125話 司観察記録②
◇◇◇
「ご主人、起きてください。朝ですよ」
「ほら早く~」
うるせーなぁ…。
ポポとナナの声で目を覚ます。
だが…
あ~何もやる気おきね~。
飯~? 食うのもめんどくせ~。
早く起きろだ~?
い~や~で~すぅ~。
どうにも睡眠がまだ足りない。
そのため、いつもはそれなりに早く起き上がれるが…今日はそんな状態じゃなかった。
「ご主人~!」
…。
「ご~しゅ~じぃ~ん~!」
……。
「ぐぅお~しゅぅ~じぃ~んぅ~っ!!!」
ちっ…しつこいな。じゃあ仕方ねぇし起きてやるよ。
もっと寝かせて欲しいもんだが、ぐうたら生活は駄目ですか、そうですか…。
まったく…容赦のない奴らだねぇ。
だが…俺の本気を見せる時が来たようだな!
久々の芋虫スタイル全快じゃ!
ベッドからズルリと落ち、そのままニョキニョキと地べたを這いずって移動を開始。
床がひんやりとして体がブルリと震えるが、そんなものは気にしない。
「…何やってんのご主人」
周りの声は無視だ無視。
芋虫界の絶対王者とは俺のことじゃ~。
1階に向かって全速前進!
「ちょっとご主人!?」
ナナの声なんて聞こえな~い。
オラオラ退け退け~。
俺は芋虫のような動きで、高速で1階に向かい始める。
□□□
さ~て! 今年もやって参りました芋虫グランプリ!
1年に1度の本大会! 一体誰が優勝するのか! 今年も見ものだ~っ!
…それでは! レース…スタートッ!!!
…おーっとカミシロ選手! いきなりスタートダッシュを決め込み前に出た~! これは早い!
他の選手とは比べ物にならない高速の速さとくの字が格の違いをみせつけるぅ~! ここで神代フロアを抜けたあああっ!
だが! このコーナーをどうやって曲がるのか!?
…おおおっ!! 伝家の宝刀とも言われるニョキドリでコーナーを曲がった~! なんて艶めかしい動きなんだ~っ!
そしてそのまま段差をヌルヌルといとも容易く下り…障害物を神掛かったトリプルアクセルで回避!
これは凄い! そしてキモイッ! 後を追う他の選手は誰も追いつけない! …か~ら~の~ゴールインッ!!
見事優勝をもぎ取った~! 拍手~(パチパチ)
解説
神代フロア→俺の部屋
ニョキドリ→ドリフト
ヌルヌル→滑り下りる
他の選手→司にびっくりした一般客
□□□
なんてな。
即興でこんな妄想してみたんだが、中々いい出来だな、うん。
取りあえず、1階の待合スペースまで来た俺。
そして後から遅れて2匹がやってくる。
「…何やってるんですか? ご主人」
「ん~? いや、なんか高ぶっちゃって」
「ご主人キモ…」
「…俺もそう思う」
今更だが、自分の行動に後悔がこみ上げてくる。
つい家のノリでやっちまった…。ここは家じゃないんだから自重すべきだったな。
あぁ、慣れって恐ろすぃ~。
「…なんでこんなことしたのかは面倒そうなので聞くの止めときます。てかさっさと立って下さい…周りの目が痛いので」
気づけば一般の宿泊者がこちらを見ている。
あ、貴方は俺に飛び抜かれた選手の1人……じゃ、ないですよね。
ご迷惑おかけしました~…。
「むっ!? それはスマン。よいしょっと」
妄想ではなくリアルでやっちまうとは…不覚なり!
だが、この世界に来てから俺も随分とオープンになったものだ。
内向的な思考から変わりつつあるな…。
◇◇◇
「…初っ端からすげぇのが見れたな。俺も驚いた」
「え、ええ…」
今の先生の一連の動きを物陰で見ていた私たちは、いきなりの衝撃場面に驚愕していた。
あの動きを見て驚かない人はいないだろうというくらいに素早く、一体どうやってあの動きを可能にしているのか疑問に思う程、先生は地べたをスルスルと進んでいった。
「なんつー動きだ…人間かホントに…? ……んー、俺じゃ出来ないな…」
「あの、実践しなくても…。あ!? す、すみません!? なんでもないですから気にしないでください…」
「おっと…悪いな。忘れてくれ…」
先生の動きを再現できるかを確認したいのか、シュトルムさんも先生のような動きをしようとしている。…が、それを見た他の一般客のお兄さんに見てはいけないものを見るような目で見られてしまう。
シュトルムさんもそれに気づき、そのままの姿勢で軽く言葉を掛けるが…
「ありゃ、驚かせちまったか…。まぁ別にいいか」
「えぇ…」
そのお兄さんはパタパタとすぐに離れて行ってしまった。
当然だろうけど…。
う~ん。先生も十分変だったけど、やはりシュトルムさんも変な人だ。
普通あれを見て実践しようとは思わないだろうけど…。
ただ…学院の印象とは随分と違うなぁ。
これからどんな先生が見られるんだろ?
◆◆◆
「ちっ…草原に行くつもりかアイツ。…隠れる場所がないな」
あの後しばらく先生を観察していると、先生はギルドにも寄らずに西の草原へと足を向け始めた。
そして、門の外へと出て行ってしまった。
依頼じゃない…のかなぁ?
