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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
253/531

251話 『宴』:ヒナギ①

 ◆◆◆




「くっ……」


 半屍化した重い身体を引きずるようにし、ノロノロと進軍を俺は続ける。

 やっとセシルさんから解放されたわけだが、解放に至るまでの代償は、アンリさんで既にダメージを蓄積させていた俺には……酷く苦しい致命傷となってしまった。様々な痛みが身体を蝕んで、とても平常などとは言えそうもない。

 最早スニーキングミッションどころではない、生き残ることこそが一番の優先事項である。


 だから俺は早くにでもヒナギさんと合流する必要があるだろう。あの人ならば必ずや俺を守ってくれるはずだ、何もかも受け止めて……俺に癒しを与えてくれることは間違いないのだから。




 ――ピンポンパンポーン♪




「何だ、この音……?」


 突然、電子音のような音色が響いて来た。久しく聞いたような錯覚を覚える音に、俺は何事かと周囲を見回してみるが、特に何か目に見える形となっているわけでもないらしい。

 ただ、常に聞こえてくる喧騒は一瞬だけナリを潜め、街中が俺と似たような状態になっているのではと思う。


『オルヴェイラスにて『宴』をお楽しみの皆様へのご連絡です……』


 電子音の後に聞こえてきたのは、人の声だった。すぐそこで話し掛けられているのか、それとも遠くで大きな声で話しているのか、一体どちらなのか判断に少々困る不思議な聞こえ方で……。

 でもそれは例の通信だということは、すぐに察することはできたが。


 ほぅ? こんなのできるのか……まぁ通信の内容を変えただけだからそりゃそうか。

 なんかアナウンスがまるで迷子の子を探しています的なやつに近いね。


 デパートや町内放送でのアナウンスみたいな感想を抱きながら、俺は足を止め、耳を傾けて続きを待った。

 すると――。


『現在談話広場にて行われている例のイベントですが、主役のヒナギ様が逃走されました。見かけた方は直ちに身柄の確保の方をよろしくお願い致します。尚、確保した場合の連絡は――』

「は?」


 初っ端から出鼻を俺は挫かれた。これはある意味で出オチというのではないだろうか?


 えぇえええええええっ!? アナウンスがマジでそんな役割なのかよ!? てかヒナギさんかい! 

 逃げたって……一体何のイベントやってんだ!


 まさかのヒナギさんの捜索願いと分かってしまっては、何故そんなことになっているのかで頭を悩ますのは仕方ないだろう。今これから探そうと思っていた人が何かとんでもないことに巻き込まれている気がしてならない、いや……既に巻き込まれているの間違いか。

 それに、この通信の使い方に異論を唱えたいものだ。俺の気持ち的には、軍事目的で使うような無線を民間用に贅沢に使っているような感覚だ。あり得ない。


『それともう一つ、此度の英雄様に大変ご好評をいただいたらしく、現在食品エリアの菓子類が壊滅状態となりつつあります。品薄が続いておりますゆえ、近隣にて出店されている方々への材料提供に皆様ご協力下さるようお願い致します』


 連絡事項はまだあったらしい。ヒナギさんの次は……あろうことか俺だった。


 ジィーークッ!!! もうやめて! もう食わないでくれぇえええええっ!?

 アイツまだ食ってんの? え、マジで馬鹿じゃないの? 馬鹿が馬鹿なことをするのは分かるけど、それでも馬鹿ばっかりしてる馬鹿はもう馬鹿ですらないよ? ただのキチガイだよ? 

 戦犯ジーク、お前の罪は非常に重い。後で腹殴って全部吐かせてやるぞコンチクショーがぁっ!


