27話 【衝撃耐性】(笑)
◆◆◆
俺は一人、夕方の草原をトボトボと歩く。
普通に歩いてはいるつもりだが、気持ち的にはトボトボが正しいと思う。そう思ってしまうくらいには、俺の気持ちは沈んでいた。
アイツが消えた後、あの世界を構築していた魔法は解除されたのか、1分とたたず元の世界に俺は戻ることができた。
まぁ、いつ戻れたかは正確には分からないんだけどな。気づいたら俺の周りには鳥やら虫やら飛んでて、それでようやく気付いた感じ。
あの世界には本当に俺と奴しかいなかったのが、今になってよく分かったよ。
もう荒れ地はなくなったし、奴が吐いてできた血の跡なども残されてはいない。
本当に何もなかったかのように、いつもの草原の状態に戻った。
時間は武器屋を出たころとあんまり変わってない気がする。
明るさが全く変わっていないし…。
あれは夢だったのか?
…いや、それはありえない。
あんな鮮明な出来事を、夢だとは思えない。
それに頬の痛みが証拠だ。まだジンジンと痛いし。
それと剣も壊れたしな…。
にしても…
「人を殺す覚悟…か…」
奴の言葉を思い出す。
奴は、俺が人を殺したくないことをわかっていながら、それでも殺せと願っていた。
奴が俺の未来のどんな出来事を知っているのかは分からない。だが、あの願いには奴の切実な気持ちが籠っていた。そんな気がするのだ。
人を殺せという願いに切実も糞もないとは思うが、今回は特殊なケースなのだろう。
うん、そうに違いない…と思いたい。
だがなぁ…。人を殺せ…かぁ。
無理でしょうに…。地球の…ましてや平和な日本の…心優しき青年には…無理ですよ…。
…あ、ゴメン。心優しき、は盛ったわ。
俺は自分をそんなに優しいとは思わない。むしろ自分が可愛すぎて自分が良ければいいやとか思う人間だわ。まぁそういう人間はそれなりにいそうだけど…。
心なんてどす黒くてゲスで、最低のゴミ屑だな…。なんで生きてんだろうね?
………。
…うん、何言ってんだろうね俺。なんか俺が最低の人間みたいじゃん。
流石にそこまでは酷くないわ。ちょっと酷いくらいだろう。
…はぁ。自分で言ったことに対して何ツッコんでんだ俺は。
アホか…。
でもまぁ、そういう状況になる可能性があるのは確かだ。
一応俺はアイツの忠告を信じている。何せアイツは多分だが俺自身だ。
自分以上に信用できるやつがいるか? 悲しいかもしれないが、俺にはいない。
家族は信用できるかもしれないが、自分以上という程ではない。いやまぁ…十分信用はしているが…。
だがそんな状況になった時、俺はどうしたらいいんだろうか?
状況がどうであれ、人を殺す自分が全くと言っていいほどに想像できない。それくらいに殺人に対して忌避感を感じているのだ。
答えは出ない。
とりあえず、帰ってアイツらに相談しよう。あの記憶のこともあるしな…。
それもきっと何か意味があるはずだ。
俺はグランドルへと戻るのだった。
◆◆◆
「あ」
俺が門に辿り着くと、俺を見つけた兵士さんが急いで近づいてきた。
そんなに急いでどうしたんですか? 俺は別に逃げたりしませんよ?
皆お待ちかねのイケメン兵士さんである。
今日は西の門番ですか、そうですか…。よく会いますね。
赤い運命感じちゃいますよ?
ちなみに名前はラルフさんというらしい。
なんか勇者っぽい名前ですね~。
しかも歳は24歳の超好青年。
もう一度言う、超!! である。
大事なことなので2回言いました。
女性の方々、チェックするように! ここ、試験だしますよー。
…さてさて。
あれ? なんか凄い顔で近づいてくるんだけど…どしたの? 貴方のそんな顔初めて見ましたよ?
