187話 司とヒナギ 前編
お待たせしました。
前編後編でお送りします。
「……っ!」
否定されるだろうか? ヒナギさんならこの状況でも言いかねない。
包んだ手からの反応はなく、ただ温もりを感じるだけだ。
しかし、俺のそんな考えは杞憂に終わることとなった。
なぜなら……ヒナギさんの瞳から涙が溢れ出したからである。
これだけで分かる。想いは……通じているのだと。
真剣な顔をしていた俺は、それを解いて楽になる。ヒナギさんがゆっくりと紡ぐ言葉に耳を傾けて。
「いいの……ですか…? 私は…カミシロ様の傍にいても…?」
「はい。いて欲しいんです」
「ぁ……わ、私……っ!」
ヒナギさんは遂に、返事を返すことすらままならなくなった。
それを見かねて動こうとする俺に、アンリさんが小さく……頷いたのを確認した。
「!(コクリ)」
考えていることは同じだったようだ。
アンリさんがヒナギさんの背中を軽く押して、俺の方へと近づけさせる。
アンリさんに後を押された俺は、こちらにもたれそうになるヒナギさんをそのまま抱きしめた。艶々した黒く美しい髪が痛まないように優しく右手を添え、そして左手は肩へと回し、身体を密着させる。
俺よりもほんの少し背の高いヒナギさんは、アンリさんを抱きしめる時とはまた違って、正直上手くできたのかは分からなかった。ただ、優しく抱きとめることはできたと思う。
「ぁ……」
「すみません。ヒナギさんより背が大きかったらもっと恰好ついたんですけど…」
「そんなこと……っ…!」
盛大に涙が溢れる。
その溢れる涙は喜びの証。それが分かっているから、涙がコートに染みついていくことになにも思うことはないし、むしろ受け止めてあげたいと更に思えた。
「ごめんな…っ…さい……。私……嬉しくて……涙が止まらないんです……」
「構いませんよ。それだけ俺なんかを想ってくれてありがとうございます。アンリさんと一緒に、ヒナギさんも大切にします」
嗚咽交じりに言うヒナギさんに、俺は芽生えていた決意を伝えた。
◆◆◆
それから暫くの間、ヒナギさんが落ち着くまで俺はそのままの状態でいた。
しかしそれももうすぐ終わりそうだ。ヒナギさんの涙はもう落ち着きを見せ、目元は赤いものの、いつもの落ち着きを取り戻しつつある。
「落ち着きましたか?」
「あ……ハイ。すみません……取り乱してしまって…」
「いや……別にそれは構わないんですが……」
俺がその……原因だしな。これは全部受け入れなければいけない。
まぁそれは置いておいて……多分聞く意味ないだろうけど、一応確認しとこうか?
「ヒナギさん……あの、本当に良いんですか? 俺なんかで……」
「カミシロ様しかいないんです、私には……。貴方がいなければ、私はまだ一人でした。皆様に会うこともできず、お父様と和解することすらもできなかった。カミシロ様は……私の全てです」
お、おう……そ、そうですか。
ヒナギさんの想いの重さに、俺は若干動揺させられた。
その真っすぐな瞳から、俺は目を離すことができなかった。
「そ、そうですか。アンリさんにも確認してからだったので、ヒナギさんにも一応言っておきます。俺は……いずれ元の世界に帰るつもりです。それでも……いいですか?」
「ハイッ…! 貴方の傍に少しでも長く置いてもらえるのであれば、勿論です…!」
とびっきりの笑顔で、俺の確認に即答してくれるヒナギさん。
ヒナギさんのここまでの笑顔は、なんだか久しぶりに見た気がする。ヒナギさんもアンリさん同様に、ずっとこんな笑顔でいてもらいたいな……。
「アンリ様……ありがとうございます…。私、先程は何も知らずに怒鳴ってしまって、すみませんでした」
「気にしてないですし、ヒナギさんの本音が聞けたから良いんです。アタシもヒナギさんのことは好きですから……。先生を好きになった気持ちも分かりますから……」
嬉しそうに、だがどこか寂しそうな顔で、アンリさんはそう答えた。
「にしても……ヒナギさんともこんな関係になるとは思いもしませんでしたよ」
「こんな関係……。あぅ……」
俺が今の状態を口にすると、ヒナギさんが照れているような反応を見せる。
その気持ちは……まぁ分かるっちゃ分かる。でも、そらそうでしょうよ……。
アンリさんもそうだが、ヒナギさんみたいな人とも付き合うとか考えらんないに決まってるし。
でも……現実なんだよな…。
「なんかヒナギさんに想われてるのは恐れ多いってゆーかなんというか…」
ヒナギさんから向けられている感情に対し、俺は素直にそう感じていた。だから、それを何気なく口にしたのだが…
「そうですよね、アタシには……そんなことないですもんね……」
どうやらアンリさんはそれをマイナスに、言うなれば卑屈に捉えてしまったようだ。
暗い溜息を吐きながら、目を沈んだものへと変えていく。
「いやいや!? そんなことないからね!? アンリさんは超魅力的だよ!?」
「わ、私は……魅力的じゃないということでしょうか……」
「え!? 違います違います!? ヒナギさんは世界に誇れるくらい魅力的ですからね!?」
「やっぱりアタシh「いや、違うから…もうやめて」
ぬあああああっ! これじゃエンドレスじゃねーかオイィイイイッ!?