『ちなみに、言うまでもありませんが陛下とクローディア様のちちくりあいは現在絶賛継続中です。お伺いになられていない方は是非とも陛下の屍っぷりを一度ご賞味あれ。胸焼けします』


 なんつー適当なアナウンスだ、酷すぎる……。でもこっちは割かしどうでもいいや、アレの続きをまだやってるのね……シュトルムご愁傷様。


 仲間が次々と犠牲になっていくことを知り、俺は内心で黙祷を捧げた。それが唯一俺のできることだと考えて……。

 そして思った。今回はやたらと男性陣が悲惨な結果になっていると(ジーク除く)。


 ……といっても、男性陣の内訳は俺とシュトルムだけなわけだけど。でも俺は既に2回悲惨な目に遭ってるから、それを2人分と考えるとやっぱり男性陣は悲惨な目に遭う宿命なんだろうね。

 この『宴』は俺達を生贄に捧げる儀式だったんですかねぇ? だからさっきから追い回されてると……なんか納得できちゃうのが悲しいや。


『――あ、たった今情報が入りました。引き続きご連絡させていただきます』


 まだあんの? ……うん、もう好きにして。


 これでアナウンスは打ち止めと思いきや、たった今新たな情報が入ったとのこと。ゲンナリした気持ちで、どうせロクでもないことだろうと思って適当に続きを俺は待つ。

 先程と同じで、淡々とした口調で事務的に声は聞こえてくる。


『……どうやらハルケニアス王ハイリッヒ様、並びにリオール女王リーシャ様の両名がオルヴェイラスへと現在向かわれているとのことです』

「はぁっ!? なんで……」


 声に出すつもりなんてなかったが、あの2人が今ここに向かっているという事実には堪えきれずに言葉を漏らすしかない。

『宴』は三カ国同時開催、その国のトップの者が持ち場を離れるのは如何なものだろうか? 何か正当な理由があるのだろうか……?


『お二人によりますと、英雄に用があるとのことです。……ですので、此度の『宴』の重要人物、英雄様の方を見かけましたら情報の提供にご協力くださいますようお願い申し上げます』


 なんと、リーシャとハイリが俺にとある用事を抱えてやってきているとのことだった。またしても自分が標的にされてしまい、決してそんなことはないだろうが、俺を完全に殺しに来ているような気持ちになってしまう。


 当然僕もう嫌です……君達は来なくていいです、ハイリ、リーシャ。

 いやまぁ、ハイリはまだまともだから別にいいんだけど、状況が今芳しくないから来てほしくない。でもリーシャは面倒臭いことが起こりそうでならないし、問答無用で来て欲しくないんだよなぁ……。性格がなんかナナと似てて余計なことを仕出かす光景しか思い浮かばないし。


 三カ国でまともな奴は誰かと言われたら、俺は間違いなくハイリが一番まともだとは思うくらいである。


 てかいつまで国ぐるみの鬼ごっこさせるつもりだ三カ国。今日は俺は国際指名手配犯ばりの緊張感で過ごさなきゃいけないの? そんなの否応なしにスニーキングミッションしなきゃいけないじゃん! ふざけんな!


『連絡は以上です。引き続き『宴』をお楽しみください』


 楽しめねーよ。

 うん、この連絡は異常ですの間違いだろ。今からでも遅くはない、今の連絡は全て誤報だったって言って。この連絡は合法ですって言われたら殴り込んでもいい?


 無駄なツッコミを内心で口走ったものだが、俺の願いは届かない。現実は非情で、そのまま何事もなく電子音は消え去ってしまう。


 と、取りあえず早くヒナギさんと合流しないと……! 俺も危険な状態ではあるが、ヒナギさんをまずはお救いせねば! 

 やることは決まった、ヒナギさん何処に――。




「ついて来ないでくださいぃ~っ!」

「ヒナギ様ー! 待ってー!」

「逃がしませんよ、早く戻ってください!」


 まずはヒナギさんの手掛かりを探そう……そう思っていたのも束の間だ。街の中心方面、俺の前方に多くの人の影がポツポツと見えて来たかと思えば、大きな声を発しながら追いかけられている人がいるではないか。


 ヒナギさん、すぐそこにいました。案の定追いかけられとる。

 普段の凛とした姿も、今の慌ただしく走る姿もとても素敵です。流石女神様です。


「ヒナギさんっ!?」

「か、カミシロ様!? た、助けてくださいぃ~~~!」


 俺は探していた人がすぐに見つかったことと、予想した以上の追いかけられ具合に圧倒されて驚きの声を発した。ヒナギさんも俺を見つけると、まるで絶望から希望の兆しが見えたとでも言わんばかりに顔を綻ばせ、慌てながらも俺へと助けを求めるのだった。

