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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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500話 内なる力②

 

 身体が軽い。まるでさっきまでは枷があったかのように四肢が動き、自由に動かせる。

 減っていたはずの魔力は充填され、通常よりも保有量が増えているのが感覚で分かった。


 やっぱり否定の力と一緒で凄まじい上昇効果だな。

 あっちは傷の回復力が早まってたけど、こっちは魔力の回復量が最早狂ってる。


「さっきまでとは比べ物にならないくらい『気』の統率が取れてる。この短時間にもう何か掴んだのかい?」


 俺の変化に気付いたアスカさんが一層警戒して目を凝らす。

 初めて見る俺の状態の対策に困っているのだろう。見た目だけなら目の変化以外に大きな変化はないのだから。


「まぁちょっとズルしてまして。――ところで身体に何かお変わりはないですかね?」

「身体? いや、こっちは特に何もないけど……」


『気』の統率が取れたと聞いたので俺が少し気になったことを聞いてみると、アスカさんは不思議そうな顔で質問に答えてくれた。


 そっかそっか。それを聞いて安心した。

 なら上手く調節出来てるみたいだな。それにこっちの先手に気づいてもなさそうだ。


「――と、その前に。大分荒らしちゃったし……取りあえず直すか」

 

 初手の成功に喜びつつ、俺は一度周囲を見回してから作業に取り掛かる。

 随分と只の盆地が荒れ果てた荒野みたいになっていたが、仕切り直すなら環境も全部元に戻してしまおうと考えたのだ。


「ホレ、直れ直れ」


 両手に魔力を纏わせ、思うがままに放出する。

 通常なら型に縛られるはずの枷が外れ、自分の手足のように魔力が俺の想像を忠実に再現して動いてくれる。


 記憶に新しい最初に此処へ来た時の光景。それに限りなく戻すには不可欠な力である。

 俺では成し得ない想像力とそれを実現できる演算能力は、実際に使っているからこそ到底届かない領域なのだと思い知らされる。


「お、おい……!? なんだこの揺れは……!?」


 アスカさんが波打つ地面に視線を向けて狼狽える。


 足元に重い振動が響き、地面が地盤ごと動いているのが伝わってくる。

 俺達が剣閃を刻んだ大地が張り付くように繋がり、めくれた地面や瓦礫が均され割れた大地の隙間を埋めていく。

 水浸しにして充満した湿気は水分を掻き集めて球形に戻し、一度氷結させて盆地の隅へと追いやると、地面が僅かな水分を残して乾く、土の匂いが薫る大地へと様変わりした。


 草木は後で生やすとして、まぁこんなもんか?

 まだ馴染んでないせいか思ったよりも時間食ったけど……。


「いや、でもう~ん、ちょっと粗が目立つ……? 微妙に平じゃないから気になる……。でもこのくらいは妥協できるラインか……? ねぇアスカさん、ここの盆地こんなもんでしたっけ?」

