかね。


「良い……奴でしたね……」

「ああ。でもここまでする必要なんてなかったはずだ。彼にはまだ――」

「そう気を落とさずに。貴方が気に止む必要はありません。それに……彼はきっと平気ですよ。うん、きっとそうに決まってる」

「……うん。そうだろうね。――で? これは一体どういうことなんだい?」


 白々しさ満載で言ってみて、最初は『お? いけんじゃね?』と思ったが上手くはいかなかったようだ。

 途中で状況を把握して理解してしまったアスカさんが、一瞬の逡巡の後に頭を抱えるように難しい顔で振り向き俺に問う。大して俺はその顔が直視できず口笛を吹いて誤魔化すだけだった。


 チッ、案外気付くの早かったな。いやむしろこれが普通か。

 折角自分で自分を殺した風に見せたのに……。

 次は力を使いきっても実体が残るように工夫するなりしてみようかな。問題は魔力だけじゃ実現が厳しそうな点だけど。


「さっきまでの俺は分身体です。んで、本物はこっち」


 次の機会があるかはまだ分からないものの、内心で改善点を押さえつつ自分を指差してこの状況を説明する。ついでに身振りも手振りも添えて健在もアピールしながら。


 今はアスカさんの疑問に答えるのが先だ。


「もしかしなくても、目の色が変わった時かい?」

「ええ」

「そうか……。じゃああの時点で、それも僕の目の前で入れ替わってたのか」


 アスカさんは口にこそしなかったが、驚かすなと言わんばかりの表情で安堵していた。

 流石にこの反応には少しばかりの良心が傷んだ。だがその反面、それだけの技量が自分に扱えると分かったのは僥倖であるのも事実。

 複雑ではあるが後悔はない。


「なら僕は……分身体の君を本物と勘違いしていたってことか」

「まあそうなりますね。一応本物らしく振る舞ったりしてはいましたけど」


 なんとなく全部悟っていそうなアスカさんに今更種明かしをする必要はなさそうだったため、偽物であったことは明確に伝えておいた。


 肯定の力を使った瞬間、俺は分身体とすり替わるように『転移』でこの盆地の上空へと移動した。勿論【隠密】で全ての存在感を絶ってだ。

 俺がアスカさんと手合わせをしていた最大の理由は『気』についての理解を深めること。そのために最善を尽くす必要があり、そのために分身体が必要だったから作った。

 この行動に出た理由はそれだけである。ルキフグスが現れたことは想定外だったが、分身体を使ったこととは関係ない。


 肯定の力を使った状態での至近距離による体感や実感。観察によるアスカさんという比較対象と俺自身の客観的な違い。魔力の動きや恐らく『気』と思われる力の流れの関連性について等々。

 初めはちんぷんかんぷんでも、バラバラの情報は繋ぎ合わせると俺に少しずつ理解という答えを仄めかしていくような気がしていた。

 そしてそれは間違いではなかったはずだ。今はまだ成果の芽が出ずとも今後の鍛錬で実ると信じたい。


「色々と言いたいことはあるんだけど……そうじゃないんだよなぁ」

「はい?」

「でも納得だ。あれだけ急に『気』の統率が取れ始めたのに力の増大を感じなかったのはそれが理由か。本音を言うと信じがたいんだけど君だしなぁ……。強化する前の状態そっくりに分身体を作ったってところか。……狐に化かされた気分だ」

「もうそこまで分かっちゃうんですか。ぶっちゃけアスカさん相手じゃバレやしないかとヒヤヒヤしてたんですけど、流石ですね」


 分身体を作ること自体は割と簡単であっても、その後の操作は簡単ではない。精巧に作れば作る程にその維持の難易度は上がっていく。

 五感は意識をある程度移せば本体とリンクして機能させられるが、身体の動きの操作に至っては全部自分で命令を与えなければいけないからだ。

 ゴーレムのように能力も大して与えず自立性を僅かばかり持たせればある程度の動きは勝手に保障される。だがここまで俺自身と近い能力を持たせるとなると、自立性を付与する余裕もないどころか制御しきれなくなるのが関の山だ。


 現に俺は操るのでほぼ手一杯だった。身体一つ一つの動きから表情に至るまで、俺が逐一全てを作り、操作しなくてはいけないのはかなりの神経を使わされたもんだ。

 だって本体と分身体の視界がごちゃごちゃになりそうなだけでもうキツイんだもの。そこに魔力の配分とか微調整まで加わったらあら大変。

 肯定の力があってこそどうにかなっているが、俺の脳みそ自体はそんな容量よく受け入れるだけのスペックなんぞないない。沸騰寸前で正直酔いそうだったくらいだ。

 しかしそこはアスカさんが相手。手を抜こうものならすぐに見破られていたに違いないので耐える必要があったわけですけども。


「流石なのはそっちだろうに。でもそうしてくれなかったら僕は『神化黎明』を使えなかったろうね。同調させるなんて夢のまた夢みたいな話だ」

「『神化黎明』が実際どんなものかはイマイチ分かってないんですが……なんとなく察します」


 アスカさんの言わんとすることはなんとなくだが分かる。分身体の俺と同調しただけでアスカさんの身体は耐えきれずに血を吹き出していたのがポイントだろう。

 ということは本物の俺と同調しようものなら……とても良い想像は出来そうもない。

 俺は一瞬アスカさんから視線を逸らしてしまった。


「――ところでさ、これはこれからどうするつもりなんだい?」

「これって……どっちのです? この惨状の方ですか? それともコイツ?」


 閑話休題。

 少しの沈黙の後、我に返るようにアスカさんに突然どっちかを聞かれ、一体どちらのことを指しているか分からず俺は聞き返していた。


 真下には目を覆うような大穴。目の前には災厄を封印した超物体。

 どちらに言えることではあるが、とにかくやり過ぎたのは一緒である。


 うん。つまりはお片付けのことですな? 