俺の対応は空を切ってしまうばかりだ。収拾なんてつくはずもない。
どうしろってんだよ!? 女性って難しすぎ!
女性の扱い……それを今一度大変難しいと感じているそこに…
「うっ……なんだこの光は……っ!? お前……!」
突如、空から眩しい閃光が俺達の瞼を焼くようにして出現する。
元は『勇者』の宝剣であるエスペランサ―が、神々しい光と共に空から舞い降りてきたことが原因である。
それは俺達を祝福してくれているかのように、ゆっくりとだが確実に舞い降りてくる。
感動した。雰囲気にピッタリの演出だと思った。お前の判断は、最高だぜと……。
……ま、通常の人ならな。
「お前はお呼びじゃねぇんだよっ! 帰れっ!」
『(!? ぶーぶー!)』
邪魔だコラ!
宝剣が俺のすぐ近くまで来たところで、俺は宝剣を掴んで投げ飛ばそうとしたが上手くいかなかった。すぐに追撃を迫るも、空へと飛んで手の届かない位置へと離脱する宝剣。
俺のそんな行動に対して不満げな反応をする宝剣だったが、そんなのは気にしない。
「このっ……ちょこざいな! 留守番してろって言っただろうが!」
『(……来ちゃった)』
来ちゃったじゃねーよ!? 来るなって言ってんだよ!
実際には聞こえていないが、宝剣の仕草で勝手にそう思い込む俺。
実は、宝剣はなんでもかんでも俺についてこようとする意思があるようで、どこにいこうが俺の後ろにピッタリとついてきてしまうのだ。
恐らくこれは、俺が……つまり適合者が近くにいなければ宝剣達が分離してしまうからであると推測できるが、知ったことではない。
こんな目立つ宝剣を後ろに携えてしまっては目立って仕方がないし、何より邪魔でしかない。今回の作戦においてこんな常に光っているような奴を同行させるわけにもいかず、『安心の園』で留守番の役割を持たせていたのだが……それを破って今ここに現れたようだ。
留守番すらできない宝剣なんていらんわ。……宝剣を留守番させるって発想もおかしいが。
排除する方法の思いつかなかった俺は、仕方なく宝剣を相手にすることをやめる。
「え、えっと~……冗談ですよ? からかってみただけですから……。ね? ヒナギさん?」
「そ、そうですよ? フフッ…」
「あ、あぁ……それなら良かった……のか?」
先程の魅力云々の話だが、それは冗談だとのこと。ひとまずは疑問を持ちつつも胸を撫で下ろし、面倒なことにならなかったことを内心喜んだ。
「こんな俺でも受け入れてくれる世界、なんとも優しいことで……」
本当に……そう思わずにはいられない。こんな、日本ではあり得ないことをしてしまっているのだから。それが許されるこの世界には、感謝しかない。
俺の甘えを肯定してくれて、俺にとって都合の良いような……そんな世界。その甘えに頼り切らないようにしなければ……。じゃないと腐るよな……絶対に。もう腐ってるかもしれんけど。
でもこの世界に来て本当に良かった。ヒナギさんは一人ではなくなったと言っていたが、俺も地球にいたら寂しい人生を送ってただろうし一緒だ。俺だってこっちに来たから一人じゃなくなったようなものだ。
なんだかんだ……似た者同士だったんだろうな。
「やっぱり……慣れないですか? こっちは……」
「習慣付いてるものの違いには慣れないことはまだたくさんあるよ。でもこっちの世界にいるなら、なるべくこっちの世界に合わせないと上手くやってけないからね。それに、あり得ないことばっかりなのは今に始まったことじゃないからさ……。なんていうか……慣れてきた。だから今回は驚いたけど、受け入れられてるよ。比較的」
「そうですか。それなら……改めてよろしくお願いしますね? 先生。ヒナギさんも」
「うん」
「ハイ!」
……ま、俺が面倒な奴だって話だよな。
俺が面倒じゃなければこんなことにはならなかったんだろう。多分そうだきっと……。
とにかく、一件落着って思っていいんだよな?
