280話 ボルカヌ大陸
ちょっといつもより短いです。
◇◇◇
噴煙が微かに残る空の下、ボルカヌ大陸最南端――オルドスの街。
リベルアークの全技術の粋が集められた、武具や魔道具の職人や魔工技師達の夢見る地。
職人と技師が多大な希望を胸に抱く者がいる反面、一部ではその道に身を投じる者達の巣窟や魔窟とさえ比喩されることもある程であり、過去にも先にもオルドス以上に職人らで有名な場所は生まれることはないとさえ言われている。
他にも、冒険者ギルドの総本山があることでも有名とされ、実力も最高峰の者が普段から常駐する強者の集う地としても有名である。
何故ギルドがこの地に総本山を築いたのかは不明であるが、大体設立された当時の地がこの場所だっただけという可能性はある。そのままなぁなぁでずっとそこ……なんてことはありそうな話だ。
ただ、ギルドは技術の粋を集めて作られた数々の設備、機能を搭載しているために膨大な熱をもたらすらしく、その設備らがオーバーヒートを起こさないように海水で冷却する措置を取っているそうで、それを考えるとこの地に存在する理由が少しは納得できるというもの。
この地の環境を上手く利用している光景は多々見られることも確かである。
それはさておき。
その港に停泊したヒュマスからの船……そこからは男女色とりどりの一行が桟橋へと足を踏み入れ始めているようだった。
一行の桟橋の先頭を歩く2人の男性は背筋を伸ばしていたが、小柄な男性がその背を押している。非力そうに見えるが、2人は全身の力が抜けきっていたのだろう。ゆっくりとその力に負け、前へと押し出されるようにして動き始めていた。
中々に奇抜な組み合わせの一行。それは、丁度港で暇を持て余していた二人の男女の目に付いたようである。
「ん? あれ『鉄壁』じゃない?」
「え? もう? ……あ、本当だわ。相変わらず綺麗ねぇ……」
一行の中にヒナギがいることにいち早く気が付き、キョトンとした顔を晒しているのは小人の男性だ。淡い緑色の髪を短く切り揃えて清潔感に溢れており、ヒナギと同程度の背丈である隣の女性の半分程度しかない身長であるため勘違いされるかもしれないが、れっきとした成人であるようだ。少し顔が幼く見えてしまうのは、種族の特徴であるためだろう。
もう一方は女性らしい口調で話す、少し民族衣装を思わせる服装をした魔族の女性。側頭部に1本ずつ角を生やしている以外は人族と変わらない姿で、見た目の雰囲気がヒナギと似たものを持っている。それと中々の美貌も持っているようだ。肩だけ露出した衣装は少々煽情的である。
「招集日までかなり余裕あるのに、別の大陸からこんなに早く来るとか相変わらず真面目だなぁ…………って、でも一緒にいるのって誰だろ? 姫ちゃん知ってる?」
「ううん、知らないわ。パーティでも作ったのかしら? 色んな人がいるわね……でも、なんだか楽しそうだわぁ」
おっとりとした口調で話す女性……姫ちゃんと呼ばれたその人は、ヒナギの表情を見て安堵するように笑った。
今ヒナギが男女入り混じる場で、その一員として仲睦まじい状態であることを嬉しく思っているような……そんな表情である。
「あの方角的にギルドに行くつもりなのかな? どーする? 折角だしボク達も挨拶だけしとくかい?」
「そうねぇ…………あ、ううん、やめとくわ。折角楽しそうな所を邪魔するのもちょっと嫌だし、ね……。それに、どうせ招集日に会うんだからその時に色々聞けばいいもの。あと今ギルドには『剛腕』のあの方が滞在しているっていう話もあるわけで、また面倒事に巻き込まれるのは困るわぁ」
小人の男性に質問を投げかけられるも、それをやんわりと断る魔族の女性。断る理由は正当性のありそうなものだったが、最後の方は何やら不穏そうな物言いである。表情にやや引き攣った印象が見受けられる。