なんか悪いことしたっけ俺?
俺がラルフさんの見たこともない顔と様子にわたわたとしていると、ラルフさんは俺の目の前にまで近づいてくる。
「おいキミッ!! 一体どこに行っていたんだ!? 随分と探していたんだぞ!?」
「はい? 何処って…さっき草原に出ただけですけど?」
ラルフさんに肩を掴まれ揺さぶられる。
ああ…。この全身を揺らされるのがなんともいえない絶妙な気持ちよさを演出…。
なんか新しいマッサージみたいで気持ちいい。
俺がトリップ寸前になっていると…
「さっき? 何を言っているんだキミは…。キミがいなくなってからもう5日も経っているんだぞ!? そんなわけがあるか!」
ラルフさんから、衝撃の発言がされた。
「…は?」
俺が5日間いなかった…? うそん。
なんか面倒な予感がすんですけどー(汗)
◇◇◇
時は戻って5日前。司が武器屋を出た後のことになる。
ポポとナナはベルクとの話が終わった後、『安心の園』へとまっすぐに帰ったわけだが、着くと主である司がまだ帰ってきていないことに気付いた。
2匹は多少疑問に思ったが、どうせ司のことだから寄り道でもしているのではないかと考え、特に気にすることもなく夕食まで休憩することにした。
やがて夜になり夕食の時間になったのだが、司は帰ってこない。
夕食を知らせに来たミーシャに何か知らないかと尋ねると、どうやら知らないようで、帰ってきていないと言われてしまった。
流石におかしいと感じた2匹は、試しに主との繋がりを意識する。
【従魔師】と従魔のこの能力は『リンク』というのだが、まだ司たちは知らないため、繋がりや感覚などと適当に思い付いた言い方をしている。
2匹は『リンク』を使う。
今まで通りなら、ポワポワやらモワモワやといった不思議な感覚が体を覆うはず…。
が…
「えっ? なぜ!? 何も感じない…」
ポポが驚愕の声を上げる。
今までこんなことはなかったから当然の反応だろう。
「…私も、何も感じない。どうして…」
ナナも感じていないのかポポと同様に驚きの顔を浮かべている。
二匹は顔を見合わせ数秒の間固まる、そして…。
「「ご主人―――――――っ!!!!!」」
『安心の園』で、2匹の悲鳴にも似た声が響き渡ったのだった。
◇◇◇
とまぁそんなことがあったわけだが、当然司はそんなことは知らない。
話は戻って司視点へ…
「えっとラルフさん。5日…ですか? 俺がいなくなって5日も経ったんですか?」
「覚えていないのか? 5日前忽然と姿を消して、今まで何も目撃情報がなかったんだぞ?」
「俺は1時間前くらいに草原に出て、今帰って来ただけなんですが…」
「僕にはキミが何を言っているのか分からないよ…」
まぁ…奴が原因だよなぁ。ぜってーそうだろ。
魔法の影響…的な感じだろ? あんだけすげぇ魔法だもん。
物語とかだと偶に聞きますよね。
にしても随分と心配されているらしい。
確かにラルフさんとはそれなりに会話はしていたが、俺は一介の冒険者だからここまで心配されるのもどうかと思うぞ?
