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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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346話 極限の武闘②

 



「『転移』!」

「っ!」


 例え束縛され身体の自由が奪われようが、『転移』があれば関係ない! すぐに態勢を立て直して反撃に転じられる!

 

 窮地を『転移』を使って無理矢理脱し、一先ずは束縛から解放される。しかし、移動した先は脱したと言っていいか疑問だったが。

 だがもう退かないと決めたのだ。この程度の危機を感じただけでその決意を取りやめる意思でいては勝てる訳がない。

『転移』する先はジークの側面でも背後でもなく、拳の待つ正面だ。それ以外の選択肢なんてない。


 死地に飛び込むのは怖い。でも希望が見えないことの方がよっぽど怖い。

 無謀だとしても真っ向からぶつかって打ち破る……! 俺の力が通じるのかどうか、それを見極めねぇと……!


「『斬破』!」

「『ラグナロク』!」


 エスペランサ―による『斬破』と、オーラの鎧をまとったジークの拳がぶつかり合い、拮抗する。ジークの破壊圧に悲鳴を上げる両手は震え、だが離してしまいそうになるエスペランサ―は絶対に離さないように、手に掛かる負荷を堪えて拳を打ち破ることだけを意識して力を込め続ける。


 そして爆散。これまでの比じゃない衝撃波が視界いっぱいまで駆け抜け、荒れ果てた大地に砂塵を舞わせていく。

 俺は衝撃に身を投げ出され、随分と離れた場所まで吹き飛ばされていた。掌に広がる手の痺れの他に、全身を打ち付けたような打撲感もあって身体が傷む。視界が煙で閉ざされているため細部まで見れるわけじゃないが、ダメージは決して少ないとは言えなかった。

『斬破』の威力で相手を押しきれなかったことは初めてだったかもしれない。


 まさか自分にまで威力が返って来るとはな……。




「ハァ……ハァ……。いってぇな……!」


 煙が晴れ、ジークの姿が見えるくらいに時間が経った。ジークの様子を見ると左手で抑える右手の拳から血を流しているようで、ボタボタと血が滴っていた。乾いた地面に流れる血は溶け込むように染み込み、地面と同化して血と判別すらできなくなっていく。

 怪我は派手だがプラプラとさせられる程度には手は動くらしく、血が出ている以外は俺と似たようなものであるように思える。ジークもあちこち身体を摩っていた。


「ったく、痛ぇのはこっちもだっての。そのオーラの鎧……面倒だな……!」

「……ヘッ、面倒だって感じてんなら嬉しいぜ。それなら四本目を解放した意味があるからな」


 四本目……これは恐らくジークのスキルを強化するスキルのことだろう。

 奴は力を解放する時に鎖のようなもので縛られた状態から脱する感覚がするとのことで、本数と言っていたことを俺は覚えている。


 でも三つしかできないって聞いてたんだが……四本目まで解放できるようになったのかよ。道理で以前よりも段違いで強いわけだ。

 それがこの広範囲の武器点在を可能にし、新たな技を繰り出すことも可能にしていると……。


 そんで――。


「今のが、前に言ってた新技ってやつか?」

「まぁな。スキルの力で編み出した『ゼロ・インパクト』に似たモンだ。こっちは命削らなくて済む分、威力は劣るがな」


 あれで劣るのかよ。まともに食らったらさっき一撃で瀕死だったぞ俺。今のだって。

 それとさっき武器を点在させた時は『クロスリベリオン』とか言ってたか? 『ラグナロク』に『クロスリベリオン』ねぇ……。




 なんだろう。ネーミングがちょっとカッコイイのなんか腹立つわ。







 いやまぁ、冗談は一先ず置いといて……。


 実際問題今のジークを突破するのは極めて困難だ。お互い痛み分けとはいえ、こんだけ高威力の攻撃を食らってあの程度の手傷しか負わせられないなんて。


 あのオーラを問題なく突破するためには素の状態のエスペランサーと同等以上の破壊力が必要だ。しかし、変形を元に戻してしまっては俺自身がジークの速さについていけなくなってしまう。それでは攻撃を当てるどころか負けが確定するレベルだ。ただでさえオーラの量が増えて攻撃は苛烈に、防御はより堅牢になっているのだから。