「あ、そうだったそうだった、そういえばあの人いるんだっけ? 腕だけは達者だからなぁ……本当に腕だけ、ね。アレどうにかならないかなぁ……」
「そういえば、ライツさんは一度巻き込まれて吹き飛ばされてしまったことありましたわよね? あの時は大丈夫でしたの?」
「いやいや大丈夫じゃないよ、気づいたら吹き飛ばされていつの間にか海の真上で……僕が空飛べなかったら海にそのままドボンだったよ? 死ぬかと思ったよあの時は」
「それは……運が良かったですわね……」
ピョンピョンと跳ねて感情を表現しているのか、男性はムスッとした顔をして頭上の女性に訴えかけている。どうやら性格は少し子供っぽいところがあるらしく、懐っこいような人物であるらしい。
成人者同士であるはずなのに、まるで大人が子どもを相手にしているようでもあった。
2人の会話はそのまま愚痴を交えながら暫く続く。
ヒナギ達の姿は、既に桟橋からはなくなっていた。
◇◇◇
「ん~……! やっぱ慣れねぇ船旅は身体に堪えるなぁ」
「だよな。なんかフワフワしてた身体がしっかりしてんのは普通のことだが、違和感を覚えるっつーか……」
ボルカヌ大陸最北端に到着後。陸に上がるための桟橋の上で、ジークとシュトルムが身体をほぐすために適度に四肢を動かしている。少し身体に怠さが残る足取りなのは船旅による影響か……それとも昨夜の騒動が少なからず原因なのかは不明であるが。
でも、いやぁ昨日は実に静かな夜旅でしたねぇ。
ドラゴン? いやいや、そんな恐ろしい生き物なんていませんでしたとも。いたのはただのヤクザ顔した赤ちゃん達くらいですしね。多分純粋に船旅に疲れただけに違いない。
「お疲れかもしんないけどさっさと行きますよー。ホレ二人とも、歩け歩け」
「「へーい」」
海に囲まれていた環境から脱却した余韻の残る中、放って置いたら暫くは身体をその場から動かそうとしなさそうな2人の背を押し、無理矢理前へと押し出す。
俺の言葉にダル気に返事を返す2人は、少しずつだが歩みを始めた。内一人が王様だなんて周りは知りもしないだろう。
後ろで俺らを見つめる女性陣の視線に気が付きつつも、振り返って確認することは野暮である。その必要性はない。
目指すべきは目の前に広がる、数々の煙突から煙の吹き出ている工業地帯を抜けた先に見える威厳を放つ相貌の建造物だ。1週間後に迫る召集の地でもあるギルドの総本山である。
到着したからといって悠長に暇を潰す気はない。まずは今できることを……ギルドの総本山に向かうべきだろう。到着早々にというか、ギルド総本山であるオルドスの街は今俺達がいる場所がそれに当たるわけで、今回はイーリスの時と違って移動をする必要が殆どないのが幸いか……事を早く済ませることはできそうである。
「(それに、これを早く報告しないとな……)」
ジークとシュトルムの背を見つめながら、コートのポケットから銀色のネームプレートを取り出し、今一度プレートに刻まれている名とその横に連なっている称号を確認する。
そこにはオスカー・クライアンとSの文字が刻まれており、ポポがリオールで相対した相手が身に付けていたものである。
恐らくは『ノヴァ』の最初の被害者でもある人物。どうやらこの人は暫く姿が見えなかったらしく、そして連絡すら取れなかったそうだ。今回の招集に関しても本人にその通達が唯一されていないそうで、ギルドでも少し動向が気にはなっていたようだ。一応さり気なくギルドマスターに聞いてみた所、そんな反応をされたのは俺の記憶に新しい。
Sランクの死亡はすぐにでも公表すべきか判断に困ったものだが、だがしかし、混乱を招く懸念もあったのも事実だ。世界の頂点のイメージを持つ方々の欠落は大衆に多大な影響を与えかねない。更に『光陰』と呼ばれたオスカーさんは、Sランク歴も8年とそれなりに長く、経験豊富な所謂中堅に属する人だというから……この事実は俺達だけが知るのみだ。