依頼で数週間は帰ってこないって人もいるくらいだし…。
…ハッ!? まさか俺に気があるとかっ!? ダメよ、私にそういう趣向はないんだから~。
ちゃんといい女性を見つけてくださいな。ごめんあそばせ。
「とりあえず早くギルドに行って無事なのを報告してきてくれよ。キミに今捜索願いが出ていてね、それを取り消さないといけないはずだよ」
げっ! 捜索願い出されてたのかよ。じゃあ結構な人がこのこと知ってるのか…。
恥ずかしぃー! ギルド行きたくねぇ…。
「そ、そうなんですか…。それは随分と心配をおかけしました」
「できれば早めに頼むよ。依頼者がその…キミの従魔達でね。今凄いことになってるんだ…」
「アイツらがですか!?」
うわ~、アイツらが依頼出してたのかよ。
なんか構図的に俺が迷子の子供でアイツらがその親って感じがするんだが…。
というより従魔でも依頼だせるんだな、知らんかった。まぁあいつらが賢いってのもあるんだろうが…。
それにしてもなおさらギルドに行きたくなくなったな。帰っていい?(現実逃避)
「僕はずっとこの門の見張りだったから又聞き程度になっちゃうけど、この5日間すごかったらしいよ? 町中を高速で移動する謎の物体がいる…とか、ご主人ー! って叫ぶ声だけが聞こえるっていう不気味なことがあったとか…。これ、多分君の従魔じゃないかい?」
「…はい。多分そうです」
俺は額に手を当てて答える。
結構な騒ぎになってるみたいだなぁ。
「とりあえず、ギルドに行ってみますよ」
「うん、そうした方がいいよ」
そうして俺はラルフさんと別れてギルドに向かおうとする。
だが…
「…~~ごーしゅーじぃーんーっ!!!!!!」
よく知った、そんな声が聞こえてくる。
ラルフさんも聞こえたらしく、俺と共にその声のする方向を向いたが、遠くで黄色い物体がこちらに向かって飛んでくるのが確認できた。
分かると思うがポポである。ちなみにラルフさんはまだ気づいていない。
やっぱ早いなアイツ、何キロでてるんだ?
…300キロくらいか? いや、でも…新幹線よりは早い気がするな…。
どんどん近づいて…あれ? 減速しろよ…えっ…ちょ…。
「ご~しゅ~じ~ん~っ!!(泣)」
「あれは…君の…」
ようやく気付いたようだ。
ですね。
アニメみたいに目から涙をブワッと流しながら近づいてきている。
涙がお前の体の体積より出ている気がするのは気のせいか?
ふっしぎ~! って言いたいが…そんな場合じゃない! かわさないと!
俺がそんなアホなことをやっている間に、ポポと俺の距離はもう20メートルほどになっていた。
俺はステータスが高いので反応できるが、ラルフさんは恐らく無理だろう。俺よりもワンテンポ以上遅れて反応している。
…断じてラルフさんをディスっているわけではないぞ? これが普通の反応。
俺が異常なだけだ。
ポポは俺目掛けて突っこんできているので、躱した後ろにラルフさんがいて直撃しちゃいました~、なんてことにはならないだろう。
タイミングを見て横に跳ぶか…。
そして俺は身構える。
ポポとの距離は既に10メートルほどだ。
まぁ余裕だな。
と思っていた。
「グホァッ!!!!」
突然ポポがさらに急加速し、回避が間に合わずに俺は直撃を食らう。
そしてそのまま城壁の壁まで吹き飛ばされ、衝撃が強すぎたのか壁にヒビが入る。
クソ! 完全に油断してた! 超痛い! しかも回転まで加えてきやがった。
これじゃまるでジャイロボールじゃねぇかっ!? コノヤロウ…。
てか油断していたとはいえなぜ吹き飛ばされるんだ? 【衝撃耐性(特大)】のスキルがあるのに…。
ギャグへの耐性は付いていません(笑)ってか? 舐めやがって…。
俺が自分のスキルに不満を感じていると…
「ごーしゅーじーんー!! ざがじまじだよ~!!!」
「うっ…お、おう。ただいま」
見たこともないくらいに顔をグシャグシャにしてポポが言ってくる。
ポポは泣くようなやつじゃないとおもったんだがなぁ。なんか子どもみたい…。
…。
あ、こいつこの前生まれたばっかじゃん。知能が高いから忘れてたけど、コイツまだ全然子どもだわ。
それにしても、鳥の泣き顔ってこんな感じなのか…。ちょっとキモイかも…。
…。
はい、スンマセン。場違いな発言でしたね。わるぅござんした。
しばらくの間ポポは泣いていた。




