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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
379/531

377話 過保護

 

 ◆◆◆




 あれから出来る限り集落にあった遺品は集めて『アイテムボックス』へ一時保管した。あのまま放置していてはもしかしたら戻ってきた連中に強奪される可能性があることと、もしそうでなくとも放置して無駄に経年劣化させてしまうことなんてできなかったからだ。

 いずれセシリィと集落に戻ってきた時……戻れるようになった時に、きちんとした形でその遺品の行く末は決めれるようにと思って。


 セシリィも随分と長い間、暫く離れることになる故郷と肉親達に別れを告げていたが、昼に差し掛かる頃には俺達は出立した。まだ何か言いたいことがあるような表情に気が済むまで待つとセシリィに俺は伝えたのだが、そうしたらいつまで経っても終わらなさそうだからと言われてしまった。それに、次に来た時に言いたいことは残しておきたいとも言っていた。


 あの場所に戻るとしたら……暫く先のことになるはずだ。その時は全てが解決し、セシリィが公に堂々と出歩けるようになっている時である。




 ――セシリィとの出会いを果たし、そうして始まった俺達の当てもない各地を巡る旅。時間を気にすることもなく、ただひたすらに前に進み続けるだけの俺らはこの深い森を掻き分け、山を越え、まず今は人里を目指して突き進んでいた。


 当然どこに人里があるのかなんて分からない。全てが手探りで気の赴く方角に進み続けるだけだった。もしかしたら人里はあったのかもしれないが気づかずに通り過ぎてしまっていたのかもしれないし、今進んでいる方向にはそもそも人里がない可能性もある。まるで暗闇の中を進んでいる錯覚すら覚えてしまいそうだ。


 勿論上空を進むのも手だが常に魔力を使うし、何よりセシリィ自身が俺の手を借りて移動することに申し訳なさそうだったのでそれはやめた。こんなことで普段から気が引けてしまわれても困る。

 なら短くない旅になるならと……地道に歩いて足腰を鍛えながら進んだ方が今後のためになると考え、入り組んだ地形を気を付けながら進んでいる状態だった。

 どちらにしろ上空からでは高く生い茂った森によってまともに地上が確認できないため、森を掻き分けて進んだ方がまだ効率的な面はあるように思える。子どもであるセシリィには体力的にかなりキツイだろうが、別に急いでいるわけでもないので休憩は多目に取りつつ安全第一を優先に。一歩一歩着実に進めていればなんの問題もない。


 しかしこれだけ大自然でもあの連中がいたくらいだ。流石に進んでいれば人の住みやすい地形の一帯もあることだろうとは思いたい。時折上空から地平を見渡して森の終わりがないか確認しつつ、進む方角を間違わないように取りあえずは一直線に進むに限る。

 進む先が人里ではなく、危険なモンスターのみの一帯ではないことを願うばかりだ。


 もし人里に着いたら細心の注意を払う必要はあるだろうが、そこで何かしら話でもできたら嬉しいところ。今はとにかく情報が欲しい。この大陸のこと、連中のこと、そして天使のことも。

 本音を言えば、天使のことに関してはセシリィには聞かせたくないものだが……。




 海はあったし、このまま進んでまた海に出るようだったらこの大陸はもう大自然に囲まれて……いや、呑まれていると考えていいかもしれない。実際ほぼほぼ人の手の入っていないありのままの世界といっても過言ではない。俺らがいる場所は前人未踏の危険地帯と言える。

 野生の動物やモンスターも流石にかなりいるようで、特に初日はあまり気にする程でもなかったが、ここ数日は飯の時なんかは森の中から光る眼がいくつも覗いている時もあったくらいだ。


 それでもそんな大自然と共に生き、その中で逞しく育つ生命がある……それはそれはなんて命輝く尊いビューティフォー。流石にこれだけ森の中に閉じ込められていたら馬鹿なことの一つでも言いたくなるってなもんだ。




