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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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463話 『剣聖』救出作戦:第二段階③



 ◇◇◇




「『バインド』!」

「ッ!? ム゛~ッ!?」


 苦悶の声を背に、構わずに前へと突き進む。


 早くもこれで三人目か。来るときに遭遇した人の数を考えるに、まだまだ先は長そうで嫌になるなぁ。


 作戦の第二段階が開始され、俺は『剣聖』さんを抱えながら絶賛螺旋階段を下りながら逃走していた。

 行きの隠密行動とは違い、帰りの道中では出会う人全ての自由と意識を奪いながら。


「セーイ」

「う゛あっ!?」


 そしてまた一人、背後から迫る俺に気が付いていない兵士に向かって蹴りをなるべく優しく叩き込み、壁へと蹴り飛ばす。

 本当なら加減の難しい足よりも手を使いたいところであるが、生憎と今は両手が塞がってしまっている状態だ。この状況で手を使えというのは流石に無理である。


 やはり後ろからの襲撃があるとは思ってもいなさそうだ。それが普通なのだろうけども。

 あと蹴ってる時点で優しくないのは俺が一番分かっていることだ。

 ……まぁそこは許せと言いたい。


「『バインド』」


 突然壁に叩きこまれて錯乱されてしまう前に、こちらの方も『バインド』で締め上げて意識を奪っておく。


「すんませんね。忙しなくて」

「い、いえ……。ここまでとは……大変恐れ入りました」

「そりゃお褒めにあやかり……光栄ですっ……!」

「ぐっ!?」


 これで、五人目だ!


 手荒い挙動で振り回し、『剣聖』さんに負担を強いている気がして申し訳程度の謝罪は入れておく。


 思いの他『剣聖』さんが大人しくしてくれているお蔭で動きやすいこと動きやすいこと。

 なんというか、あんまり邪魔になってない的な?

 やはり武術に精通していることもあるのか、身体の重心の預け方が上手い。


「先程から随分と不思議な術を使うのですね?」

「只の魔法ですよ。いや術式って言った方がいいのかな?」


 俺が魔法を多用していることを不思議がったのだろう。アスカさんもだったが、あまり術式は一般に馴染みのないことが伺える。


 けど紛らわしいな。もう全部魔法って言っていいかね? 面倒だし。


 名称の違いにややこしさを感じつつ、一応は正式名称で『剣聖』さんへと返しておく。


「これが術式と呼ばれるものなのですか? 成程……話は存じ上げていましたが、『気』とは随分と違うものなのですね。似たものと思っていましたが……」

「(……はい?)」


 んん? 『気』……? 今そう言ったのかこの人?

 なんか知らん要素が出てきた気がするんですが……。そんなもんが実在するんですか?




 ――あーやめやめ。今はそんな未知のことを気にしてる場合じゃない。

 気になることはまた後! 今は逃走が先だ先。

 一刻も早く地下に戻って作戦の最終段階に進む。そこまでいってようやく肩の荷が下りるってもんだ。

 今重要な話でもないし、気に取られるわけにはいかん。


『気』という単語が脳裏から離れないままではあったが、その引っかかりを胸に無理矢理しまい込み、俺は来た道をそのまま引き返した。




 ◆◆◆




「ふいー……! 無事戻ってこれましたよっと」


 紆余曲折あったものの、侵入に使った小屋の中へと潜り込むと、途端に張り詰めていた緊張感が失われていくようだった。自然と盛大に大きな息が吹き出ていた。


 小屋の扉を閉め、鍵を掛ける。そこから耳を澄ましてみても、まだ喧騒は何処からも聞こえてこない。どうやらまだ騒ぎにはなっていないらしく、『剣聖』さんが逃亡中なことに気が付いている人はいないようだった。


