153話 ロリっ子ボクっ子マジ天子
◆◆◆
「そういえば…あのジャンパーはどうしたんだい?」
「それなんですけどね…壊れちゃったんですよ」
「何!? あれが壊されただって!?」
「そりゃもうボロッボロにされまして…その原因が……ん?」
学院長に今更なことを聞かれ返答しようとすると、なにやら騒がしい光景が広がっているのを確認し、続きを話すのを中断した。
「ハッハァッ! もっと全力で掛かってこいやヒヨッコ共! 遠慮なんてすんな!」
「むちゃくちゃ強ぇーこの人…! 何者なんだ!?」
「もしかしてカミシロ先生並…?」
「甘ぇ…まだまだ全然足らねーぞ! せめてかすり傷の一つでも作って見せろや! アッハッハッハ!」
「あの…お姉さん! 今度どこか食事でもどうですか?」
「あ…その…ごめんなさい」
「そこをなんとかっ!」
「こ、困ります…っ!」
「アンリ先パ~イ、寂しかったです~」
「皆久しぶり! 元気だった?」
「それはもちろん! まさかここで会えるなんて~」
「わ~っ! お兄さんイーリス大陸から来たんですか? 私エルフの人見るの初めてなんです!」
「おうそうだぞ。だが、もうお兄さんって歳じゃないけどな…」
「あ、やっぱり長寿な種族ってことですね?」
「まぁそうだな。嬢ちゃんの何倍も生きてるぞ?」
「ん、騒がしいね…」
「ふぅ、そうですねぇ…」
「こういうのってよくあるの?」
「まぁ…それなりにですかねぇ」
「ふ~ん…そっか」
「…何やってんだ一体? 目ぇ離したと思ったらこれか…」
学院長部屋を出た俺達は、現在演習場へとやってきた。
なぜここに直行できたかというと、それは大きな物音がしてきたためである。通常であれば聞こえてくるはずがないと思われる音は…俺達をまるで呼んでいるかのようだったので、行く当てもなかった俺達は導かれるようにここへと流れついたのだが…。
その結果…カオスな光景が広がっていた。
「…なぁツカサ君。君が言っていた連中の1人と言うのは…アレでいいのかな?」
「ハイ。一目瞭然かと…」
アレ呼ばわりされていることに対しては特に何も思わない。ジークに対してならアレで十分だからだ。
あんな魔法の嵐の中で笑いながらはしゃいでいるアイツは最早人じゃない。アレと形容するのが正しい。
「本当にすぐに分かるね…。他の人たちも結構個性的な面々が多いけど…あれは別格だね。あのジャンパーが壊されたことにも納得がいく…」
「ご主人が死にかけるほどですからねぇ…」
「全然懲りてないのが腹立つなー」
「まぁまぁ…」
「エルフの男性にローブの女の子、ハーベンス、そして…彼女が『鉄壁』か。実際に見るのは初めてだ」
「あ、そうなんですか?」
「うん。私が冒険者を辞めた後に有名になったからね。入れ違いになってしまったんだよ」
へー。まぁギルドとしては良かったんじゃないですか? 抜けた穴が埋まった訳だし…。
「取りあえz「あっ! カミシロ先生だ!」
「え? どこどこ!?」
「ホントだ! 学院長もいる!」
その光景を少し離れた位置から眺めていると、他のメンバーに集っていた以外の生徒が俺達に気づき、生徒達が興味の対象を変え、こちらに目を向け始める。
そして1人…2人とこちらに歩を進め始め、次第にその数を増やして、大きな人の波を形成して襲い掛かってくる。
「うわー…凄いね。もみくちゃ~」
「人気が高いようで…」
「オイオイッ!? そんな他人事みたいに言うなって! ですよね…学院長?」
同じ境遇に立たされている学院長にも同意を求めようとするが、そこには学院長の姿はない。
…いつの間にか逃げやがったらしい。危機管理能力が大変よろしいようで。
…ちくしょうめ。俺も連れてってくんさいよ!