 いくら大技を持っていて攻撃力がどれだけ高かろうと、当たらなければ意味はない。


 やはり速度重視でエスペランサ―の破壊力もそれなりのこの形態のままでいくのがベストか。

 速度は全ての力の掛け算では五分。攻撃と防御も恐らく五分。俺が唯一純粋に奴に勝れるとしたら、まだ温存してる膨大な魔力だけ……。


 ジークが『自動強襲(オートアサルト)』を使ってるなら魔力の残りは多分多くはないはず。というのも、ジークは元々魔力は多い方じゃないし、『自動強襲(オートアサルト)』は三本でもそれ程長持ちしたわけではないからだ。更に上の段階を使ってきているのであれば消費魔力も相対的に上がっているだろうし燃料切れも近いと思われる。

 

 魔力切れを待つ持久戦に持ち込むか? でもそうなると魔力切れで見せるジークのあの暴走を相手にすることになる。あれはできることなら回避したい。




 これらの情報を元に俺があの防御を突破してジークを倒すためには――。




「……また、皆に怒られるなこりゃ」




 ジークを突破するための策を考え、実行に移す覚悟を決めた時、苦笑いしかできなかった。

 できれば皆の気持ちを汲み取って避けたいということと、もしこれで打開できなかったら手の打ちようがないという不安の両方の気持ちによるものだ。


 俺が今考えている方法なら、残りの魔力もなるべく温存してあのオーラを纏ったジークを突破できるだろう。……というより、これでできなかったらジークはもう無敵ということになってしまう。




 ……まぁうだうだしててもしゃーない。やるしかねぇか……!




「っ! 来るか……」

「ああ。戦いを楽しんでるとこ悪ぃけど長く付き合うつもりはないんでな。ここで決めさせてもらうぞ……!」




 ジークにそう告げ、腰を落として構えを俺は取った。


 そうだ……構えて俺に集中しろ。目を離したら死ぬ……そう思い込ませろ……!


 ジークが俺に警戒を始めたのが俺にとっての合図そのものだった。気が付けばもうジークを倒すために身体が動き始めている。


「『世界よ! 「っ!?」禁忌を犯す我を許したまえ』!」

「『狙い撃て』!」



 エスペランサーを持つ手で無理矢理手を合わせ、詠唱を口ずさむ俺とジークの掛け声が重なった。


 これで仕込みは済んだ。あとはどれだけ釣られてくれるのか、そして俺がどれだけ耐えられるかだ――!




「うっ、くぁっ……!」

「強行突破か!? 『食い止めろ』!」


 俺が動けばジークも当然動く。勿論武器達も。

 喉が傷む程叫びながら左から迫りくる武器を『障壁』を挟むことで防ぎ、右から迫る別の武器はエスペランサーで叩き落とすことで強引に前へ前へと進む。頭上から武器達による強襲、足元から割れた地面の間を縫って不意打ちの武器達がトラ鋏みのように迫り全身を掠めて痛みが走るがそれでも足は止めない。ここで必ず決める……!


「っ……ぬうああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 強行突入の代償として防ぎきれなかった槍が太股の端を抉り、一歩足を踏みしめる度に傷口が裂けて痛みが増していく。それでも正面からは目を離さないし離せない。ジークに俺の一挙一動を見逃さないようにさせるには、俺自身がジークにとって恐怖に映るようにせねばならないのだから。

 皮肉なことに俺もどれだけの攻撃が降りかかってこようが、最も驚異なのはジーク本体による一撃だからどのみち目は離せない。


 ジークまで……あと三歩!

 集中しろ……こっからだジークの本領発揮は。一挙一動から目を離すな。どこにでも武器を出現させられる以上俺の回り全てはジークの領域だと思え……! 痛みなんて今は忘れろ、その代わりいつでも目の前に死が待っていることを忘れるな!