 旅自体に大きな問題はまだこれといってない。あるとすればセシリィの服装や装備が整っていないことと、セシリィが女の子であるという点だろうか。装備類は俺がいるからともかく、旅をする上で男女が一緒となると色々と配慮が難しいことが身に染みてよく分かってきた。


 あぁ……毎日普段の生活で男はなんて気楽でええんじゃろって思ってしまう今日この頃です。……記憶ないけど。




 それと、便利なものが殆ど何もない環境で育ったせいなのかセシリィは大抵のことはそつなくこなすような印象である。簡単に言えば生活術が豊富というかなんというか……この辺は仕込まれたって言う方が正しいかもしれん。

 有り合わせの物で裁縫程度はお茶の子さいさい。辺りに群生している植物の知識は豊富で傷薬等を生成できるうえに、食用の香辛料なんかも使って料理を手伝わせれば俺が逆に手を出せなくなり、寝る前なんかはツタと木の棒を使ってパパッと周囲にトラップを仕掛け、朝になると小動物という名の食料の確保が確約されている。


 朝起きてジタジタ暴れている小動物を見たが最後、これらをさも当然のようにやってのけてしまうことに天才児かとツッコミたくなったわ。この辺じゃ当然なのかもしれないが、俺にはセシリィが色々と凄すぎて反応に困るレベルだった。

 これだと武力以外なら生きる知識は十分備わってたんじゃね? マジで。俺が色々と教わることもあるくらいだ。

 この分だと友達と追いかけっこしたり料理作ってたりしてたらしいけど……それ、ホントに遊びの範疇だったんですかね? そこら辺疑いたくなるってもんですわ。






「――ん~~~っ! ……異常……一応なーし……くわぁ~っ……!」


 セシリィのことを少しずつ知り始めつつ、最初の一日二日の怒涛の展開から早いもので旅を開始してから既に一週間と少しが経とうとしていた。


 目覚め早々に大きな欠伸が漏れる。それと並行して起きてすぐにやる最早日課である安全確認と、寝て固まってしまった身体を捻じってほぐす運動を少々……。


 う~む、この解れていくような捻りの気持ちよさはたまらんの~。これがええんやこれが。


 こんなリラックスしておきながら一応する意味があるかは分からないが、安全確認はやらないよりかはマシなのでやることにしている。これらは俺なりの朝やる決まりごとだ。




 そして――。




「うぅん……ふわぁ~……。……おにぃちゃん、おはよぉ……」


 俺の声に触発されて起きてしまったのか、セシリィも寝ぼけ眼を擦ってポワポワしながら俺を見る。

 身じろぎしてまだ若干微睡の中にいるのはここ数日ずっとこんな調子で目覚めているのでもう分かる。どうやらセシリィは寝起きはそこまで良い方ではないらしく、朝は少し弱いようである。


「……おー。セシリィおっはー」


 取りあえずは俺もまずは朝の挨拶で第一声を返す。これも俺らがまず最初にするやり取りのようなものだ。なんだかんだ朝に身近な誰かの声を早々に聞くのはどこか安心感がある気がする。

 セシリィが果たしてどう思ってくれてるのかは……この寝ぼけ具合だと反射的なものか、ただ身に沁みついてしまっているだけのことにすぎないだろう。


 でもまぁ、俺からすりゃセシリィのこの第一声はぶっちゃけ愛殺にしか聞こえんし映らんのですけどねー。それもこれも今の状況が全部悪い。




 セシリィは今日もちゃんといつも通りの様子と仕草をしながら目覚めた。――俺のすぐ隣で。




「(はぁ~……今日もですかいな)」




 朝っぱら早々に、気持ちの良いはずの欠伸の次に溜め息が出てしまう。もうこれも数えて三回目のことだ。

 手を回せばセシリィをガッチリとホールドできるくらいの距離感……昨日よりも明らかに距離が近づいてきてるんですけど。


 オイオイ……全くこの娘は……。まだもうちっとくらいの間は警戒心持ちなさいっての。こちとら天使じゃない人族なんですよ? しかも男の。

 旅を開始した初日の夜にセシリィが泣きながらうなされてたのを機に、心配して様子を見守っていたのだがそのまま寝落ちしてなし崩し的に添い寝してしまったのがイカンかったのかなぁ……。なんというか……その次の日からこれですよ。簡単に言えばめちゃ懐かれてしもた。