「ど、どうするお前ら!?」
ポポとナナに相談するも、肩に今まであった感触が無くなっている。
俺を置いて2匹も逃げたらしい。
「あ、アイツら~! 逃げやがったな!?」
学院長と2匹が何処に行ったのかは分からないが、俺は生徒達に囲まれてしまった。
「Sランクおめでとうございます! 凄いですね!」
「あ…うん。それより…「今は何してるんですか?」
「え? ちょっと用z「また講師やってくれるんですか?」
一応は質問に答えようとするも、返答する間に次の質問が投げかけられ…上手く返すことができない。
そういえば学院に初めて来た当初もこんな感じだった。朝の散歩行った後寮に戻ったら…ハンス君にこうして掴まって、話も聞かれなかったけなぁ。
今じゃいい思い出なんだけど、また経験するとなると過去の記憶と相まってさらにゲンナリ感が凄い気がする…。
まぁいい。今はこの状態をなんとかしないとっ!
「み、皆っ! 言いたいことあると思うけど! 今何やってんの? 状況がよく分かんないんだけど!?」
取りあえず、大声で皆を制止させつつ…この場にいた説明を俺は求めた。
すると…
「あ? おーいツカサァ! コイツら中々将来歯ごたえのありそうな奴多いな!」
「せ、先生!?」
「あ、カミシロ様…ちょっと力添えを!」
「お? 終わったみたいだな。ツカサー、おーい!」
「ん、意外と早かったみたい…」
俺達に生徒が集まったことで目立ったのか…他のメンバーもこちらに気づき始めた。
でも、一斉に喋りかけてこないでくれ。俺は聖徳太子じゃないんだから…。
ただジーク、お前のは聞こえたぞ。手ごたえって言え手ごたえって…。取って食うつもりかよ。
「ったくおせーんだよ。テメーら、俺以上の化物が来やがったぞ?」
「お前が言うな!」
「うっせ!」
ジークが相対している生徒に何か不穏なことを伝えているが…
お前にだけは言われたくねぇんだよ! 『スターダスト』食らって死ななかった奴が何を抜かしてやがる!
ジークに悪態をついていると、聞きたくなかった声が聞こえてきた。
「むっ!? そ、総員厳戒態勢っ! 我らの宿敵が出現した!!!」
げっ!? ホモ集団がいやがる…。俺にとってもお前らは宿敵だわっ!
目に映るはまたもパンツ一枚の奴…と、その取り巻き数人。いつもはもっといるんだが、どうやら今日は小規模な構成になっているらしい。
なにやら大声で警報を鳴らしている。
「相変わらずヒデェ態度だな…」
「ホントだねまったく…。これで成績が良いからタチが悪い」
…いつの間にか俺の隣にいる学院長。
いつ戻って来た…。リースさん同様に忍者か何かか?
「さらに宿敵の従魔を2匹確認! 刺激しないように細心の注意を張られたし!」
学院長が戻ってきたように、奴らの言葉通り、ポポとナナが空から飛来して俺の肩へと再びとまる。
どうやら飛んで逃げていたらしい。まぁそれ以外思いつかなかったけど…。
安全が確認されて戻ってきたようだ。
にしてもホモ集団よ…俺達は爆発物か何かか? そんな腫物みたいに言うなっての…。つーかお前らが現れた時点で既に刺激されてるんだが?
極力関わりたくないが…こっちから出向いてやろうか? 自爆特攻してもいいんだぞ?
…ま、自爆した本人が無傷という理不尽な結果になるでしょうけども。
「なんで私たちが矛先向けられなきゃいけないのー! ご主人に言って!」
「私達は関係ないじゃないですか!」
「…お前らも存外ヒデェな…。主人の俺を見捨てるなって」
2匹の言い分はそうらしい。
てか、既にこの2匹は先ほど俺を見捨てているわけだが。
「これより迎撃態勢に入る! 二度とこの聖域を汚されぬためにも…我らの愛で死守せよ!」
「「「イエッサーーー!!!」」」
大きく咆哮し、俺達に戦意をむき出しにする奴ら。
お前らの愛で既に汚れきっているんじゃないのか? この学院(聖域)は。
ちっ…面倒な!