「ジークっ!!!」

「っ……! ツカサァアアアアアアアッ!!!」


 来た……!


 名前を呼んだのは単純に雄たけびの代わりに過ぎない。でもお互いを潰し合うための叫びを考えた時、自然と相手の名前を俺達は出していたようだ。


 ジークが拳を迫る俺目掛けて突き出すと、拳に纏っていたオーラが伸びてパイルバンカーのように勢いよく射出された。全く、なんでもできるオーラである。

 俺がなりふり構わない姿勢を見せ、超級魔法の詠唱もしたことが効いているのだろうか。ジークの纏うオーラが減って今の攻撃に力が割かれているのが確認できた。

 ただ、今までの攻撃よりも速い一撃で、最も重そうにはなっている。


「う……おぉおおおおっ――!」


 ジークの雄たけびの野太さは、まるでこの一撃に賭ける威力の大きさそのものを表しているかのようだった。

 近距離から鋭く尖った青の切っ先が俺の目と鼻の先をも越え、視界をほぼ遮った。


 腕を伸ばしきった大振りの一撃、確実に当たったと錯覚する領域は……ここしかない! 

 青一色の視界になってしまう直前、そこまでこそが俺が耐えなければなかった一瞬。


「『見斬り』! づっ……!」

「なぁっ!?」


 ギリギリの更にギリギリへ――!


 スキルを使ったにも関わらず、心臓がいつ止まってもおかしくない命の綱渡りを何度もした気分だった。

 掠ったのかそれとも風圧だけだったのかは分からない。今度は鼻先から右頬にかけて痛みが走り、じんわりと熱みを帯びた。顔面の皮膚は浅いため他の部位よりも脆いのだろう。血が出ているような痛さとむず痒さが感じられる。


 オーラは手薄、姿勢は乱れ、俺の攻撃動作は既に整っている……!

 無防備なジークに……これでようやく一撃を加えられる……!


「う゛あ゛っ……!?」


 ジークとの距離が、あと一歩の距離に詰められた。

 エスペランサ―による『見斬り』からの斬り上げは綺麗に決まったかのように見えた。ジークの呻き声も生々しく、確かに一撃は入った。――だが傷は浅い……というよりも、振り抜くことなく途中で止まってしまっていたのだ。オーラの鎧に食い込んでしまって。


 どうやら残ったオーラをエスペランサ―の刃先のみに集中させたらしく、それで威力を大分殺され致命傷を避けられてしまったようだった。




「――ま、お前の反射なら予想はしてたよ……!」


 でも別に慌てることなんてない。ジークにたかが一手二手だけで致命傷を負わせられるなんて冗談もいいところだ。決め所はまだココじゃない、俺が見据えているのはこの先!

 今の一撃でオーラが傷口に集中しているなら、逆に今後方は手薄になっているということだ!


 そのまま『転移』でジークの後方に移動する際に共にエスペランサ―も引き抜き、今度は左手に持ち替えてそのまま回転して背中を斬り込むために移動する。

 左手に持ち替えたのは、必ずジークなら反応して対応してくることを確信していたからだ。


「終わりだ!」


 どんな不利な状況だろうと、危機的状況のジークはきっと俺のこれに反応する! 絶対に!

 何故なら、コイツはそういう奴だからだ。




「な、舐めんなぁああああ――あ゛っ!?」




 一瞬だけ、振り抜こうとした身体がグラついてしまった。


 左頬に、視界を揺らす強烈な振動が起こった。俺が『転移』で移動した直後、そこに置いてあったように振り向きざまのジークの裏拳が迷いなく飛んできたのだ。俺の振り抜こうとしたエスペランサーを手から弾き飛ばし、俺の顔面を捉えていた。

 歯茎が削られ、唇が割かれたのか口の中に血の味と匂いが充満して気分がすぐに悪くなりそうだった。首が取れそうな程の威力に首の筋が伸び切り、今にもその圧力に諍うことを止めて逸らしたくなる。




「ぐふっ!? ……ハッ、誰が舐めるかよ馬鹿が……!」




 だからこその、左手なんだよ……!


