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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
断章 それぞれの決意
265/531

263話 襲来×2

くーる~きっとくる~。

 ◆◆◆




「ところで、なんでギルドに誰もいないんですか? 随分ガラガラでしたけど……」

「例の騒ぎの影響だ。この街はそれなりに大きいが、人の内訳は案外外からの流れ者が多くてな……冒険者も例外ではない。特にここ最近は冒険者の出身の割合がグランドルではなく、セルベルティアやその周辺出身の者に集中していたせいもあって、皆身内の安否を確認するために出払ってしまっておるのだ。そろそろ戻ってきても良い頃だとは思うが……」

「そうだったのですか……。ギルドの業務に差支えは出ていないのでしょうか?」

「当然出ている。受付にマッチしかいなかっただろう? 要はそういうことだ。ギルド職員の手も借りている状態だ今は。カイルが厄介な大きい依頼を引き受けて大事には至っていないが、それも時間の問題だろう。比較的小さめの依頼でも疎かにはできんからな……依頼要請が溜まりに溜まって半パンク状態だ」


 ギルドの通常業務に影響が出てしまっているこの状況に、ギルドマスターは大変参っているようだった。困り顔で、自らの淹れた茶を啜る姿がなんともひもじく見えてしまう。

 俺とヒナギさんはなんとも言えず、ギルドマスターと同じく茶を啜ることで時間を潰す。


「――まぁ、こうなってしまったものは仕方がない。別に今回が初めてというわけでもないしな。どうにか切り抜けるだけだ」

「さいですか」


 あ、そうですか……なら頑張ってください、応援してますんで。


 俺もギルドに携わる者として、いつもなら流石に声を掛けたことだろう。しかし、気まずい空気に耐える根競べをしないわけにはいかない。

 ここで手を指し伸ばすような発言をしてしまっては、こちらが逆に付け入られて被害に巻き込まれてしまいそうだ。ギルドマスターには悪いが、こちらから声を掛けたりすることはしない方針を取らせてもらおう。俺達も時間に余裕があるわけではないのだから。




 心を鬼にし、慣れない徹底抗戦の第二ラウンドへと突入しようかというところで――。




「――ちょっち暗い話で落ち込んでますねぇ皆さんや? だったら別のお話しましょうぜ?」

「「ん?」」

「え……」




 なんでかなぁ……毎回タイミングよく邪魔って入るよね。

 他人に言ったら噓つき呼ばわりされそうなことを経験したことって、意外と大勢の人あるんじゃね? 俺の場合は今がその時です。


「チャッチャラッチャッチャラ~♪ ワーワー、ドンドン、パンパカパンツのチラリズム」

「「「……」」」


 な、なんていう不吉な予兆、てか確信なんだろうか。折角の素晴らしい声帯が非常に悔やまれるフレーズと共に、言葉一つ一つに身を震わせたくなりそうだ。


「ヒャッホーイ! ツカサきゅんみぃーつっけたぁー☆」

「この声は……」

「『安心の園』にいないから俺に探してくれというメッセージだったのだろう? いやん、なんて遠回しな絆と友情の確認なの! お前の残り香、そう! 愛の匂いを辿ってきたぜ!」


 あぁ……見つけられてしまった。この声は……アイツしかいない。

 2人も同じ顔してるし、口にしなくとも俺は誰が来たか分かってしまった。ギルドマスターに至っては開いた口が閉まらない始末で、この中で一番酷い反応をしているかもしれない。というか、残り香ってお前はジークかよ。


 声の聞こえる方を見ると、突然部屋の窓を突き破って颯爽と現れた一つの影が。その影は割れたガラスの破片を踏みつぶしながら差し込んでいた光をその身で遮ると、それを後光としているかのように俺達の前へと姿を晒した。

 浮かぶシルエットの顔はまだ見えない。だが俺は顔のパーツがピッタリとはめることができてしまい、脳内で補完されていく。


 こ、コイツは……!


「神出鬼没! ストライクゾーンは男女両方見境なし! 前科あり? ノンノンそれは冤罪さ☆ 住まいは皆さんの心の中! 遂にアイツが帰ってきた! 情報屋のヴァルダとは~~~……オ・レ・の・こ・と・だ!」


 で、出やがった……この変態め!