「鉄の結束で結ばれた我らを止められるものなら止めてみろ!!」
「うるせー! ケツの結束で結ばれたお前らの気持ちなんぞわかりたくもないわっ! 俺はノンケなんじゃいボケっ!」
そちらがその気ならこちらも対応してやろう。
「ポポ! ナナ! ……やれ」
「「…イエッサー」」
ちょっと間があったのは嫌だったからに違いない。
でもやれ。それで俺を見捨てたことはチャラにしてやろう。
さて、こちらは一先ず大丈夫そうだ…。
◆◆◆
「あらら? 何か騒いでいると思ったら…キミじゃないか!」
それから皆を回収? し、メンバーが全員揃ったところで…ある人物が現れた。
「あ! ウルルさん! 久しぶりですね!」
そこには…俺が可愛い生き物と称した存在が、何やら大きめの魔道具を抱えて立っていた。
見た目に反して腕力が強いのは…種族の特徴だろう。鍛冶等を生業とする人が多いのはこのためだ。
優れた武器を製錬するには技術は勿論、その技術を際限なく活用するための肉体が必要だからだ。
…それはともかく。
やぁ久しぶりじゃないですか。…いや、出やがったな? このロリっ子ボクっ子マジ天子め…。
相変わらず愛くるしいお姿で…。シュールな光景もチャーミングな光景に早変わりですね。
「学院長までいるし、一体どーしたの?」
「ちょっとした用事で来たんですよ」
「ふ~ん? まぁちょーどいいや! ちょっと性能テストに付き合ってくれない? あの人達が騒ぎになってくれたおかげで今いっぱい人がいるし、見てもらいたいんだよね」
ウルルさんの質問に簡単に答えたが、どうやらそれで満足したのか深く追及はしてこなかった。
そして何やら頼みごとをされたが…
「性能テスト?」
「うん。攻撃力の度合いを測る目的である魔道具を作ったんだけど…どれくらいの上限まで耐えられるかのテストがしたいんだよね…。ここの子達って魔法は皆すごくできるんだけど…物理はあんまり得意じゃない人多くって…。将来的に冒険者になる子が多いから…成績項目に物理面での評価も入れようって話になったからさぁ」
ウルルさんがそう言うと、周りにいる生徒達はどことなく目を逸らすようなしぐさを見せる。
…図星ということだろうか。
生徒達の反応は置いておいて…。
なるほど…合理的な考えですな。魔法は確かに脅威だけど、冒険者は不測の事態になることは結構ある。事前に防げよとは思うことではあるが、万が一の時に頼れるのはやはり自分の身体能力だろう。それは地球であっても変わらない。
ということは…その持っているでっかい魔道具はその装置ってことですかい。
装置を見てみると、ぶっちゃけ冷蔵庫みたいな形をしている。ただその真ん中には色の違う面があり、そこに攻撃を加えるんだろうと推測できた。
「へー、面白そうじゃねぇか」
そこに、ジークが興味津々でウルルさんの持つ魔道具を見つめ始める。
それを見かねて俺は制止を掛けた。
「お前は駄目だ」
「なんでだよ!?」
すかさずジークが反応してくるが…駄目なものは駄目だ。
「ジークは…駄目でしょ」
「お前さんはツカサ以外駄目だ」
「あの…できれば何もしないでいただければ…」
俺と同じ気持ちであろう3人の仲間の支持も得れたようである。
あと…俺以外は駄目だって何だ。俺はジーク専用のサンドバックなんかじゃねーぞ。
「何だぁ? お前ら…。俺を獣か破壊神とでも思ってんのか?」
「「「「………(コクリ)」」」」
「ちょっと待てやぁっ!?」
ジークが心外だろと言わんばかりに吠える。本人からしたらそんな認識なのかもしれないが…
え…何言ってんのコイツ。冗談はアホみたいなステータスだけにしてくださいよ…。
あの時のお前はまさに戦いを求める獣のそれだったじゃねーか。
「待たねーよ。つーか当然だろ、お前がやったら間違いなくここ終わるぞ?」
演習場が壊れるだけならまだいい。コイツが調子こいて本気で力を振るおうもんなら、近くに立つ学生寮を始めウルルさんのいる魔道具製錬施設、それらは崩壊するに決まっている。