 ジークが危機迫れば迫るほどに機敏になることは分かっていた。だとすればジークは俺の会心の一撃すら上回り、反射で反撃してくるだろう……そう考えられたのだ。

 左手を使ったのは反射を促すためのフェイクであり、反射によって作った隙に向かって俺の右手が完全な一撃を叩き込むための準備に過ぎない。ダメージは元より覚悟していた。


 勿論当たるのが分かっていればそこを集中的に防御だってできるため『鉄身硬』を顔面に使ってはいたのだが……やはりジークの一撃は重すぎた。『鉄身硬』を貫いて痛みが洒落にならないことになっており、通常の生活上なら痛みに叫び苦しんでいるところだ。




 これが、今の俺にできる全身全霊をもって攻めた結果だ。そうまでしてようやく大技を叩きこめる……それがジークなんだ。


 頬にめりこんだ拳を自分から更に押し付け、ジークを俺は見る。そしてエスペランサーを振り抜こうとしていた遠心力を、振りかぶったこの右手の一撃に全て注ぎ込む!




 これで今度こそ終わりだ! ジーク!




「っ!? 『ゼロ――!」




 なん、だと……?


 思わず目を見開いた。ただ信じられなくて、それができる奴がいることがあり得なくて。


 反射させた後に対応の追い付かない姿勢を作り、攻撃を受けきって耐えたら次は俺のターンになるはずだった。

 ただ、それでもジークはその上をいった。俺のそれだけは無理だという想像すらも超え、俺よりかなり不利な対応なはずなのに、既に振りかぶっていた俺と変わらない速度で左の拳が既に俺へと向けられている。


 これでもまだ、追いすがるってのかよ……!? ジークテメェ……!


 危機的状況に反射速度の限界はないというのか? どちらにせよ俺の思惑を嘲笑う出鱈目な力は、今この瞬間のジークを俺よりも速くさせていただろう。

 ジークの拳に纏われたオーラが青の深さを増し、暗い海の底の様に黒くすら見えるようになると、俺の拳にまさにぶつかろうとしている。




 これは間違いない。ジークにとっての禁忌の技……最大最強の威力を誇る『ゼロ・インパクト』だ。

 ――いや、むしろオーラを纏っている分多分威力はあの時以上か。前回と比較にならない『技』を……まさかここで繰り出してくるか。




 ちっくしょ……やっぱスゲーよジーク。お前の反射神経と戦闘センスはマジで世界一だ。まさかこんだけ追い詰めて反応されるとは思ってもみなかった。

 でもお前がその『技』を使って来たってことは、本当に追い詰められたってことでいいんだよな?


 それなら、まだ俺の描いてた最初の流れの範疇だ。やっと安心できる。やることは変わらないし、何も躊躇うこともない。




 こっからは純粋な力比べだ。その技がどれだけ凄まじいのかを、俺は身をもって知っている。

 例え瀕死だろうが未来の時間と引き換えに今の時間に計り知れない恩恵をもたらす、命を削る『技』――。

 ならば俺もこの手段を取ることを選ばざるを得ないし、お前が相手だからこそここで惜しみなく使える!




 俺も……命を糧に力を……!




「『ゼロ――「っ!? ――っ!」」




 俺も『技』の名前を叫び、握る拳に更に力を込める。そして全身から血の気の引くような悪寒が感覚を支配し、そこからフッと湧き出す力が拳へと集まった。

 自分の力じゃないような感覚……あとはもう、魔力も伴ってジークの拳へとただぶつけるのみだ。


 俺も始めからこのつもりだったんだよ!




「「『インパクト』!!!」」




 拳と拳の衝突によって再び巻き起こる衝撃波は、拡散した余波だけでこれまでの戦いでできた跡を無残にも掻き消す程のものだった。




 まさか同じ『技』がぶつかりあうとは……思わなかったろ? 


※8/22追記

次回更新は土曜です。

夜の更新になります。日付変わる前には投稿できるかと。

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