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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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412話 吐露①

 

「……」

「(コクリ)」


 セシリィと顔を見合わせつつ、お兄さんの表情が語る真実をそれとなく探る。するとどうやらお兄さんは嘘を言っているようではなかったらしく、セシリィが小さくだが頷いてくれていた。


 ――これは是非とも詳しい話を聞くべきだろうな。


 俺が聞いた噂がもし本当だとしたらお兄さんが今言ったことはその噂を裏付けるものとなるはずだ。そして事実ならお兄さんのこの世界に反旗を翻すといっても過言ではない目的……これを口にしたということは冗談でもなく大真面目に言っているのは明白というもの。


「あまり他に聞こえたらよくなさそうな感じですね」

「そうだね」


 宿屋の比較的薄い壁一枚ではこの話がどこの誰に聞かれてしまうかも分からない。お兄さんには気がつかれなかったようだがコッソリとこの部屋に『ジャミングノイズ』を使って防音をしておく。

 お兄さんはそのことを知らないまま、声を若干落として事のあらましを話し始めるのだった。


「随分と前からではあるんだけど、アイツは知ってのとおりかなりの剣の腕を持っててね。護身術を剣術へと変えたと言ってもいいくらいの徹底した型。それに加え技量なら右に出る人はいないとは言われていたんだ」

「護身術を剣術に……?」


 護身術の剣術バージョンってことかな? 想像つきませんけど。

 まぁ俺護身術のこと自体知らんしなぁ。


「うん。『己、向き合おうとも向かうことを知らず』。よく口癖のようにそう言ってたよ。アイツの性分でもあるとは思うんだが争い事がとにかく嫌いな奴でさ、例え何か起こっても自分から敵意を見せるって手段に殆ど出ないんだ。余程のことが無い限りは」

「へぇ……そりゃまた」


 お兄さんが話す限りだと『剣聖』は噂どおりの人であるようだった。


 つまりは守り一辺倒の人ってことか。それも徹底的なまでに。

 俺も面倒事は頭下げてでも避けたいとは思うけど、降りかかってくる脅威にまではあんまり寛容にはなれないから手は普通に出すだろうな……。

 というかその口癖なんかかっくいいッスね。そのお姿を想像したらなんでしょう……お会いした時にお姉様とお呼びしたくなってきそうですな。

 なんといいますか、凛々しいって雰囲気が既にプンプンですし。


「元々性格も温厚だし、地元で一番恐れられる腕を持っていてもアイツを慕う人は多かったんだ。だから僕達の故郷から結構離れた場所にもその噂が広まったりしてね、剣術の指南を求める声が少し出てたりもしたくらいだよ。時には人里に下りてきた手の付けられない害獣の駆除なんかも頼まれてて……でもそういう時は毎回生け捕りにして解決してその精神には呆れさせられたよ」


 お兄さんは軽く溜息を吐くと、目を逸らして当時を思い出したように一旦口を止めた。


 何ソレ、害獣駆除でも『剣聖』さんの中では余程のことに入らないんですか? どんだけ慈愛に満ちてんねん。

 そんなのもう女神やん。慕うどころか崇め奉られてそうだわ。

 まぁそれだけ腕が立つってことなんだろうけど、その思考を駆除した方がよろしいのではと私は言いたい。


「凄く優しい人なんだね」

「ああ、超がつくくらいのね。もう少し弱くて手の付けられようがあれば良かったと思うくらいだ」


 セシリィが興味津々にお兄さんの話に目を輝かせ尊敬の眼差しを向けていると、お兄さんも苦笑いで心境を吐露するのだった。


 ガチのマジで女神と天使が並びでもしたら悶絶ものだろうな。それはそれで見てみたいが。


「――そして、アイツの噂がこの大陸中にいつの間にか広まってたのかな。獣だろうが人であろうが関係なく、ただ受け身一辺倒であるにも関わらず傷一つ与えられない女の剣士がいるだなんて話が各地で囁かれ始めたんだ」

「それだけ腕が立つのであればそうでしょうね。人の噂は想像以上に広まるのが早いですから」

「うん。――でもそれからだよ、事の発端は」

「……」


 ――また流れ変わったな。ここからが本題か。


「噂は当然連合軍の耳にも入っていたんだろう。ある時、僕らの故郷に見慣れない恰好をした身なりの良さそうな人とその護衛の人が数人来てね。アイツにセルベルティアへと出向するように申し出してきたんだ」