特にあの『ゼロ・インパクト』なんか放とうもんなら、世紀末まっしぐらである。
あれを食らって俺が生きてられたのは正直奇跡に近いと思う。
「それはお前も同じだろーが」
「俺はお前と違って加減が出来てるつもりだ。この前のお前の仕出かしたこと考えてみ? 加減も出来ずに草原ボッコボコにしたのを忘れたとは言わせねーぞ?」
「…忘れた」
「オイ! ジーク…俺が皆の気持ちを代弁してやる。お前は『闘神』なんかじゃない…お前自身が言ったように…『破壊神』だよ」
俺は『隠密』があるから心配いらない。でもテメーは駄目だ! お前は歩く災厄みたいなもんだから。
「ちっ…わぁったよ…我慢すりゃいいんだろ我慢すりゃ! ったく…」
ジークの機嫌を少し損ねた様だが、なんとかこの学院の平和は守られたようである。
でもジークは聞き訳はなぜかいいみたいだから、その点に関しては助かる。
「んー、よく分かんないけど…これは楽しみだね。別に壊してくれるくらいが丁度いいかなー。試作品だし…。ねぇどうかな? せっかくだし付き合ってよ」
ウルルさんのお願いに対し、皆に目をやりどうかと尋ねると…
「まぁいいんじゃね? 俺らどっちかっつーと魔法よりのスタイルで物理方面は苦手だし…試してみたくはある」
「ん、私も…。最近買い替えたこの弓の性能も正確に知りたい」
とのことらしい。
シュトルムは自分の剣の柄に手を当て、セシルさんはどこに持っていたのか分からないが…いつの間にか弓を手に持っている。
えっと…これはアレだ。ゲームでキャラクターがグラフィックには描かれていないのに武器をサッと取り出すみたいな…多分それと同じ類のものだ。
セシルさんって不思議な秘密が多いなー。
…俺のそんな考えはともかく。
災厄の時に使っていたものとは違う弓は以前のものよりも一回り大きく、セシルさんが小柄なこともあって非常に大きく見える。そんな印象を俺は覚えた。
ただ…疲れないんだろうか?
セシルさんのステータスを俺は見たことないが、災厄の時に無傷だったことを考えると結構高いのかもしれないな…。
「面白そうですね。私もやってみてよろしいでしょうか?」
「良いよー」
「私はパス~。魔法以外は自信ないしー」
あれこれ考えている内に、皆もやる気になっていたようだ。…ナナとアンリさんを除いて。
ナナは分かる。これはただ単純に面倒臭がってるだけだろうし。でもアンリさんは興味ないんだろうか?
気になり声を掛けようとすると、それよりも早くウルルさんが話し始めてしまい、話すタイミングを逃してしまう。
「アレク君がいたら良かったんだけどな~。彼はどちらかというと物理の方が得意だったみたいだし…」
「…でしょうね。アレク君の身体能力が高かったのは良く知ってますから」
「あ、そういえばよく演習場で手合わせしてたね…。彼で普通くらいのテスト結果になるとは予想してるんだー」
「へー」
ウルルさんが残念そうによく知った名前を出す。そして俺もウルルさんの言いたいことを理解して頷いた。
アレク君…元気にしてんのかな?
なんか聞くところによると1人で別の大陸に行くって言ってたらしいけど…怪我とかしてないだろうか?
アレク君は強いから大丈夫だとは思うけど…。
自らの教え子にそんな心配をする。…何をいっちょまえにって話ですけども…。
私の本分は教師ではなく冒険者でもなく、ただのフリーターである。
「えーっ! ウルルちゃん俺達もやらせてくれよー」
「今の内に把握してた方がよくない?」
「君たちには完成版作ったらやらせてあげるから…今は先輩方の実力を見てなさい!」
自分らも試してみたいと思った生徒達が騒ぐが、それをウルルさんは可愛い声で静めた。
ウルルちゃんて…先生じゃないのか…。まぁ先生っぽく見えないけど。
敬語とかはともかく、生徒の人気は高いんだなやっぱり。
次回更新は月曜です。