だったら…
「流石にここは諦めましょうか」
草原では隠れる場所なんてないし、流石に気づかれないで観察は無理だと思ったんだけど…
「いや、手はある……(ボソボソ)」
「?」
「…これでいい。一応姿は周りからは見えなくなってるはずだ…」
「え? そうなんですか?」
「ある方法でできるんだ。ただ…移動はゆっくりしか出来ないんだが…。あと…魔力の消費がヤベェから長続きはしない…」
どうやらその問題を解決する方法をシュトルムさんは持っていたらしい。
魔法ではないようだし、一体どんなカラクリなのかは分からないけど…やっぱりシュトルムさんも凄い。
シュトルムさんも言っているように結構辛そうだから…スキル…なのかな?
「よし、あとをつけるぞ」
「はい。…でも、手続きしなくていいんですか?」
「大丈夫だって。気づかれなきゃいいんだよ」
「それでいいんでしょうか…?」
「大丈夫。今は俺達がルールだからな。ホラ、行くぞ」
これ、バレたらすごいことになりそうなんだけど…アタシ大丈夫かな?
門番の人ごめんなさい!
◇◇◇
朝の時のことはもう忘れ、俺は今西の草原へと来ていた。
来た理由は勿論ある。たまたまスライムを見たくなった。ただそれだけである。
そして、俺の目の前には3匹のスライムが並んでおり、俺は草原に座り込んで彼らと会話中だ。
あ、言葉なんて分かる訳じゃないけどね。
「そうか…お前らも大変だな」
「ピギー(あの時結構やられちゃったから…)」
「うんうん。あの時は済まなかった」
「ピギギ~(しょうがないよ。この世界は弱肉強食だもの…)」
「弱肉強食だから仕方ない…か。そう言ってくれると助かる」
「ピギッ! ピギッ!(でも! 僕達は友達だからね!)」
「ああ! 俺たちは友達だ! こちらこそよろしく頼む」
「ピギギ~♪(うわ~い♪)」
「ハハッ! コイツめ~…これ、食うか? 多分少しは強くなれると思うんだが…」
「「「ピギッ!!!(食べるっ!!!)」」」
「いっぱいあるから仲良く食えよー」
意思の疎通ができた俺は、コイツらに持っていた生肉を与える。
すると…それを喜んでくれたらしく、勢いよくがっつき始めた。
フフフ。スライムは低能だとか言われてるが、そんなことはないのではないのだろうか?
コイツら…結構情緒に溢れた良い奴らだもん。俺…もう討伐できねぇよ。
俺は…スライムと人間を繋ぐ架け橋となることを決めたのだった。
◇◇◇
「な、なにあれ?」
今、先生から少し離れた位置から観察中なんだけど、先生が草原でスライムと対峙したかと思うと、何やら一人で喋っているのが確認できた。
「スライムと話してるみたいだな」
「え? 話せるんですか?」
思わず聞き返してしまった。
だってスライムには知能なんて殆どないって聞いてたから…。
「…らしいぞ? アイツ曰く、『聞くんじゃない。感じるんだ!』…って言ってたな」
「はぁ…?」
か、感じる? じゃあ会話が成り立ってる訳じゃないってことかな。
でも、普通に会話が成り立ってるような雰囲気なんだけど…。
先生を見ると、とても仲がよさそうにスライムとじゃれている。
あ、何かあげてる。お肉…かな、あれ…。
そこに…
「ヤベッ!? ポポがこっち見てやがる! 気づかれた!」
肩にとまっているポポが後ろを振り向き、こちらをジッと見つめている。
鳥の勘…ってやつなのかな。気配とか分かるのかもしれない。
バレちゃったし観察はここで終わりかなと思ったけど、ポポは何かを感じ取ったような顔を一瞬したあと、また前を向いた。
それを見たシュトルムさんが…
「…お? アイツ気が利くなぁ。…やっぱり、流石に感覚は鋭いな」
「そうですね。助かりました」
ポポの機転に感謝する私達。
「だがそれに比べてナナは警戒心なさすぎだな。まぁいつもポケ~っとしt…ぐふっ!?」
「シュトルムさん!?」
土の塊が…シュトルムさんの腹にめり込んでいた。
ポポの反対側の肩にとまっていたナナを見てみるとこちらを見ており、目が「気づいてるよ?」と言っているかのような目をしている。
それを見て、ナナがこれをやったのだとすぐに分かった。
「ぐおぉ…っ! き、気づいてたのかアイツ…! てか分かってて気づかないフリをしてたとは、むしろポポの方が空気読めないん…ぬあっ!?」
腹をさするシュトルムさんの額に、今度は黄色い羽がスコンと突き刺さる。…とても痛そうだ。
ポポを見ると、「無駄口叩くな」…の顔をしている。
余計な事言わなきゃいいのに…。
「ん~? お前らさっきから何してんの?」
「いや…ちょっと虫がチョロチョロしてて…」
「今仕留めたのでもう問題ないです」
「ふ~ん、そっか。じゃあ、戻るか」
2匹が何かしてるのに気づいた先生だったが、2匹の機転で特にバレることはなかったようで、特に気にせずに立ち上がる。
そして、グランドルに向かって歩いていく。
「っ~! …グランドルに戻るみたいだな…。行くぞ」
「は、はい!」
額から血を流すシュトルムさんを気の毒だと思いながら、アタシ達も後をつけた。