 初日とここ最近の変化を一つ報告しておこう。

 この娘、意識ある時は控えめでしっかりしてる言動と態度を取るくせに、無意識の時はその反動なのか知らんが滅茶苦茶甘えてくるらしい。寝起きもだが、特に寝てる時は仕草が狙ってんのかってくらいだ。リスみたいに丸まる姿は小動物のそれだ。


 そりゃもう保護欲くすぐりまくりに悩殺してくる勢いで困る困る。何この天使? いや、マジもんの天使だよ。

 こんな娘いたら同年代の男子が取り合うに決まってるし、大人も愛でたい気持ちで一杯になるだろう。セシリィったら無自覚に良くも悪くも罪な娘ですわ。


 今も俺の腕を掴んで引っ張ろうとしているこの距離感はその顕れの一種だ。これがまた引き剥がそうと思っても中々離れない粘着性をお持ちで困りものであり、例を挙げるなら網の上で焼いた餅が中々剥がれてくれない感じである。

 昨日とは引っ付きの箇所が違うこの餅セシリィことモチリィ。もし君がモッチリナイスバディなお姉さんだったら火傷した俺が食べちゃうとこだぞこんにゃろめ。プンプン。




 いやね? 今は二人しかいないし誰にも見られていないから問題になってないけど、今後も旅をしていくとなるとやっぱりこういうのって良くはないとは俺も思うんですよ。俺大人、セシリィ子ども……あとはもう言わずもがなだろう。


 ロリコンのレッテルなんて張られるのは痛すぎるわ。周りがというよりも俺自身が。


 これが一日だけだったらまだセシリィの境遇のこともあるから、なんやかんや有耶無耶にして気にしてはいなかったはずだ。しかし、二日三日と連続となるともう誤魔化しきれないし流石に俺も黙っちゃいない。セシリィも見た目では分かりづらいが年頃の女の子だと知っているので教育上もよろしくないと考え、こうなることを見越して俺なりに色々と昨夜に対策を……てか対処はしてたつもりなんだ。




 昨日の就寝時、セシリィと俺の寝た際の距離は焚き火を挟んで約3メートルはあった。ちなみに、前日より距離は更に少し離しておいてある。

 二人で寝床を造り、毛布を被っていざ沈黙。セシリィの寝息が聞こえてきたことを確認し、そしてそのまま寝ないで暫く目を瞑ったまま俺は待機。果たしてどんな風にあの状況になるのかを確認してやろうと思ってはいたのだが……どうも音沙汰は全くない期待外れ? な結果に終わってしまった。

 安心と疑問を覚えながらようやく俺も遅れて就寝したはず……なのに――!


「セシリィ、朝だぞー、起きろー」

「んー……も……ちょと……」


 何故、いざ起きてみるとすぐ俺の隣にいるねんこの娘。こんなの俺が終身刑まったなしの状況じゃないですかーヤダナー。

 俺の寝る前の苦労は一体なんだったんや。こんなの手放しても戻って来る呪いの人形の反対版、幸せの人形みたいで嬉しいじゃねーかコノヤロー。この甘えんぼさんめ。






 えー、さてさて……ロリコンとかは抜きにして。真面目な話、気を許してくれ始めてるのと、普通にセシリィが愛らしいから内心嬉しいっちゃ嬉しいのはともかく……しかし何故だ。昨日は一段と冷え込んで寒かったから使える毛布は厚めのやつを前日の倍にしてあげたはずなんだが……。


