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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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468話 『剣聖』救出作戦:最終段階②

 


 兎にも角にも、この囲まれた状態を早速打開しよう。


「ふっ!」

「「「くぅっ!?」」」


 兵士達が息を合わせ、俺に一斉に襲い掛かろうとしてきたタイミングに合わせる。

『螺旋』と同じ型であるが、俺は決して魔力は込めずにただ思い切り剣を振り回した。その際発生した風圧によって周囲の兵士を押し返し、武器を手放させると同時に尻もちをつかせる。


「なんだ今の!?」


 尻もちをついた兵士の一人が目を見開いて驚きを露わにする。前後の流れから緊迫感も相当大きそうであり、心臓が荒ぶって落ち着かない様子だ。起こるはずのない突風が身を襲えば、下手をすれば死んでいたかもしれないという考えが働いてもおかしくない。


 でもまぁ、安心していただきたい。流石に俺とて純粋に剣を振るっただけじゃ斬撃を飛ばすことなんてできんから。

 これが『螺旋』だったら斬撃の範囲が広がって真っ二つになってんだろうけど、殺傷性を抑えるということを考えるならこんなに手軽な方法はない。


「――『ソニックスライド』!」

「っ!?」


 振り抜いた大剣を下ろすよりも前だろうか。

 包囲網を崩した途端、まるでその穴を補完したかのようだった。どこからかそんな掛け声が聞こえた。

 そして後続に控えていた兵の一人が目にも止まらぬ速度で突っ込んでくるのが見えると、華麗なステップを踏んで俺の周りを駆けまわってきたのだ。

 その華麗なる動きを見ての俺の感想はと言うと、とにかく疾いだった。


「今のはまさか剣圧か? その見た目からは想像もつかぬ膂力の持ち主のようだな」

「それはどうも」

「膂力については今ので理解した。しかし速度の方は果たしてどうかな? ――まだまだ加速するぞ! 付いて来れるか!?」


 回りを風を切りながら誰かが言う。

 一見挑発的な発言のようにも思えるが、口調的にはどうやら挑戦的な人のようだ。自分の実力に自信を持っている人のそれと同じ印象を俺は覚えた。


 この人がそういう人であるのは分かった。でもその前に、これは移動速度上昇系のスキルなのか? だとしたら『身体強化』以外にもこんなのがあんのか……知らんかったわ。


 知識に覚えのないスキル? を繰り出され、その新鮮な光景が目に焼き付く。手から足を始め、視線の動きに至るまでの動作全てを食い入るように観察してしまいそうになる。


 俺はそういう自己強化系は持ってないから羨ましいな。てかこんな動き回りながら喋ってたら舌噛みますよ。


「果てよ――!」


 突っ立っている俺が動きについてこれていないと勘違いしたのか、先陣を切った兵士が一人、その無防備な姿を目の前に曝け出して躍り出る。手には他の兵士の持つ装備と同様の剣が握られ、振り抜く準備が終わっていたが脅威はまだ感じない。

 対する俺は大剣をまだ右手にただ持ったままだ。受けるにしても反撃するにしても、予備動作の間に事は片付けられてしまうのだろう。


『ソニックスライド』と言ったっけ? 

 確かにその名の通り速いし、目にも止まらぬとはまさしくこのことだとは思う。


「悪いな。それでも素の私の方が何倍も速い」

「っ!?」


 既に構えていた剣は振り抜けば俺の首を一閃していたはずだ。それでも、卑しく確信ある笑み浮かべていたその表情を一瞬で俺はぶち壊す。

 剣を使うまでもなくフリーである左手を横へと払い、羽虫を弾くのと一緒の感覚で兵士を真横に吹き飛ばした。

 上がった速度と同じ速度のまま、水平に吹き飛んで中庭を転がる様は、まるで跳ねながら転がるボールのようだった。


「ガハッ……!? ……な、なに、が……!?」


 肩に当たったか……まぁ精々骨折程度だろう。なら命に別状はないはずだ。


 まだ大して痛みを感じていないのか兵士は喚くことも出来ず、仰向けに横たわって空を見上げていた。

 その内歪に曲がっている腕に気が付いた時は発狂することになるかもしれないが、殺す気で掛かってきたのならこの程度で済んでいることを感謝してもらいたい。

 死なないならそれが十分な情けだろ?


「「「っ……!?」」」


 周りの兵士達に動揺が走るのを感じた。俺に構えていた武器の切先はブレ、構えが疎かになっている。


 別に向かってこないならそれはそれで構わないのだ。

 何故なら今のは見せしめでもあるから。俺は時間さえ稼げればそれでいい。

 ただ、軍側はどうせ静観しているわけがないと踏んだからこそ武力行使をしているだけであって、何もしてこないならそれに越したことはない。


 俺の存在はもう認知されているし当面の目的は大部分果たした。後は俺の思うがままの時間だ。

 だからやられたらやり返す。基本俺から攻撃することはないがな。


「ったく、一人で突っ走るからだ!」

「油断してんなよ……!」


 今の光景が引き金となったのは確実だ。しかし、逆上してのことなのか、それとも後に続いただけなのかは不明だ。

 今あしらった兵士の後ろに控えていた二人組が、呆れ半分に同じスキルを駆使して俺の周囲を拘束で動き回る。風を切る音も単純に倍になり、俺の周りに風のバリアが張られているのかと想像してしまいそうになったのは内緒である。


 今さっきの人と同じくらいの速さ……。凄いな、こんなスキル使いがまだ二人もいるのか。

 どれだけこの速さが持続するのかは分からないけど、二人もいたら大抵の人の相手は翻弄できるんじゃ……。流石に有能な人材が豊富だなここは。

 けどこの程度、武器使うまでもなかったかね――!