「地形を戻した……!?」


 盆地の元の姿をよく知るアスカさんに状態を確認してもらおうと聞いてみたが、聞こえていないようだった。


 あー……そりゃさっきまでとまるでスケールが違うからなぁ。驚くか。

 本来術式はある程度決まった形でしか顕現させられないわけで、その常識を覆した未知の規模の術式をやったようなもんだもんな。

 術式にこんな魔法なんてない。アイズさんがいたらもう一回やってとか言ってきそうだ。


「……丁度良いや。アスカさん、ちょっと身体の傷治しますから動かないでくださいねー」

「へ?」

「禁忌を犯す我を許したまえ――『リバイバルライフ』」


 指先に魔力を一点にして集め、アスカさんに向けて解き放った。

 以前使用した時の全身から魔力を奪われるような脱力感はなく、魔力がそこそこ出たなという感想くらいしか湧かなかった。

 その差はまさに歴然。最早超級魔法の部類が中級クラスの扱いになっていた。


「傷が……癒えて……!? それに、体力も戻って……?」

「それならある程度保ちそうですかね。折角の本気、俺も長く視させてもらいたいですから」


 アスカさんも自身の変化に気付いたようで、流石に苦痛からの解放はすぐに分かったらしい。


 折角『気』の本領を見せてくれるっていうのに、僅かな間だけというのは勿体ない。

 アスカさんもその気であるなら俺も支援は惜しまない。お互いにメリットのあることである。


「あ、ああ……。むしろ万全と言っていいくらいの状態だよ。助かった」

「それなら良かった」


 アスカさんの皮膚から流れ出していた血が止まった。

 傷は癒えてもそれは一時的なもの。また身体はすぐにでも悲鳴を上げて新たな傷を作るだろう。


 だから次はもうやめにしよう。

 流石に俺とて傷ついて全快させてを繰り返し強要する程鬼畜な思考はしていない。

 そんなことをやるとしたら自分自身で、だ。人に強要するものじゃない。


「こんな術式まで……。ここまでの変化をもたらすのかい? 効力が段違いに上がり過ぎているんじゃ……」

「まぁ言うなれば術式特化の形態みたいなものですから。普段の俺の術式能力が強化したと考えてもらえればいいんじゃないですかね?」

「……どういうことだ? そうだとしたらおかしい。抑えておくには力そのものが強大過ぎる。ここまでの変化が起きて内部の増減もしないで気づけないわけが――」

「……?」


 俺の簡素な返答を聞くとアスカさんは難しい顔をして黙りこくってしまった。

 独り言を呟き自問自答しているのを尻目に、俺は蚊帳の外に放り出されたような気持ちにされてしまった。


「――はは、まるで分からないな! 君に『気』の常識を求めるのが間違ってるのか。……ここではもう止しておくよ」


 やがて結論が出たのか、はたまた諦めがついたのか。アスカさんはそう言って締め括った。

 俺にはアスカさんの考えていることは分からなかったが、しかしこの力そのものが理解しきれない程のものであることは悟れた。

 それがなんだか誇らしく、自分の力でなくとも自慢したくなる。


「そうですよ。この力は簡単に理解なんてできる代物じゃない。そんな天才が持っていたはずの力だ……!」

「恐ろしいね……! そんな人から力を借りられる君は一体なんなんだ? それを受け入れられる器も……!」

「さぁ? それは記憶が戻らんと分かんない話ですね――!」


 そこを皮切りに、アスカさんが動いた。一切の遠慮のない、全力の速度で。

 わざわざ開始の合図を取る必要はないし、要らぬ気遣いというもの。

 アスカさんは『神化黎明』を、俺は肯定の力をいち早く使いたかったのだ。


 そして視たかった。俺がこれから身に着けようとする力の正体を。

 アスカさんの纏う神気の影に隠れ、魔力と似た動きをするものがあるところまでは視えている……!




「『歩法・森奥』――!」


 アスカさんの姿が霞み、景色に溶け込む。

 気配も絶たれ、まるで世界の一部のように始めからそこにいる存在にしか見えなくなった。


 また新たな『歩法』か。

 見えてるのに認識しづらいってのは、不思議な感覚だ。


 今のアスカさんを個として狙うのは正確性に欠けると判断し、俺は目の前に広がる空間目掛け、咄嗟に作った氷の礫を叩きつけるように差し向ける。

 この魔法に名はないし、付ける気もない。名付けるにはお粗末な構築内容だからだ。


 すると、アスカさんが鞘に納めた刀を両手で全面へと向け、一瞬だけ刀身を覗かせる。


「『冥華居合・伏折』!」


 一瞬の刀身に反射した光が閉じ、鞘に収まった金属音がした後。氷の礫は中心部から切り開かれ、ぱっくりとアスカさんを避けるようにして開いて逸れてしまった。

 それはまるで門が開いたようでさえあり、正直これは何をされたかすら俺には分からないし、視えもしなかった。


 恐らくは『気』を見極めて軌道をズラしたのだろうが、その動作があまりにも速すぎる。

 最低限の一刀で自分の安全確保と接近をこなすとかアンタこそ何者だよ!