 まぁ一応はそうならないように配慮はしたのだからそうでなくては困るのだが。


 いやーそれにしても行きは良い良い帰りは怖いとはまさにこのことでしたね。この難易度の跳ね上がり方はまさに異常と言って差し支えない。

 自由に高速で移動できないだけでここまで時間を食うとは……。途中ヒヤッではなくヒエッとした場面が何度あったことか。


 危うく一度入ったら出られないトラップの餌食になるところでしたよ。

 俺じゃなかったら多分無理だったろうな。一回挟み撃ちになって姿を消して無理矢理やり過ごしたくらいだし。

 特に開けた場所での兵士の処理は手間で仕方なかった。早く何処かに行けって思っても、そこがその人の持ち場なんだから動くわけがない。

 だから『剣聖』さんに一時待機しててもらって、俺が止むなく強制的に拉致して移動させなきゃならなかったし。

 全員気絶させて物陰に移動させといたから、意図的に探さないと暫くは見つからない……と思いたい。




 さて、俺の苦労の振り返りはこの辺にしときますか。


「ここから侵入してきたのですか?」

「ええ。この屋内に地下に通じる入口があるんです。内通者がいなきゃ到底考えつかなかったでしょうけど」

「地下ですか……!」


 俺が侵入してきた鉄扉を二人して見つめる。

『剣聖』さんのこの疑問は自然だろう。こんなただの物置小屋にしか見えなかった外見の建物に、外部へ通じる入口があるのだから。

 地下通路の存在も知らなかっただろうから眉唾ものに近いと思われる。


「ですが内通者? 軍にそのような方がいるのですか?」

「はい。この前『剣聖』さんに会ったって言ってましたよ。覚えてませんか? 仮面の人なんですけど」

「っ! あの方ですか。確かに数日前にいらしてましたね」


 記憶を呼び覚まし、『剣聖』さんが思い当たった顔を作る。


 アイズさんのあの見た目のインパクトは中々に強烈だ。人目見て記憶に残らない方が難しい。

 各々感じる感想は様々だろうが、少なくとも俺と同じ感想を抱いていそうなのは予想できた。


「奇妙な方、でしたね……。そう言えばその仮面の造り……どことなく似てるのはもしや……?」

「あの人からの借り物ですからね。間違っても俺の趣味じゃないんで」

「ふふ……そうでしたか」


『剣聖』さんが納得したような顔になり、今までそんな風に思われてたのかと俺は複雑な心境になった。


 事前の打ち合わせ通り、東棟から逃走開始直前に俺は身なりを変えて変装を施しておいた。


 いつもは黒いコートを羽織ってる俺だが、今の恰好を一言で表すなら……奇術師か何かかな?

 民族衣装のようなカラフルな刺繍の入った茶色いローブ。陰湿な気品を醸し出す、なんだかよく分からない形状をした装飾品を首からぶら下げ、トドメに顔バレしないための仮面だ。

 うん、これはまごうことなき不審者ですよ。


 服装とかはまだいい。それが風習や流行だと言えばなんとでも言い訳は作れるから。

 でもこんな仮面を付ける理由は考えても見つからんだろ……。あったとしても物凄く意味不明な理由か、変態的な理由のどちらかと捉えられそうなのがオチだ。

 隠したいものが仮にあった場合にしろ、もっと別の手段の方が良いに決まっている。


 それに視界も狭められて最悪だ。いつもの半分くらいしか視界が確保できないせいでストレスがマッハだよ畜生。

 アイズさんよくこんなの付けて平然としてられるな。態度もだけど……。

 もうアイズさん専用の装備だろこんなの。


 ちなみにこのコーディネートは全部アイズさんです。

 確かに普段地味な俺っぽくないのは分かるけど……やり過ぎじゃないかねぇ。仕方ないし……本当に仕方ないのだけども、事情を踏まえてもちょっち恥ずかしいわ。

 不審者がコーディネートしてるんだから、そりゃ必然的にもう一人不審者が出来上がるのは自然だわな。遊ばれた感がどうしても否めない。


「よく……そのような方に協力してもらえましたね?」

「まぁ運が良かったというか、ある意味悪かったともいうか……。偶然が重なっただけですけどね」


 あの出会いを例えるなら、なんとも言えないというのが正しいか。

 だってアイズさんだし。一長一短だからなぁあの人。


「そこにアスカも入ったのですね」

「そうですね。……あ、飛び降りますから舌噛まないように気を付けてください」

「はい」


 地下に続く上蓋を開き、声掛けしてから再び地下へと降り立つ。

 すると、地下ならではの不気味な静けさが再び。反響する声が環境の変化を一気に知らせてくる。


「あとはこのまま真っすぐ行けばアスカさんがいますから。もうすぐです」

「……はい」


 待ち遠しいであろうアスカさんの対面が近いことを知らせると、嬉しそうだがどこか陰のある『剣聖』さんの表情が引っかかった。


 半分無理矢理連れて来たようなもんだし、本人の中にはまだわだかまりが残ったままだもんな。

 納得してないまま周りに流されて翻弄させられたら良い気はしないだろうし。


 連れ出す際に適当にアスカさんに丸投げしておいた部分が強く浮き彫りになり、この感情がこの先どう影響するか心配になる。


 強い意志程、揺り動かすためには相応の理由や切っ掛けが必要だ。

 アスカさんが上手く説得できればいいんだが……。こればっかりはお祈りするしかないか。いや信じるしかあるまい。




 道なりに進んで別れた地点までやってくると、ぼんやりとした明るみの中に二つの人影が色濃く映り、俺も安堵した気持ちになる。


 第二段階、成功だな。


「アスカさん! セシリィ!」

「お兄ちゃん!」

「フリード君、無事だったか!」


 俺が二人を呼ぶと、向こうもこちらに気が付いたようで駆け寄って来る。


 そっちもお変わりないようでなによりだ。

 なにはともあれ、アスカさん。待ち望んでいたであろう『剣聖』さん、お届けに上がりましたぜ。


「っ……」

「アスカ……」


 アスカさんと『剣聖』さんが久しぶりに出会い、見つめ合う。


 募った想いは何を第一声として吐き出させるのだろうか? 

 想いの行く先は不明だが、外野の俺にできることはそれを見守り、最後まで見届けるのみだろう。

 少なくとも、俺は俺の役目を果たした。


※11/14追記

次回更新は月曜予定です。

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