「キース! 合わせろ!」

「任せろ!」


 呼びかけと同時に二方向から同時に迫る太刀筋を見切り、片方の刃には左手を側面に添えて受け流して地面に落とし込む。もう一方は大剣で受け止めつつ、こちらの重量を逆に押し付けて弾き飛ばした。


「おわっ!?」

「ぐぅっ!?」


 身体のバランスを失い、その反動に思わず二人が声をあげた。勢い余って前と後ろに蹈鞴を踏む者とで別れ、二人は無防備を晒している。

 それを見てすぐに俺は背中を向けた兵の首根っこを掴んで捕まえる。そのまま背中を向けた一人に向けてもう一人を投げつけ、二人まとめて軽くあしらってやった。


 俺にこの程度の速さはなんの意味も無いぞ。数が増えた所で何が変わる?


 もつれ込む二人の兵士が頭から地面を転がり、顔を中心に土塗れになる。




 ――生ぬるい! 




「強襲隊が一気に三人もやられたぞ……!?」

「こんな簡単に、だと……!?」


 何度目的を思い出しても、一瞬にしてまた呆気に取られていく光景には何度目かと内心思わざるを得ない。


 意思によっておかしくなっている人達に自分がおかしく思われてるのは皮肉なもんだ。

 それだけ俺が感じている感性が間違ってなかったってことの証明でもあるから、なんとも言えんけどな。


「こ、後衛部隊! 何をぼさっとしているっ! さっさとパイルを起動せよ!」

「っ!? は、ハッ!」


 恐らく上官の一人が激を飛ばして全員を我に戻すと、陣形の最後方にいた者達が一斉に動き出した。手には例のパイルと呼ばれる不思議な機器を持ち、それぞれが大小様々かつ形状が微妙に違っているようだ。

 杖のタイプのものもあれば、腕輪に近しい形状のものもある。

 この辺はアイズさんから聞いてはいたが、多分その人それぞれの調整と仕様が施されているのだろう。それだけ術式を扱うのは難しいとのこと。


 ……まだ特殊部隊の上官達は結界の件でこの場にはいないはず。来るとしてもまだ早すぎる。

 ということは、この人らは少し術式を扱える人達ということだろうか? 術をまともに使える人はかなり少ないという話だし。


「とにかく奴の動きを封じるのだ! 詠唱を始め「させるか。『バインドクロス』!」


 遅い! 


 相手が詠唱を口にしようとするよりも前に手をかざし、魔力を解き放つ。地面から一斉に大量の黒の帯を無数に発現させると、身近にいた者を片っ端から巻き付けて地面へと縫い付ける。


 術者の詠唱中は無防備で好機! 無詠唱のこっちが劣る道理はない! 練度が低いなら尚更だ。


「っ……これは術式か!? まさか未知の……!? や、やはり先程見たのは紛れもなく本当だったというのか!? 術式をパイルの介在もなしに発動するなど……!?」

「一応パイルは使っているさ。大分小型ではありますがね」


 身動きを封じた上官に疑問視されてすぐ、俺は一つ嘘をついた。

 例え口先だけでも、パイルを使っていないと思われることは避けたかったためだ。

 アイズさんの今後のこともある。使っていない存在がいるとなれば、術式の解明、パイルの存在について言及され肩身の狭い状況に落としてしまう可能性があった。

 こちらとしても、軍の開発する魔道具等がこれ以上の発展を遂げてしまうのは好ましくない。確実にその技術は凶器へと用途を変え、軍の更なる拡大に一役買う結果へと繋がるだろうから。


「術者は封じた。小手先の小細工は無意味と知れ」

「っ……我々に構うなっ! 奴を討ち取れ!」

「う、うぉおおおおおっ!」

「怯むな! 行け! 行けぇええええっ!」


 ここまでの武力と技術の差を見せつけたことで、多少怯んでくれることを内心では期待していた。でも、それでも止まらない。上官の決死の形相と声が、士気を高めて皆を再起させる。

 一人、そしてまた一人と武器を構えて俺に突撃してくる者が増え、それぞれが持つ力の限りを尽くしてくる。そして声を掲げて己と周りを鼓舞し合い、目配りと仕草で連携し、武器やスキル、それら全てを集結させて俺を討とうと躍起になっていく。

 中庭を、闘気が満たしていった。


「でやぁああああ――げふっ!?」

「っ! 面白い! ならばその全て……受けて立つ!」


 敵ながら恐怖を押し殺して果敢に立ち向かってくる姿は称賛したくなる。恐怖は一度感じたら簡単に消えるものでもなく、また乗り越えられるものでもない。恐怖に耐えながらも向かってくる人にはそれ以上の称賛をしたい。


 俺が天使じゃないことを踏まえると、純粋にこの軍の勇ましい姿を見せてるってことなんだよな。

 自分の役作りがなかったら、俺も真正面から向き合いたかったなこれは。じゃないとこの姿勢を見せているこの人達に失礼だ。


 モヤっとしたもどかしさを不意に感じ、それでも俺はその感情を今は押し殺す。今はそれを押し殺してでも役作りに徹底する必要がある。


 俺のために、セシリィやアスカさん達のために、そして……未来のために。


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