 追いかけてくる群衆の群れから一気に距離を突き放し、ヒナギさんは動けずにいた俺の背後に回り込むと、隠れるようにして服にしがみついてきた。

 それと同時に密着した身体はヒナギさんの女性の部分を押し付ける形になってしまい、ふにょんとした圧倒的な感触が背中に伝わってくる。


 ……胸当たってますよ? あふん……これは気持ちええ。


 ヒナギさんはさらしを巻いていることもあり、一見胸は大きくないように思えてしまう。

 だが、実際はこの人は巨乳である。湯船に浸かるとプカプカと独りでに浮いてしまうくらいには大きいことを、俺は知っている。


「か、かかかか隠れさせてください! お、お願いします!」

「へっ!? あ、はい……と言っても……」


 案の定、俺になんとかしてもらうつもりだったようだ。まぁ気持ちは分からないでもない。ただ、ヒナギさんがここまで慌てるということが非常に珍しく、俺はヒナギさんの挙動がこの時は印象的だったと記憶している。


「オイ! 英雄も一緒にいるぞ!」

「好都合だ、連行しろ!」


 アハハー、俺も標的にされちゃったぁ……。なんか口調がマジで指名手配犯みたいで泣けてくる。


 この状況を前に俺はどうすべきか? まずは周囲を確認して一瞬でも良いので状況確認を試みた。


 どうやら追いかけてきている群衆は軽く数十はいるようだ。ざっと見でも相当数の人影が確認でき、物量の差は圧倒的と言ってよいだろう。

 そして周りには中心地には遠く及ばないものの、それなりに人がチラホラといる。全員が全員、俺達を追いかけまわすような人ばかりではない。こちらの心情を察してなのか、それとも面倒事は勘弁だと思って近づいて来ないだけなのかは不明だが、俺達がこの場所にいるという情報が漏洩してしまっている可能性を考えると、早々に動いた方が良さげである。

 幸い子供がいないから纏わりつかれて目立ちこそしないが、さっきから視線は感じていたりする。それはヒナギさんが来たことで更に顕著にである。


 一旦、ここから離れた方が良さそうだ。




 俺は背中の気持ちの良い感触は噛みしめつつも、それはさておき。

 一先ず、走って逃げる方が良さげである。ここは古典的逃走常套手段を用いるしかあるまい。

 鬼気迫る表情にすら見えるヒナギさん愛に囚われている群衆が恐怖にしか映らない。反射的に逃げるのが得策だと悟り、自然と身体は足を急かし、身体を翻させた。


 さっきセシルさんと別れたばっかりだし、あっちにでも逃げてみましょうかね。




「ヒナギさん、逃げますよ!」

「っ!」


 隠れてしまったところ申し訳ないが、俺はすぐにヒナギさんを引き離すようにして手を取ると、その手を引いて道なき道へと身を投じた。住宅の木々の隙間を縫うようにし、俺とヒナギさんはビル街の裏路地を逃げる要領で逃走を開始する。

 咄嗟に手を取ってしまった訳だが、すぐにヒナギさんも力強く握り返してくれるあたり、頼られているなぁと実感ができて嬉しい気持ちになれていたりする。隣にいるヒナギさんを見やると、慌てた表情の中にあった安堵がこちらにも伝わってくるようで、更に握った手を離すまいと俺は力を強くした。


 大群が大群の利を生かして物量で攻めてくるというなら、俺達は少数の利を生かして高機動力で細かく動けばいい。

 あの数では狭い道などは到底素早く動けまい。今回は撃破したりしないが、戦いであれば各個撃破を狙う形に近い。


 でも当時、何故魔法を使わなかったのかと疑問に思うばかりだ。魔法使ったら一瞬でどうとでもなるはずなのに……なんでこの時の俺はそんなことも考えつかなかったんだろうね?

 群衆の気迫に当てられて思考が鈍っていたのかもしれないけど、なんだかんだでこの状況を楽しんでいる自分がいたのではと個人的見解としてそう思う。


「あの、一体何があってこんなことになってんですか?」

「それが……」


 俺は逃げながら、何故ヒナギさんが逃げる羽目になったかの原因を尋ねることにした。

 ヒナギさんは言いづらそうな顔をしながら一瞬だけ遠くを見つめると、ポツポツと事が大きくなってしまった前後の会話を話してくれたのだった。

次回更新は金曜です。

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