 呼んでねーし相変わらずうぜぇ。しかも帰ってきたのはお前じゃなくて俺らだ。


 目元ピースで堂々とした振る舞いを見せる青年に、飲んでいたはずの茶が止まってしまう俺達。

 この場に新たな4人目の人物、有能で厄介者のヴァルダが介入してきた。




「いやぁ、3人が密会をしていると聞いて正面から乱入したかったのだが、マッチさんに止められてしまって困ったぞ全く。だから裏口からこんなことをする羽目になってしまった。……ふぅ、やれやれ」


 窓際から俺達の座るソファー方へと、少しずつ近づいてくるヴァルダはそう言う。

 今に至る一連の出来事は、さも仕方がないと言いたげなヴァルダの自己犠牲を伴った自己満足。俺は身体を見回して傷口を確認している様子に心配する気持ちは一切湧かず、ただただ冷たい眼差しで見ることしかできなかった。


「そんなことをする理由にはならないと思うが? てかそこは裏口じゃなくて普通に窓だ、しかも2階のな?」

「まぁまぁ、お堅いことは言わずに。誰だって偶には2階から入りたくなるだろうに……。それに堅かったのは窓だけにしてくれたまえよ……ぶち破るの結構痛かった……あ、ちょっと血も出てる……うぇ~ん」


 馬鹿だ。馬鹿がここにおる。出血死で死ねばいいのに……いや、この際死ねばなんでもいいや。2階から転落してくれるのがベストだったかも。

 少なくともギルドマスター、アンタは怒っていいと思う。この部屋の窓壊されてるからね。というか殺してくれてもいいです。多分貴方ならこの変態も倒せるでしょ? ギルドマスターが伊達ではないってことを知らしめてやってくれ。


 と、ひたすらにヴァルダに対する当然の暴言を吐いていく。

 すると――。


「お、お主、一体何のようだ?」

「あ~、実はギルドマスターではなくこっちに用がありましてね。すみませんが貴方はまた今度で」

「……」


 引き攣った顔をしながら、ギルドマスターがヴァルダを見たくないのに見つめている。

 かつて俺に見せた威厳ある姿は何処へ行ったというのか、ヴァルダに対しての苦手意識が露骨に顔に出ており、ヒナギさんの空笑いが隣から聞こえて来た気がした。

 ヒナギさんを信者達とは別の意味で手の付けられなくするとは大した奴である。これで本人に自覚があるのだから非常に質が悪い。


 でもギルドマスターさんや、まず怒るんじゃなくそれなの? 順序おかしいんですけど。

 しかもヴァルダはヴァルダでギルドマスターに用があったわけじゃないんかい。とばっちりにも程がある。用件もない人の部屋の窓をついでで壊すとか正気じゃない。……確かにそういう奴ではあるけども。


「さてツカサきゅんよ、大層なご連絡をしているところ悪いが、お前に更にビッグでラブリィなニュースを届けにきたぞい。それで許してくれたまえよ」

「は? なんだよ一体……」

「というか、とある方々からの依頼でもあるから聞いてくれないと困るのだ、そうなのだ。だから心してしっぽり聞くように!」

「あ、あの……ヴァルダ様? お怪我の程は……」

「心配ご無用ですのでお気になさらず。相変わらずいつも通りの女神属性が健在なようで嬉しい限りッス」

「は、はぁ……?」


 ツッコみどころが多すぎてもうなんだか……。


 ヴァルダはギルドマスターの隣の開いているソファーへと迷いなく座ると、ヒナギさんの辛うじて発した心配の声と困惑した反応を他所に語り始める。

 余りに自然な流れだったために誰もそれを止められず、成す術もなく語りに耳を傾ける俺達。


 それにしても依頼ねぇ……。俺が対象のとなると……一体誰だろう。


「アンリ譲がいてくれたらよかったんだが、いないのなら仕方がないので進めるぞ。……実はな、ツカサ達がイーリスに旅立ってからすぐの出来事だ。恐らくはすれ違いとなってしまったんだろうが……このギルドにアンリ譲のご両親がきたんだ」

「「えっ!?」」


 俺とヒナギさんの表情が変わり、驚きの拍子にソファが軋んだ。予想だにしない出来事があの旅立ちの日に起こっていたというのだから。


「どうやらアンリ譲が以前ご両親に手紙を出していたらしくてな? その手紙……まぁ元気にしているという身辺報告だったそうなのだが、恋人ができた云々のことも書いてあったらしい。それを見たご両親は、これまでアンリ譲が恋愛といった浮いた話の一つも無かったこと、それと娘の今の生活が気になったみたいでな……こうしてこの街まで心配して足を運び、遥々やってきたとのことだった」