だったら、公表は主要人物の集まるこの機会にした方が話は早いと考えたのだが……さて、皆さんの反応はどうなることやら。
俺が夢見る、皆で協力しましょーみたいな展開になればいいんだけどねぇ。あー……全然そのビジョンが見えてこない。
まぁなんにせよ、オスカーさんの犠牲は俺個人の感性に則ったとしても悲しいことなのは確かだ。
誰の目に留まることもなく犠牲になったのは嘆かわしい……。少しずつ、だが確実にこの世界に現存する魂は奪われている。連中の目論見は不明だが、その完遂に近づけさせ続けている現状を指を銜えてみていることもできない。
本当に、自分にやれることはやろうと思う。
「なぁ旦那。ボルカヌってよぉ、ギルドとか職人の聖地以外にゃ何が有名なんだ?」
「んー? そうだな…………お、丁度あそこに見える山あんだろ? 例えばあの山とかは――」
「「へぇー」」
シュトルムとジーク、それと2匹の感心した反応と会話を微かに聞きながら、俺はシュトルムの後ろ姿から目を離せなかった。というのも、イーリスではシュトルムに『影』を殺させてしまったからである。
別に殺させる羽目にしてしまったことはどうでもいい。シュトルム自身『影』に対して殺意を抱いていたし、それを抑制することはあの場では無理というものだ。
ただ何故俺がそう殺させてしまったことに不満があるのかと言えば、それは一概に俺が『影』を殺したかったから……それだけである。子どもみたいな理屈だとは自分でも思う。
セシルさんも『夜叉』に対して復讐したい気持ちを抱いていることを伝えてくれたが……正直その感情は俺も負けてはいない。――いや、恐らく負けているとかの話ではないだろう。
今の俺の行動理念の基盤ともなっている、本来ならあり得ず知り得ない未来の記憶。この明確に未来を見通すことすら出来ない、断片的な映像と会話の中に含まれた未来の俺の記憶の端々には、一際強く残るドス黒い感情がほぼ大半を占有している。
全ては『ノヴァ』に対する怒り、憎しみ、殺意である。
出来ることなら『ノヴァ』は俺が全員この手で皆殺しにしてやりたいのだ。それくらいの感情を抑えるのは相当骨が折れる。
セシルさんには悪いが、『夜叉』はセシルさんには殺させない……アイツも俺が殺させてもらう。
「……」
この気持ちをポポとナナは知っている。アンリさんとヒナギさんは知りもしないだろう。
取りあえず2匹は別として、今後ろから俺を見ているセシルさんにはこの感情は読み取られているのだろうか? 別に読み取られていても構いはしないが、多分セシルさんは天使の力を使うことに否定的だから、俺の心の声までは聞かずに良からぬ雰囲気を感じた程度だとは思う。……その方が好都合ではある。
俺から始まったことには俺がケリをつける……それが筋というものだ。
――まぁ、マイナス思考はここらで一旦お開きとしよう。今はオスカーさんの死亡報告に伴う面倒事の心配をした方が良さそうだ。
だって俺らが殺したみたいなことになったら面倒すぎるし。しかも一番怪しくもある状態なわけで、疑いの目を向けられる可能性って相当高いと思うんだよねぇ……。
先入観と言いますか、第三者からしたら最初の報告者が犯人だっていうのはお約束だ。それは推理小説とかの定番でもある程に、ある意味確立された避けられぬ宿命でもある。
流石にギルドがそこまで早計すぎる判断はしないだろうと思いたいが…………フッ、どうしてかな。溜息しか出てこねぇや。
本当はもう1シーンくらい入れる予定でしたが、未完成だったので次回持ち越しにしました。
次回更新は来週くらいだと思います。
※5/28追記
次回更新は5/29(月)です。