俺はアンリさんとヒナギさんの2人と付き合うことになったと。
「はぁ~……! 一番良い結果になって良かったです。計画成功ですね」
ここからどうするかと思い始めた所で、アンリさんが胸を撫で下ろす仕草を見せた。俺はそれですぐに今回仕組まれたものとやらを思い出す。
「あ、それ聞きたかったんだよ! なに? いつからこんなことしようと思ってたの?」
「あ、えっと……それは~……」
「ん、終わったみたいだね」
「あ……」
アンリさんに根掘り葉掘り教えて貰おうと思ったところで、俺達以外の人物の声が聞こえる。
…セシルさんである。
いつもの眠たそうな目ぇしちゃってまぁ……このお嬢さんは。
一番知ってそうな……というか原因そのものみたいな人がいるじゃないですか。なら話は早い。
「セシルさん……っ!」
「え……な、なに? あぅっ!?」
「先生!?」
俺はすぐにセシルさんの真後ろに『転移』で移動する。そして両手をグーにしてこめかみにあて、尋問を始める。
セシルさんの顔は見えないが、恐らく人質が銃を突きつけられてるような感じの顔だと思う。
「なんでここまでやったの?」
「い、いや……見てられなかったからさ…ヒナギのこと…」
両手を上げて降伏の意思を示すセシルさん。
だが……ソンナノニイミハナイヨ? セシルサン。
「ほぅ……それで今回こんなことしたと?」
「う、うん……そうだけど…!? いたいいたい!?」
グリグリした。セシルさんのこめかみに若干強めに、俗に言う梅干をする。
これは想像以上に痛いし、俺が今どんな思いなのかを伝わらせるには分かりやすいと判断し採用した。
ジークとシュトルムだったらもっと手荒でもいいんだが、セシルさんは女の子だから手荒なのは無し。だが何もしないのは納得いかなかったので、これが妥当な所だろう。
セシルさんの苦悶を確認しながら、俺はセシルさんに後ろから話しかける。
一応、もういいだろうと思ったところで、梅干からは解放させてあげることにしたが。
「ったく、なぁにしてくれちゃってんのかなぁ? セシルさん。こんな回りくどいことする必要ある?」
「むぅ、だってヒナギの方は分かり切ってたんだけど、ツカサの本音も聞きたかったんだもん。ツカサはよく分かんないからさ……」
「俺?」
「うん。ツカサがヒナギの事どう思ってるのかなって……。だから実際に目の当たりにさせて確認しようと思ったの。カイルとヒナギがデートしてどう思うのかな? って。ま、あんまし目論見通りとはいかなかったけど……」
「……けど?」
「結果オーライってやつ?」
「……うん、もういっちょ」
「いたいいたいっ!」
それはつまり、可能性として俺達の仲が険悪になる可能性もあったということだ。それにも関わらず当事者が何も伝えられていなかったというのが不満だ、超不満だ。
よって刑を再度執行します。
「カミシロ様…あの、もう許してあげては…」
しばらくグリグリしたところで、ヒナギさんからお声が掛かったので手の動きを止める。
ヒナギさんに感謝しなさいな。
「ったく、ホント抜け目ないねセシルさん」
「…むぅ、でもよく考えてみてよ。本物の愛が金でなんとかなるんだよ? ならいいことでしょ。偽りならやんないよこんなこと」
こめかみを押さえながら、セシルさんが頬を膨らませながら言う。その表情は痛みに耐えているのも勿論あるが、別の意図もあるように思える。
あとは……可愛らしいですね。
でも許さないもんね! そんな手は通じないんだからね!
