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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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193話 イーリス大陸

「イーリス大陸とうちゃ~く! あ~地面があるぅ~」

「いや、お前普段からあんまし地面に足つけてないだろ」

「それでもだよ~。なんか久々な気分になっちゃったんだもん」

「そうかい……」


 船を降りての第一声をナナが元気よく言うと、そのまま地面に降り立ち感慨深く何度も踏みしめている。


 まぁ3日も陸から離れていればそう感じても無理はない。正直なところ俺も少しは陸が恋しくなっていたのは事実だし。

 例え地に足をつけていなくても、陸の風景を見てるからな……。錯覚があっても変じゃない……か? そこは分からんけど。




 ちょっと長い船旅を終え、無事に……とは言えないがようやくイーリス大陸に辿り着くことができた俺達一行。




 ちなみに、無事ではない理由とはある化物が船旅の最中に現れたからであり、その対処と弊害に少々巻き込まれたことがあったからである。

 その化物というのが実はフマナイカだったりするのだが……俺が釣ったものと規格が違うというか、まるで物語で見るクラーケンのサイズで現れたのには驚愕した。そしてキモかった。


 突如として船の進行方向の海が盛り上がったかと思うと、大きな津波を引き起こしながら奴はその姿を現したのだ。姿は小さいサイズのと変わりないが、大きいだけで印象というのは段違いに変化する。この世の終わりを連想させる姿に、船にいる乗客達は戦慄が走ったことだろう。

 超巨大サイズのフマナイカ……キングフマナイカと呼称しよう。奴はこちらの船を凝視し、餌と認識しているかのようにジッと動かずにいたのだった。

 これには他に乗っていた乗客やら船員がパニックを起こし、一時騒然となったものだ。まぁ無理もない。




 しかし、俺達は驚きこそあったものの落ち着きがあった。パニックになんてことにはならず、冷静にそいつを見つめていたのだが……俺達の中に1人、こういうハプニングを楽しみにしてる奴がいるじゃないですか。

 そう、ジークさんです。超問題児のジークさんには心底困っちゃいましたよ。マジファック。


 キングフマナイカの姿を見て、面白そうと言って飛び出してしまったジークが、興味本位でそのキングフマナイカの脳天を足で思い切り踏んづけてしまったのだ。

 どうやら俺が小さい奴の対処法を実践したのを見ていたらしく、それゆえにそんな行動にでたらしい。空を飛ぶ手段も持たないというのに大海原へ思い切り飛び出していくジークの姿を見て、呆気に取られてただ見送ることしか出来なかった。

 キングフマナイカは大きくなっても性質は変わらないのか、ジークの踏んづけに小さい奴同様に号泣して新たな涙の津波を生み、船を更なる恐怖に陥れやがったのである。

 これには俺達もビックリ、そして他の乗客達は更にビックリだっただろう。死を覚悟したと言っても過言ではないくらいの悲鳴をあげて、逃げ場のない船内をあたふたと忙しなく動いていたのをよく覚えている。

 一応ナナと俺で(津波)の被害は抑え込むことができたが、出来なかったら間違いなく船は転覆……いやバラバラにされるほどの津波だったので…ゾッとする。



 そして体の水分を出し尽くし、スルメとなったキングフマナイカは、死してその姿を海の底へと沈めていったのだった。




 ……ハイおしまい。




 これが船で起こったハプニングである。

 一応船事体に被害がなかったこと、全員死ぬかもしれなかった状況で誰も死者がいなかったことで、ジークのその行動に対してはお咎めはなかったのが幸いか……。

 あ、当然一発殴りましたがね。やるならせめて事前に言えと。


 目立ってはしまったものの、パフォーマンス的な意味合いと捉えたのか比較的頼もしいような視線を向けられてしまった。

 何かあってもコイツらがいるから安心だな的な……。


 ……なんにせよ、確かにこの世界の海は怖いわ。

 シュトルム……お前の言ったことは本当だったよ。人食い鮫? アハハ…超可愛いんですけど。喜んで一緒に遊泳してあげますとも。

 …と、それくらい感性がおかしくなるくらいの恐怖体験でしたわ。





 さてさて、そろっと回想は終わりにしましょうか。


 イーリス大陸が見え始めた頃から分かってはいたけど、なんて綺麗な景色なんだろう……。


 俺の目の前には鮮やかな光を放つ花々が生い茂っており、それが遠く見えなくなるところまで咲いているのが分かる。大小様々な大きさがあるが、その特徴はどの花も光を放っているということだろう。