「アンリのご両親が、この街に……」

「ほぅ? ……まぁ後でいいか。で、父君の方は当時諸事情で介抱されていて俺はあまり顔を見ていないが、母君の方はアンリ譲そっくりで美人だったぞ。子は親に似るのだなと本気で思ったくらいだ。いやぁ、マジで鼻の下伸ばしっきりにされてしまったな、ハハッ」


 ヴァルダが当時を思い出しているのか、鼻の下を伸ばした見ていると腹の立つ、そんな顔になるが――。


 う、うん? 介抱されたってどゆこと? 諸事情で介抱するに至る出来事って早々ないだろ……一体何があったし。

 まぁそれは置いておくにしても、やはりアンリさんの母親は美人さんなのか……予想してはいたけど。となると、恐らく父親の方もかなりのご尊顔をお持ちであることは想像に難くない。

 あぁ、幻滅されなきゃいいんだけどなぁ、こんなショボい俺に。しかもヒナギさんっていう別の彼女さんまでいるとかってなると……うわぁ、良いビジョンが全く見えない。良い美女は隣に見えますけども……ゲフンゲフンッ。


 急に胸が締め付けられる思いに駆られてしまう俺だが、まだ話は終わっていなかったようだ。

 嫌ではないが、進んで望みたくはない。自分が心のどこかで否定しきれていなかったイベント……それは、今からヴァルダによって語られる内容によって確定してしまう。


「それで、気になるアンリ様のご両親の依頼とは何なのでしょうか? 今のは来訪した事実だけで、そこから先の話があるんですよね?」

「はい、これから話しますのでご安心を。――そう大層なことでもないのですが……ツカサ達がグランドルに戻って来た時、戻ったという連絡をして欲しいという依頼だったんですよ。そしてこの一連の出来事があったことをツカサ達に確実に伝えておくようにというね」


 デデーン! カミシロー、アウトー。


「……つまり、また伺いに来ると言うことだろうな。お主に確実に伝えるのは、またすれ違いみたいになることを避けたいからだろう」


 ギルドマスターの最後の駄目押し。はいはい、俺でもそれくらい分かってますから。


 一難去ってまた一難、それが早くも俺に到来してしまったようだ。しかも、既に改札を潜り抜けてホームに立たされている状況の如く、直接会うその時が確約されてしまったようなものである。それも割と近そうな内に。


 早いよ、早すぎる……俺の身の回りの展開ちょっと異常だよ。心身休まるひと時は何時俺に与えられると言うのだ。

 人生はもっと鈍行であるべき、快速な人生なんて良いこと無しだよこのヤロウ。人間ただでさえ短い命なんだから。


「母君には根掘り葉掘りツカサの人物像を聞かれたから大抵の情報は伝えておいてあるぞ、勿論お前が異世界人であるということは伏せてな……そこについては安心しておけ」

「え? でもそれ以外は教えたのか?」

「対価を貰っているのだから当然だ。その時に限って言えば母君は俺にとっての顧客そのものだからな。それに、お前が愛人だからといって贔屓するのは2流のやることだ。お前は確かに特別だが、商売の上では余程の事がない限りは他と同じに見なくてはいけないのだから」


『安心の園』での約束の通り、異世界人であることが世に確実に出回らない限りその事実を伏せると言う発言は覚えているようだ。今はもう解禁してもいいラインに迫っているだろうが、当時はまだまだ言ってはならなかったはず。


「愛人じゃねーから。……で、ありもしない変な事は吹きこんだりはしてないだろうな?」

「オイオイ、それは当たり前だろう? ツカサきゅん、冗談でも流石にヴァルダちゃん心外なんですけどー。毎度言わせてもらうが、俺はこの仕事では手を抜くつもりはない。きっちり正確な情報だけを売る……それが俺の情報屋としての誇りであり、全てだ。少しの嘘を言った瞬間から、情報屋としての信頼は地に落ちるのだからな……」