ゴホンッ!
ただ……金ってなんだ?
「金…? なんでお金がでてくんの?」
「ん、実は……本音を聞き出すためにちょっとね……薬盛ったの。……2人に」
「「……え?」」
なん…だと?
薬を盛られたと言う事実に、ただ驚きの声しか上げることの出来なかった俺とヒナギさん。次の反応をするのを待たず、セシルさんは続きを話していく。
「これを使ったの。ペラペラ草とナルシス豆」
「なにそれ!?」
「なんでそんなものを!?」
セシルさんが懐から小瓶を2つ取り出し、俺達に見せるように摘まむ。
小瓶の中には、乾燥した草……漢方でよく見そうなものが少々、もう一方の小瓶には、大豆のような小さな豆が入っているのが確認できた。
ペラペラ草にナルシス豆って……聞かなくても大体どんな効能なのか丸わかりなんだが…。
というか……そのローブの内側どうなってんねん。弓を取り出すときもそうだけど、さっきもフラスコ取り出してたし、四次元ポケットか何かなんでしょーか?
セシルさんは不思議がいっぱいですね。
「ヒナギには粉末にしたものをさっきの飲み物に混ぜといた。それでツカサには昼前から仕込んでおいたんだけど……どうなってるの一体?」
「へ?」
「ヒナギにはペラペラ草を適正量だけだけど、ツカサには両方を…しかも適正量の倍以上使ってるんだよね。でもまさかこれ使ってそれだけの効果しか得られないとは思わなかった。……頭おかしいんじゃないの?」
その言葉そっくりそのまま貴女にお返しします。
毒物だったら致死量遥かに超えてるってことだよね? どっちが頭おかしいねん。
なんで俺だけ倍以上使ってんのさ! ていうかいつ飲ませたんだよ!?
……あ、さっき普通に俺飲んでたじゃん。気持ちを落ち着かせるとかって謳い文句に負けて。
それにあの味……喫茶店で飲んだのに混ぜられてたのかよ!? 一緒の味ってそういう……。
俺のアホ。
「ヒナギは常人より遥かに我慢強いみたいだね。……ってことで、それをちゃんと理解して今後付き合っていきなよ?」
なんだろう……副産で得た情報をさぞ狙い通りに得ましたみたいな言い方してるけど、違うよねこれ? 話をすり替えてね?
「なんかまた結果オーライ的な感じになってるけど違うよね? 誤魔化されないよ俺?」
「……ちっ、駄目か」
「こらこら」
薬盛ったことに対するお咎めがないなんてことにはならないのよ? お分かりセシルさんや?
でも役立ち情報を提供してくれたことには感謝させてもらおう。
ふむふむ……ヒナギさんはやっぱり我慢強い……とな。メモメモ。
俺の心にあるヒナギさん専用ノートの1ページ目に、新たな項目を追加する。ある意味記念すべき第一項目目でもある。
「一番の不確定要素はツカサの気持ちだったんだよね…実は。ヒナギがツカサのこと好きなのは誰から見ても明白だったからいいけど、ツカサはなんか分かりにくかったからさ……。結局最後の最後で確認してみたら、それが姉としてとかまだ言うから内心困ったよ。本気でそう思ってたんだ…って。しかも最後の大役は薄々分かってると思ったら勘違いしてるし……本気で殴ろうかと思った」
「いや、だってさ……ヒナギさん本当に姉ちゃんみたいな気が「ま、それは結果から言えばいいや。ツカサがヒナギに好意的であれば良かったしね。最悪……私が無理矢理言質取らせる方法も考えてたし」
「それは……例の力ってやつ?」
「うん。まぁ……そんな必要もないくらい熱々だったみたいだけどね。いや~暑い暑い。私は一足早く退散しようかな?」
「逃がすと思う?」
「……だよね」
肩を掴んで、逃がさないように押さえつける。相変わらず抜け目ない。
いつ逃げ出されるかたまったものではない。
お嬢ちゃん……まだちょっくらお仕置きが足りんようやな?