「流石に動じないか。なら、これならどうだ!」


 いや、動じてますがな。焦ってはいないってだけで。


 内心言われたことをそっくり返していると、アスカさんが俺へと跳びかかり、鞘に納めた刀を振り抜く。


 ――あ、炎熱系くるなこれ。


「『絶華居合・紅椿』!」

「『結晶氷壁(クリスタル・ロック)』」


 アスカさんが放つ『神気』を目で追っていると、何故だか繰り出してくる技が俺には予測できた。

 対抗するため自身を氷の結晶で覆って身を固めると、眼前で刀身を抜き出した傍から火花を放つ、強烈な発火と斬撃が同時に浴びせられた。

 熱に高い耐性を持つはずの『結晶氷壁(クリスタル・ロック)』の表層が僅かに解け、その威力を物語っていた。


 少しとはいえコイツを溶かすなんて相当な火力だ。

 だけど……なんで俺今分かったんだろ? 


「この技で溶かせないのか……! なら――!」


 俺の内心など知る由もないアスカさんは既に次の行動へと乗り出していた。

『縮地』を併用しながら俺の周囲を目にも止まらぬ直線の動きで一周し、四度『結晶氷壁(クリスタル・ロック)』を斬りつける。

 斬撃は然程重くなく傷一つ付けられていないようだったが、一周が終わると共に斬りつけた箇所が突然同時にひび割れ、こちらの魔力の制御を切り離して崩壊させられてしまった。


「『冥華・雪解』!」

「っ……!」


 オイオイマジか。

 核を斬られたわけじゃないのに、魔力の制御が強制的に解除された……? こんな技まで持ってるのか。


 砕けた氷が降り注ぐ最中、アスカさんの動きが連続していて猶予はなさそうだった。

 横薙ぎの一閃が今振り抜かれようとしており、俺も防御のために手を突き出した。


「『障壁――』」

「防御のつもりか!? その程度じゃ――!?」


 既に見たことのある魔法は通じないと言わんばかりに声を張り上げるアスカさん。

 しかし、ドスッ……と、鋭い一閃に似合わない音が立った。


「……さっきまでと一緒だと思います?」

「くっ……!」


 勢いよく刀が『障壁』に食い込み、振り抜くことも砕くこともさせなかったのだ。

『障壁』は斬り込みを入れられながらも顕在し、その発動をまだ終えていない。


「『障壁』従来の強度主体の性質を作り変えました。強度を粘度に置き換えて高くしてみたんですけど……上手く嵌ってくれましたね」


 歯を食いしばって刀を引き抜こうとするアスカさんに向けて俺は伝える。

 俺が発動したのは『障壁』だが、その性質は『障壁』とはまるで異なる。言うなれば『障壁・土』というところか。

『障壁』に土属性を組み込んで作り変えた変則魔法だ。


「核まで届かないと厄介でしょ? ……まぁ結構ギリギリでヒヤッとしてますけどね」


 アスカさんが魔法を斬れることは十分に分かった。しかし、それは魔法の核を斬ることで消失させられるからである。

 卓越した剣術に、アスカさん自身の能力の高さ。その二つも相まって核に届かせているのが分かっているなら、核までの間に工夫を凝らして届かせなければいい。

 今なら魔法を作り変えるのはそう難しいことでもない。特に『障壁』のように発動する内容が元から定まっているならばアレンジのみに集中できるので、オリジナルで作る魔法よりも効果が期待できる。


 今さっき『結晶氷壁(クリスタル・ロック)』を壊された時は対策できないのかと思ったが、わざわざ四回も斬りつける下準備があったしな。あれは例外だろう。

 恐らく局所的な共振によるラグを利用した破壊方法だと俺は睨んでいる。『灼熱砲(イグニヴァルカン)』や『塵滅圧(ヴァジュテグラ)』のように負荷の大きいものがそれに当たると思われる。


 ――うん。始まったばかりだけど『気』についてだがなんとなく分かってきた気がする。俺の認識が間違ってなければ、になるけど。

 けどこんなことってあるのか? これ、ある意味最初が肝心すぎるんだが……。環境によっては一生気づけない可能性ないか……?