 やっぱり……これはもう意図的に潜り込んできてるよなぁ……。


 初めは凄まじく寝相が悪いのかと思っていた。でもすぐにその考えを否定したのが、放置されずに一緒についてきている毛布の存在だった。器用に俺の使う毛布の上に重ねられているというのは偶然で済ますには無理がある。

 そして寝相が悪くて転がってきたなら、俺とセシリィの間にある焚き火は避けては通れない壁となる。仮に火が消えて冷めていようと、そこを通れば煤とかがついているはずである。でもセシリィの全身には汚れは一切見受けられもしない。

 ……当然のことだが器用に焚き火を避けて転がってきて、俺の懐に入り込むというのは考えづらい。




 ここまで整理すれば、確定とはいかずとも答えはうっすらと見えてくる。



 多分、セシリィは俺が寝る直前の時に限り俺の心を視ているんじゃないだろうか? そして俺が寝るのを待ってからいそいそ潜り込んできているのでは? と。

 流石に寝ていたら心は視れなくなるだろうし、心が視えなくなる=俺が寝たと判断していると考えれば、俺が気が付かない間にこの状況が出来上がってもおかしくないと思えるのだ。




 こっそりと、俺の知らない間に。それはまるで俺にバレたくない一心でやっているようで、どことなく子どもが悪戯をする時の行動と似ているのかもしれない。

 控えめな性格がこれの原因か……この辺は詳しいことを聞いてみないことにはよく分からん。



 けど……うん。単純にやっぱり一人は心細いし不安なんだろうな。大人びた一面があるから特別だと思っていたけど、やっぱり歳相応の女の子なんだ。




「セシリィ、取りあえず顔洗っておいで?」

「んー……はぁい……」


 こちらに気を許してくれても、それはあくまでセシリィからのものにすぎない。セシリィはまだ分からないのだろう。俺がセシリィに気を許しているのかどうかが。だから口で要求してこないで、人知れずにこんな真似に出ているのかもしれない。

 別に俺もこれまで朝起きてこの状況になってること事体に戸惑いはあっても怒ったこととか注意したことはないわけで、セシリィも怒られていないから平気なのかなと思っている節はあるはずだ。


 俺が……セシリィに気を許しているように思われていないことに今回の原因がある可能性がある。


 セシリィが安心することができて、これが必要だというなら俺も拒みはしない。意思があるかないかで俺の不安はただの杞憂になるかどうかみたいなものなのだから。




 今日の夜にでも聞いてみるか。俺から吹っ掛けた方が気持ちも伝わるかもしんないし。



「……あぅ……!? んー?」

「(……アカン、マジでこの娘ほっとけんわ……)」


 俺の言葉に従ってフラフラしながら立ち上がり、少し毛先の跳ねている金髪を揺らしながらセシリィが近くを流れる小川へと歩き出す。その際、石に躓いて転びそうになったのを見て俺は思考を一度止めて揺るがない確信を抱くに至った。


 駄目だ……この娘天使じゃなくても一人にしてたら変な輩に絶対襲われるわ。天然の無防備にも程がある……。

 過保護なくらいが通常。異常なくらいが過保護ですねこれは。なら俺は迷わず異常な過保護を選ぼう。


 食後のデザートが過剰だったら嬉しいだろう? それと一緒だ一緒。

 だから過剰な保護の何が悪い。想いは重くて当然なのじゃ。




 守らねば……そんな意思が密かに芽生えた俺は、セシリィが小川に落ちないか不安になってその背中を追いかけた。




次回更新は火曜辺りです。


※3/14追記

次回更新は明日になります。

すごいしょうもない話書いてたら区切りもつかず歯止めも効かず……気づいたらいつもの2倍近い量を書いてました。

そういうわけで投稿が遅れてます。すんまそん。

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