 光を放っているため、見えなくともどこに生えているのが分かるくらいだった。

 加えて空には大陸を横断するように巨大すぎる虹が掛かっており、大陸が極彩色のベールで覆われている。

 物語や空想の世界に入ったような気分しか湧き上がってこない。幻想的とは聞いていたがここまで大規模なものとは予想していなかったため、見え始めてからは俺は興奮が冷めやまなかった。


 他の大陸もこんな具合にはちゃめちゃな光景が繰り広げられているんだろうか? だとしたら……ヒュマス大陸が何もなさすぎて不憫に思えてしまう。しょぼい……。

 住みやすいとは聞いているけど……それと引き換えにこのような自然が生み出した奇跡の光景を生活から切り離すのはやや気が引ける。少なくとも、俺にとってはヒュマス大陸は安全だなんて認識がこれっぽっちもないため、現状の経験で住むなら間違いなくイーリスだなと思ってしまったりする。でも海の傍以外に限る。


 ……つーか、この世界に安全な場所なんてねーだろ。モンスターがそこらに生息してるとか、地球で考えたら動物園の動物を全て解放してる状態みたいなもんだし。

 リアル動物の国此処に在り。




 とまぁ、この世界の厳しさが改めて分かるというものだ。


 ただこの風景……シュトルムの言っていたことと違うような……。



 というのも…




 ◇◇◇




 時は少し遡り、出発前日のこと。


 どうやらシュトルムは精霊の助けを借りることで、同じスキルを持つ相手と交信ができるらしい。ただその伝達速度は通信石よりも少し劣るくらいとのことだが、それでも情報伝達に乏しいこの世界であれば十分な効力を持っていると言える。

 俺も1度だけ、シュトルムが誰かとやり取りをしているのを見たことがある。


「それで……イーリスでどんな問題が起こってんだ?」


 まずは何が問題としてあるのかを聞いてみる。


「それなんだが……イーリスにユニコーンがいるのはさっき言ってたが知ってるだろ? 数はそれほど多くはねぇんだけど…」

「確か……1000頭くらいしかいない、国際保護対象生物ですよね?」


 シュトルムを補足するように、アンリさんが追加説明をしてくれる。

 正直俺はそういう知識が全くないので細かく言ってくれると助かる。




 国際保護対象生物とは呼んで字の如く、世界全体で保護すべき生物のことを指している。……要は天然記念物とか絶滅危惧種みたいに思えばいい。

 ユニコーンは数が少なすぎることも勿論あるが、イーリスでしか生息できない特殊な生態をしていることと、イーリス大陸そのものの生態系バランスが保たれてようやく生きることのできる、特殊すぎる生物なのが特徴である。

 そのため、ユニコーンは奇跡が積み重なって生まれた生物として認知されており、一部では神が遣わした幻獣とさえ言われる。そんな神秘的な生物を根絶させるわけにはいかないため保護対象として指定されているらしい。




「よく知ってるなアンリ嬢ちゃん。……で、そのユニコーンがな、次々と死に絶えてるらしいんだ…」

「え!?」


 シュトルムが難しい顔で重々しく口を開く。その口から出た言葉には確かに重みがあった。

 内容が内容なだけに、皆も軽い気持ちで話を聞くことはできなくなった。


「…原因は?」

「外傷は特になし。ただどの個体も衰弱死していることから…空気が悪くなったんじゃねぇかと思う」


 驚き交じりにセシルさんが原因を尋ねると、少々インパクトの薄い事実が原因だということが判明して面食らう。

 密猟とか生態系が狂った、もしくは突然変異体の凶暴なモンスターの出現とかを想像していただけに、イマイチな事実にはある意味驚きだったのだ。


「空気? どういうことだそれ?」


 俺は空気がユニコーンとどう関係しているのか知らなかったので、詳細をシュトルムへと尋ねる。

 すると…


「ユニコーンは空気が清浄でないと生きられないんだよ。イーリスのみに生息する理由はそれだ。イーリスに生い茂っている草花には空気を浄化する特別な性質があるからな。だからその機能が低下……もしくは消失したっていう線が濃厚じゃねぇかとは思ってる。まぁ聞いただけだから実際に行ってみないことには分からねーけど…」


 話を聞いただけだと、シュトルムなりの見解はそれが限界のようだった。腕組みをして唸っている。

 裏付けはないため、実際にイーリスに行かないことには分からなそうだ。


 しかし…


「そうか…。でもさ、それでお前が戻ることと何か関係あるのか?」


 知識の豊富なシュトルムなら……解決策を見いだせると思ってのことなんだろうか? 