 あともうちょい……もうちょいだけ観察したいところだ。

 肌で確かめる(・・・・・・)のはその後でも(・・・・・・)いい(・・)


「これから使う魔法が元と同じとは思わないことです」

「ああ。そう思ってやらせてもらうよ……!」

「それじゃ早速――ふんっ!」


 観察して蓄積する『気』という存在のデータをまとめながら、アスカさんの返答を聞き次第次は俺から仕掛けることにした。

 刀を食い止めていた『障壁・土』に手を押し当て、振動波を壁を隔てたアスカさんの身体へと流し込む。


 魔法で疑似的に再現する体技の一つだ。確か『練武』とか言ったっけ?


「うっ……! 何を……!?」


 振動に耐えられなかった『障壁』は自壊すると、小さな破片として前方へと散らばった。まだ魔力が通い生きたその破片に再び魔力を与え、今度は頑丈な散弾の弾代わりにして風と共に穿つ。


「っ……『金剛華身』!」


 一身に散弾を受けながらアスカさんが破片から目を庇いつつ後ろに蹈鞴を踏み、防御の態勢を取った。

 身体を削っていた破片が不自然な削り音を立てると、同時に新たな傷は付かなくなり効果がなくなったようだ。


 またその防御か。

 だがその防御は使っている間は動きが鈍くなる――!


「砕き進め」


 両の手のひらを押し当て、水と土の混合魔力に火の魔力をねじ合わせる。

 それは衝撃に反応して爆発する力を氷で模した矢に内包し、最大強化した土の力で補強したオリジナルの魔法。

 誰が言ったか「クールと熱血のコンビって強そうじゃない?」をコンセプトに考案されたものだ。

 それを手の動きに合わせ、アスカさんに向かって射出する。


「ぬぁっ……!?」


 防御の構えだけでは足りないと咄嗟に理解したのだろう。アスカさんが刀でその矢を受け止めた。

 だがその矢は折れず止まらず、その勢いを増す。爆発音と共に。

 矢じりを突き立てたが最後、杭を打ち込むように定点からその矛先をグイグイと押し込んでいく。


「っ……!? 一体どんな術式の構築をしてるんだ……! 『気』の流れまでふざけたことになってるじゃないか……!」


 アスカさんが今にも自分を貫こうとする矢を直視しながら目を見開く。その時、二度目の爆発音が響き渡った。

『気』はともかく、魔法の構築内容事体は超級にも引けは取らないだろう。だが扱い自体はこれでも上級クラスだ。


 対個人用としては、だが。


「マズい……これ、以上……は……!?」


 突き刺さり止まろうものなら内部の爆発で推進を続け、枯れ果てるまでそれは止まることを知らない。

 矢の内側を煌めく発光は鍛冶師が槌を振り下ろして飛ばす火花のように映る。そのことからこの魔法には名前が付けられている。

 その名も――『銀槌の矢』と。


 そして今、三度目の爆発音が鳴った。

 そこで遂にアスカさんの足が地を離れ、推進力に負けて俺から遠ざかった。

 遥か後方に吹き飛ばされ、やがて矢が消失すると同時にアスカさんはすかさず姿勢を整えると、警戒しながら肩を上下させていた。


 ……予想通りというか、まぁ加減してるし普通に耐えるかそりゃ。常人なら即死だろうけど。

 だがこれでようやく俺の適性圏内に入ってくれたな。やっぱし近いと扱いにくいわこの力。

 扱いは割と繊細なくせに、否定と違って荒っぽい使い方の方が制御楽なんだよなぁ。


 全く、誰かさんにそっくりだぜ。


 使うことを惜しんでいたはずなのに、力を使えば使う程に不思議と身体に馴染み、安心感が増していく。

 次はもっとうまく扱えると思ったその矢先――。




「……なんだ、コイツ……?」




 俺の広げる感知の最端で蠢く、とある異変に気が付いた。


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