「そういや、お前そんなことも言ってたっけ……流石にスマン」

「おう。分かればよろし、でも俺とお前が別れるのはよろしくなし」


 ギルドにも情報を売り、そして信頼を得る程なのだから、今の俺の発言はヴァルダを逆なでするような愚問だったか。素直にスマン。最後のには謝らないけど。


 自分が絶対的に誇りに思っている仕事を疑うような真似をされたら、プライドに傷をつけられているも同然だろう。プロ意識が高ければ尚更だ。

 ヴァルダの顔が一瞬真面目になったものだから、俺はそれまで突然のことを伝えられてしまったことで感情的になっていたが、冷静さを取り戻すに至った。


「ま、分かってくれればそれでいい。でも、こっちの方に関しては毎日手でヌいてるがな?」

「馬鹿っ、そういうのやめろっ!」


 はい台無し。今の台詞を抜いてくれれば完璧でした。

 そういうのはせめて女性がいる前では自重しろよ! いや、普段もだけどさ。


 ヴァルダの真面目トークに油断していた俺とギルドマスターは、軽い握りこぶしを上下させるヴァルダのせいで気まずくなってしまう。

 というのも――。


「っ……!」


 ヒナギさんがこの手の話に対応できるわけがなく、赤面してしまったからだ。察するにヴァルダの言っていることを理解してしまったのだろう。

 しかし、これは別にヒナギさんがムッツリスケベ、考えすぎなどと言われるようなものではないことは確かだ。そもそもこれくらいの察しは当然であり、その手の知識と話した相手の人物像から簡単に想像がついてしまうのは、仕方のないことと思えてしまうからだ。

 しかも昨日少々発情されてしまわれたこともあって、ヒナギさんはややそういったことに敏感になりがちなことも運が悪いと言わざるを得ない。


 2人共、どうか鎮まりたまえ。


「おっと、俺の息子が粗相をしてスマンスマン。……さて、俺達のことはともかく。今の話だが、ちなみにマッチさんもその時に一緒にいてな、ここまでの事実に嘘がないことは後で直接聞いて確認してみるといい」

「あ、そそ、そうなのですね。ま、マッチさんも知っていらしたんですか、そうですか……」

「えぇ、当時その場に居合わせた関係でね」


 先程ヴァルダが仕事に誇りを持っている事を聞かされている手前、別にマッチさんに聞く必要はないが……本人としては確実に事実と証明したいがための発言だろう。


 それとヒナギさん、恥ずかしさを落ち着かせようとしてるのは分かるんですが、下手に喋らない方が良いかと。珍しくめっちゃ噛んでますよ? 

 折角発情期をやり過ごしたと思ったのに……これではまた危うい1日になる可能性が出てきてしまった。全く、俺の明日はどっちになるというのだ。

 だからヴァルダ……当然お前に明日はない。今夜は覚悟しておけ、ガチで寝かしたる。




 ――ま、だったらここらでお暇させてもらいましょうかね。


 丁度聞くことは聞けたし、この場にはもう用はない。それならばヒナギさんに助け舟を出すという意味も込めて撤退してしまおう。


「ヒナギさん、皆のとこ行きましょうか? さっきのも含めて話し合いしたいですし……」

「そ、そうですね! そうしましょう!」


 ギルドマスターとヴァルダの返答も待たず、俺とヒナギさんは同時に席を立った。

 ギルドマスターだけなら問題ないが、ヴァルダが加わってしまったこの状況ではこれ以上長居してもロクなことにならない可能性が壊滅的に高い。

 俺の厄介者リストの内、『ノヴァ』の次に入るのは……当然ヴァルダだろう。今日、それがハッキリと分かった。




「あー、そうそう……」

「「……?」」


 今まさに帰路につく足を動かそうとしたところで、ヴァルダがとぼけた顔をして最後の駄目押しをしてくる。


「実は、もうご両親には連絡しちゃってあるから」

「えっ!?」

「一応伝えるまでが依頼だったしな」


 なん、だと……?


「そしたらな、父君が速攻でこちらに伺うと言っていたぞ。それにイーリスで騒動があったこともあって、かな~り心配していたようでな…………『遂に来たか』……だとさ」


 なんですかその一大決戦前みたいな台詞は。親からしたら娘関連のことはそれに匹敵するのかもしれないけども。


「果たしてアンリ譲の父君とお前が会いまみえる時、そのやり取りがどうなるのか……俺は楽しみで仕方がない(笑)。対策練るんなら早めにしたほうがいい」


 俺とアンリさんの父親が対面している姿でも想像しているのか、ヴァルダは笑いを堪えて俺を面白そうに見つめている。俺はと言うと、一気に押し寄せてしまった不安達を鎮めているせいで、ヴァルダの物言いに返答する余裕はなかったが。




『遂に来たか』などと発言している時点で、今回の事が穏便に終わるとは到底思えない。

 気付けば、俺の顔は無意識に引き攣っていた。


ヴァルダの約半年ぶりの登場でした。ちょっと懐かしい。

次回更新は木曜です。

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