 だがそんなイーリス大陸全体の問題に対してシュトルム個人の力は必要とされるものとは思えないが……。


 いや、シュトルムを馬鹿にしてるとかじゃないよ? 規模が違いすぎるから純粋にそう思っただけで、大陸の問題を個人でどうにかできるという考えがどこか不自然に感じるんだよな……。


「あー……それなんだがな。俺の家はちょっと……特別でな? 家族に……ユニコーンがいるんだよ」

「え、マジで?」

「なんと…」


 うそん。ユニコーンに会えるんじゃないの俺? 


「まぁペットみたいな感じなんだが…。そいつも今容体があまり良くないらしくてな…。それに……」

「……それに?」

「いや……なんでもねぇさ」

「……」


『それに』の続きを聞きたかったところだが、どうやら口にしてはくれなさそうだ。

 言いたくないことが含まれているのかもしれない。少々胸にモヤモヤは残るが仕方ない。


 ま、いいや。



 ◇◇◇




「……って言ってなかったっけ?」


 ……と、まぁこんなやり取りがあったわけである。

 それなのに、先程思ったように草花は光を放ってとても効力? を失っているようには見られなかった。素人目から見てそうなので、別段異常があるようには見えないと思った俺はシュトルムに聞いてみると…


「問題が起こってんのは大陸の中心部ら辺だって話だ。ここは端だから被害はあまり出てないみたいだな…」

「ふむ……」


 どうやらそういうことらしい。

 問題は中心部が被害が酷いとのこと。


 ま、なんにせよ急ぐ必要がありそうだ。


「急がないとな」

「あぁ。まだ草花に影響は出てねーみたいだが……上はしっかり異常を示してる」


 シュトルムは空を見上げ、そんなことを呟く。


「上? ……虹のことか?」


 上を見上げても、虹以外に変わったところはない。他に該当するものがないので俺は虹と言ったが…


「そうだ。虹の色に違和感があると思ったら、一色欠けてやがる……。以前聞いた時はそこまで酷くなかったって聞いてたんだがな…」

「あ、言われてみれば一色足りないかも……」

「それはどういう意味なのでしょうか?」


 虹のことを言っているのは当たっていたようだった。

 虹が欠けたことが何を示すのかは知らないが、セシルさんは知っているような反応を見せている。

 しかし、俺と他の人はそれが分からなかったので尋ねようとしたところ、先にヒナギさんが質問をしてくれた。

 同じように疑問に思ったのだろう。


「あれは大陸の異常を知らせるための役割も担っていると言われるくらいに、この大陸の環境に左右されやすいんだよ。あの虹……七重奏の虹(セプト=レイン)は、俺達にとっては生まれた頃からある悪しき空気から守ってくれる……守り神みたいなものなんだ」


 誇らしげに、心底大切そうにシュトルムが説明してくれる。

 それだけこの虹がイーリスにとってかけがえのないものだということだろう。


「守り神ですか…」

「ふ~ん。そうなんだ~」

「まぁ……確かに守ってくれてるようには見えるな…」

「見えるじゃなくてその通りだぞジーク。だから一色欠けてるんだ」

「あ、そうだな確かに……」

「だから俺達は普段守られている以上、虹に何かあったときは助けてあげなきゃいけねーわけだ。一色欠けてるならそれを戻すためにな……。それが普段貰ってる恩恵に対する供物でもあり、恩返しになるってのがエルフの認識だな」


 ……なんかカッチョイイんだがそれ。良い風潮が根付いてるじゃないの。

 にしても、あの虹を思い切り走りたいと思うのは変だろうか? あそこから見る大陸は光り輝いてさぞかし綺麗なことだろうし、見てみたいや。


 もっと欲を言えばその幻想的な風景の中アンリさんとヒナギさんとイチャつきたいってのが実情ですな。手を取りスキップなんかしちゃったりして……。


 ……七重奏の虹(セプト=レイン)さんゴメンよ、変な事考えてて……。でも戻してあげられるよう頑張るんで見逃してくんさい。


 心の内で人知れず謝る俺だった。




「シュトルム……案内頼めるか? さっさと問題片付けて……それからゆっくりしようや」

「だな。……目的地は大陸の中心オルヴェイラスだ。またこっから結構移動するが……お前さん達頼むぞ?」

「はいは~い、乗って下さいまし~」

「了解です。今日中に着くようにしましょう」


 シュトルムの頼みに快く返事をするポポとナナ。

 最初は毛嫌いしていたというのに今じゃご覧の通りだ。良い子に育ってますな。


 中心部にシュトルムの目的地……家があるならば、その環境にいるユニコーンは大変危険極まりない状態であると言える。

 何故こんな事態になったかを早く解明し、解決するためにも……急がねば。


 巨大化したポポ達に乗って出発する俺達。

 当然俺とジークはランニングですけどね。定員オーバーだからしゃーない。




 シュトルムの生家……どんなんだろ?

次回更新は土曜です。

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