「……ルキフグスの方、かな? もう僕には奴の『気』すら感じられない。でも封印だから死んだというわけじゃないんだろう?」

「確実に生きてますよ。ちゃんとこの中にまだいます。――けど、核は崩壊させたままの状態で固定してるんで仮死状態ってやつが正しいのかな。まあこんな状態なんで死んだと思ってもらっても構いません」

「そうか、それなら安心だ。……それで? これをこれからどうするのか聞いても?」

「取りあえずコイツは俺が預かろうと思います。それが無理なら少し考えますけど――あ。大丈夫そう」


 言われなくても最後まで責任は持つつもりだったのですぐに俺は行動へと移った。

 超物体の真下に『アイテムボックス』の収納空間を広げ、少しずつそこへと落とし込んでみると、空間に弾かれることなく入り込んでいく様子が見られ心配は杞憂だったと気付く。


『アイテムボックス』には生きた生物を入れることができないという特徴がある。

 果たして仮死状態というものがどう認識されるのか……。この辺は少し曖昧な部分があるので不安だったが、どうやら収納して保有することは特に問題なさそうだった。


 ただ、圧縮しまくったとはいえ質量の影響からか滅茶苦茶容量食ってんなコイツ。なんというか、色んな意味でクッソ重い……。

 俺のがら空きだった収納スペースが一気に圧迫されて凄く邪魔くさいし、腹に異物詰め込められた気分だわ。


「コイツに関しては後は俺がどうにかしときますよ。それでいいですかね?」

「そりゃ僕は構わないけど……いいのかい? 言ってはなんだけど、保有するなんて危ないんじゃ……」


 ルキフグスを完全に仕舞うと、アスカさんが至極当然の心配をしてくれたらしい。


 ま、ご尤もだな。例え仮死状態でも災厄クラスの化物であるのは事実。そんなもんを内に抱えるとか爆弾背負ってんのと何ら変わんないもんな。


「危険は承知の上です。でも現状俺が監視下に置く以上に安全な措置が見当たらないですから。もし万が一何かあったとしても、俺なら再封印、もしくは最悪駆除という対処もできる。だから俺が預かってるのが一番今後被害が出ないんですよ」


 だが他に良い落としどころがない以上、この手を取らざるを得ないのが現状だ。


 それに、これでこの地はようやく根付いていた災厄から解放されるわけだ。

 もうこの先災厄に脅かされることもなく、安息の日々を送れる。だから出来れば世話になった人達に俺がしてあげられることの一つとして受け取って貰えたらとは思う。

 『気』を教えてもらったお礼として。


「さて、コイツの心配も要らなくなったしこの大穴は後日元に戻すとして……そろそろ戻りますか。皆心配してるでしょうし」


 内心ではそんなことも考えつつ、俺は少し無理矢理話を打ち切る。

 セシリィ達外野組の安否は既に把握済みだが、これは単なる口実だ。もうこの場に用はないため戻る以外の選択肢がなかったからである。


「あ、やっぱりこの大穴も直せるのか……。君、底無し過ぎるよ。これで『気』まで身につけたら一体どうなるんだ……」

「さあ? 化物を超えた何か……ですかね?」

「怖いこと言わないでくれ。そんなのもう……ある意味神様みたいなものじゃないか」

「そりゃ恐れ多いッスね。本物のフリード様に近づけるんなら光栄だ」


 アスカさんの茶化しを笑い飛ばし、俺は動けないアスカさんの肩を担ぐ。そして足場にした結界をそのまま移動させ、肯定の力による最後の仕事を果たす。

 大穴を臨むように並んだ人影に手を振って安否を伝え、俺達はこの場を後にした。


「……」


 自分でも何を目指しているかなんて分からない。それでも……化物で収まってるだけじゃ俺は駄目なんだ。また後悔するような気がしてならないから。

 どのみちこのままでいてはアイツに……あの本当の化物に(・・・・・・)対抗なんてできない。


 ここで肯定の力が解放できたのは恐らく偶然じゃない。神獣達が一切止めに入ってこなかったのは無言のメッセージと受け取って良いはずだ。

 俺は今回、ここで力を解放しなければならなかったんだと。


 この得た経験をこのまま殺してはいけない。必ず活かしきらねばならない。

 まさか『気』を理解するために魔力をより理解することがそのきっかけになるとは思いもしなかった。俺一人ではこのカラクリに気が付くことなんて到底できるわけがなかっただろう。肯定の力様様だ。


『気』は万物に宿り、魔力もまた万物に宿っている。そしてアスカさんが神気を纏うことができたこと……。

 最初から全ての答えはずっと俺の目の前にあった。


 あとは俺の意識と感性次第だ。


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