「…で? ヒナギさんがカイルさんの告白にもし頷いてたらどうなってたの?」
「……さぁ?」
「オイ」
首をコテンと傾けて適当に言うセシルさんに、呆れのため息が漏れた。
深く考えてるのか考えてないのか…イマイチ掴めない。
「ま、そうはならないに決まってるって思ってたけどね。あれだけツカサのことで落ち込んだ様子を見せてるんだよ? 簡単に割り切れるなんて思わなかったし、ヒナギの気持ちに間違いはないって思ってたから特に心配はしてなかった。しかも自分を孤独から救ってくれた人だったら尚更だよね」
「ぁ…セシル様、恥ずかしいので…」
「あれだけって……そんなに……ですか?」
「い、いえ! お気になさらずに……」
俺まで恥ずかしくなってきたが、それでも気にはなる。そしてそれに気づかない俺の感性……俺の人生並みに終わっとる。見かたが違ったという弁明は通じんだろうし。
俺が追及しようとするとヒナギさんが制止してくるが……セシルさんの口を動かすのは止まることはない。
自分のことではないからだろうが、実に楽しそうに、生き生きと話している。
「そりゃもう……ツカサがいるときは抑えてたけど、自室に戻ってる時なんか凄かったよね。ドアから負のオーラが漂ってたよ」
「オーラ……ヒナギさんが……」
「あの、もうやめt「まぁ簡単に言うとね、ヒナギは超がつくくらいツカサが好きだってことなんだよ」
「やめてくださいぃぃいいい!!!」
ここで、ヒナギさんが堪えきれずに大声を上げた。
あ、あのヒナギさんが……さっきと違った意味で涙を流してるだと……!? 超きゃわわ~。
なんてレアなお姿なんだ……目に焼き付けておかねば。……パシャリ。
「……で? どうなの? ヒナギはツカサのことどう思ってるんだっけ?」
「あ、愛して…ます……」
「………」
好きを通り越してそう気ましたか……。アンリさん同様遠慮ないんでね?
……あ、薬盛られたんだっけか俺達。いや、でも本音を漏れやすくだから言っていることは間違ってない訳で……マジか。
むず痒さを覚えそうな状況。しかし、何やら隣から不穏な気配が漂ってくるのを感じる。
……アンリさんである。
顔は苦笑い、だが額に怒りマークを覗かせながら、セシルさんに突っ掛かっていく。
「セシルさん……薬の効果あるからって遊んでません?(イラッ)」
「……バレた? ゴメンゴメン、だって今しか本音聞けないんだもん。ツカサにもやりたいけど……ステータスのせいなのかまだあんまし効いてないみたいだし、ヒナギにしか出来ないし……」
とのことらしい。
そこに…
「ハハッ、アンリ嬢ちゃん妬いてるのか?」
我がパーティメンバーの1人である、シュトルムの兄貴のお出ましである。何故このタイミングで出てきたのかは不明だが、シュトルムがスタスタと俺達の方に歩み寄ってくる。
「シュトルムさん!? ……それは……ハイ」
「お、おう……こっちはこっちですげぇな。薬もないのに」
「遠慮しないって決めましたから」
「アンリさん……」
シュトルムの茶化しに、本気の気持ちを露わにしてくれるアンリさん。
拗ねているように見えるアンリさんが……なんとも愛しかった。
こうも隠すことも無く不満そうな顔を向けられたら、普通は慌てるところなのかもしれない。だが、いつもよりも自己主張の激しいアンリさんを知れて、俺はどちらかと言われれば嬉しかった。
アンリさんの傍に駆け寄ってあげたい衝動に駆られるが…それはセシルさんによって叶わなかった。
「ハイハイ。イチャイチャが始まりそうなところ悪いけど、それは後で思う存分してくれていいから。シュトルム……もうオッケー?」
「あぁ、ジークが早くしてくれって待ちわびてたぜ。アイツはアイツなりに今の展開を信じてたんだろうよ。カイルさんとヴァルダも一緒に待ってる」
「そっか。ってことでツカサ、2人を大事にしてあげてね。それじゃ、行くよー」
「え? どこに?」
俺達を先導して歩き出したセシルさんだったが、何処に行くのかを知らない俺達は躊躇した。
せめて何をしに何処へ行くのかくらいは教えてほしいが……
「……お祝い。『安心の園』でもう準備してある。勿論3人のね」
後編へ続く。