「セルベルティア……察するに連合軍と王族関係の人だったり?」

「まぁそんなところだとは思う。僕も直接その場面に出くわしたわけじゃないからなぁ」


 連合軍は世界の意思が原因によって結成されたが、突き詰めれば各地の力を持った王族が主体となって組織を作り上げ、全ての部隊を総称した言い方をしているだけだ。

 セルベルティアの王族が果たしてどれだけ現在の連合軍と密接に関わっているかは不明だが、その故郷に来たという人の一人は王族に仕える人の可能性は高い。


 それが接触を図ってきたのが始まりというわけか。


「建前はその噂の剣術を連合軍と王に是非一度披露してみせて欲しいとは言ってたらしい。その腕前が本当であるなら身を守る術の有用性が伝わり、無駄な血を流す者も減るだろうって。――でも本当の目的は恐らく自分の技術を連合軍の部隊に取り入れるためだろうってアイツは感じたみたいだ」


 そうでしょうね。俺でもそう思うもん。


「後で聞いた話だと、戦争っていう時期ではあるけど自分の護るために培った技術を傷つける技術に変えられるかもしれないのは容認できないって言ってた。その時遣いの人達には断りを入れて追い返して……普段通りの日常に戻ったと思ったんだ」

「……」

「ただ、それから何度も故郷にその人達がやって来ちゃってね。最後にやって来た時は威圧目的か部隊を一つ丸々連れてきて一時騒然としたよ」

「部隊を一つ丸々ですか!? え……」


 伝えられる光景を想像してみると驚きを隠せなかった。そしてやることの加減を知らないのかとも。


 部隊っていうとセルベルティアまでの道中で遭遇したあれくらいの規模ってことだろ? ガチガチの装備をした人があんないたら物騒極まりないわ。


「半年前くらいから申し出が始まっていきなり最後にそれだったからな。流石のアイツもこれ以上故郷に迷惑が掛けられるのは良しとは思わずに折れたんだと思う。出向する旨をそこでようやく伝えたんだ」

「嫌な話ですね。そうやって周りに圧力をかけて無理矢理行かせようとする流れにするのって」 


 本人の意思で出向したわけではなく、周りを想っての了承をしたってことか。

 こういう手の話って本人はともかく聞いてると嫌気しか差さないんだよなぁ……。


「全くだ。世界のために動いてくれている連合軍とはいえ、あの時ばかりは村中で非難の声がたくさん出た程だ。……けど、その時僕は部隊一つを丸々相手にして尚表情一つ崩さないアイツの豪胆さに驚きだったけどね」


 慈愛の女神様ゆえにその程度のことでさえ心揺らされないと? 『剣聖』さん強すぎる。


「まぁもっと言うと実際はセルベルティアから村までの道のりを何度も往復するのは大変だし、何より道中は危険が付きまとう。道も険しいし、獣だって割と多い。だからその遣いの人達がいつ何に見舞われるかわからないからってことで出向を決めたのが一番の事実だったりする」


 はぁ!? 嘘だろ……。村の人のみならず、遣いの人達にまで気を遣ってただと?

 遣いの人が遣われてどうすんじゃい! 


「あの……いくらなんでも『剣聖』さん優しすぎません?」

「素直に遠慮なく馬鹿って言ってやってくれ。でもアイツはそういうやつなんだ」


 思わず俺も微妙な顔でお兄さんに『剣聖』への印象を告げると、全くその通りだと言わんばかりに頷かれてしまった。


 優しすぎにも程がある。その人が危ない目に遭うかもしれないから出向すること決めたんかい。

 そんな生き方してると苦労が絶えないだろうし、いつかきっと痛い目をみると思いますよ?

 全くどうしてそんなに人に優しくできるのか……これがわからない。


「まぁそれはともかくだ。なんというか……連合軍は力に対して凄い執着がある気さえしたよ。手に入れようとしたモノは意地でも手に入れてやるみたいな」

「そうですね。そうやって大きく発展してきたのかもしれませんね」


 もしかしたら例の異世界から来たっていうとんでもない奴ってのもそうやって引き込んだんだろうか? その人は一体どこにいるのかは知らんけど、今の話を聞いたらこちらもそれと似たようなものかもしれないな。


 貪欲に力と呼べるものを掻き集める。セルベルティアに対して俺はそのような印象を植え付けられた思いだった。




「出向はしたけど、どうせまたいつもみたいにすぐに戻って来るだろうって皆が思ってたんだ。アイツの実力は全員知ってたし、なによりその精神はきっと連合軍にも伝わるって。けど――アイツはそれっきり、未だに村に戻ってこなかったんだ」


 そして、そこに繋がると。


 段々話が視えてきたな……。


※10/25追記

次回更新は今日です。

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