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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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118話 ゲスの中のゲス…ヴァルダ

 昨夜のパーティ結成の翌日。


 鳥の囀ずり…眩しい朝日…冷たい風。それらに包まれた体は目覚めの信号を俺に発し、起きろと命令してくる。


 無意識に目を覚ますが、俺の視界に映るは……死屍累々の光景であった。


 今俺がいるこの場所は…グランドルの町にある、とある酒場だ。その店の、外に設置されているテーブルの一角。


 本来ならここで「俺は一体…!?」とか言うべきところだとは思うが…なぜこの場に俺がいるのか。そしてなぜこの屍共がいるのかが分かっているため、それに関しては驚いたりすることはない。


 …まぁ、どっちにしろ驚く気力なんぞ今はないが。


 テーブルにうつ伏せとなって寝ていた体を起こし、動き始めるが…


「……いっつつ…! また飲みすぎたな…」


 良く知った頭痛に顔を歪める。

 …二日酔いである。


 ついこの前、トウカさんと飲み明かした時のことを思い出す。

 今はあの時よりも酷い状況と言えるし、流石に自重しなきゃいけないなぁと思いつつも、仕方ないと思う気持ちもあって…なんとも言えない。




 昨夜のパーティ結成の後、俺達は結成記念日ということで町へと繰り出し、飲もうということに決めたのだ。

 夕飯は既に済ませてあったので、取りあえず手頃な店に入り、酒だけ飲むことに決めて俺たちが飲んでいると、それに気づいた他の冒険者仲間や仕事帰りの兵士さん。さらには通行人の人も次々と混じり始め、規模はどんどん大きくなってしまった。

 それほど広くもない店内だったため店に入りきらない人も出てきていたが、それでも俺達のことを知っている人が祝ってくれてのことだったので、なんだかんだ楽しいひと時を過ごしていたはず…だった。


 というのも、やはり酒の力は恐ろしいというか…。それまでは至って自分達のペースで飲んでいたのだが、酔いが回って変なことをし始める奴や、服を脱ぎ出す奴…歌いだし始める奴などなどが現れ始め、それに触発されて俺達も酒を飲むペースが上がり、最終的には一緒に結構ドンチャン騒ぎをしてしまった。


 …服を脱ぐとかはやってませんけどね。流石にそこまでふしだらなことはできませぬ。

 でも、大声で騒いだり放送禁止用語を言ったりはしちゃいましたねぇ…。

 …ヒナギさんとセシルさんには非常に見苦しいものをお見せしてしまったかもしれない。あの2人はそこまで飲んでなかったしほろ酔い程度だったはずだ…。


「…んしょ……ん?」


 昨日のことのあらましを頭で思い出しつつ、テーブルから移動する。

 すると…頭からボトリと何かが落ちたのが確認でき、意識を下に向ける。


 落ちたそれを見ると…どうやらポポとナナだったようで、俺の頭の上で寝ていたらしい。


 ふてぇ奴らだ。

 主人の頭で寝るとはいい度胸である。


 …でも、立ち上がった時に気づかなかったな…。てかよく落ちなかったなコイツら。俺の頭に吸着できる機能でもあんのか? 

 …まぁなんにせよ、俺もまだ意識が覚醒していないのは確かなようだ…。


 落としたことで目を覚ましたのか、それぞれモゾモゾと動き、起き始める。


「むぅ~、朝~?」

「くぁ~っ…」


 あらま…なんてキュートなのかしら。


 先ほどの一瞬の苛立ちはすぐに無くなった。

 目を擦りながら欠伸をする様はとても愛らしく、写真に収めたいと思ってしまう程だ。


 流石この町のアイドルだぜ。写真とって売りさばいたらどれくらい儲けられるかな……あ、カメラがそもそもないからそりゃ無理か…。でもやったら結構儲けられるのは間違いないな。ジュルリ…。


 と、少々やましい考えが脳裏をよぎるが、それは意識の外へと追いやる。


 …ちなみに、コイツらも昨日酒を飲んでいたりする。この前コイツらの食事問題に疑問を持ったばかりだが、もうそんなのは忘れた。

 だってジョッキを両翼で持ち上げてゴクゴク酒を飲む様を見たら…そりゃ仕方ないでしょうに。驚愕じゃなくて…むしろシュールな光景で平然と見てたわ。

 好きなものを食べて、好きなようにすればいいさ。それで健康でいられるならそれに越したことないしな。

 …もうお前らは普通のインコではない…別の何かだ。


「起きたか」

「あ、どもども」

「ご主人…」

「体調はどうだ? 酒飲んだの初めてだろ?」


 見る限りは平気そうに見えるが、念のため2匹に聞いておく。

 第一インコは酒なんて飲まないから、どんな症状が出ても変じゃないし…。


「んー、別に? いつもと変わんないかな~」

「…私も平気ですよ?」

「そ、そうか…ならいいんだが」


 どうやら平気みたいです。

 てかコイツら酒に強いのか…。変なの。


「ご主人は?」

「ちょっとキツいな…」

「結構飲んでたもんね~」


 ポポに聞かれ、自分の状態を素直に告げる。

 とてもではないがあまり動く気にはなれない。それくらいには二日酔いの症状は酷かった。

 できることなら今日は一日休んでいたいとさえ思う。


 …が、そうも言っていられない。昨日マッチさんに例の依頼をやると言ってしまった以上は、やらないわけにもいかない。


「…で、どうするかな。えっと…あ、いたいた、シュトルム! 朝だぞ」


 痛む頭をこらえつつ、仲間であるシュトルムを見つけて肩を揺する。


 …地べたに寝るほどに酔っぱらってたのか、お前。


 シュトルムは全身を地面にくっつけて寝ており、若干よだれが垂れていてだらしない顔をしていた。

 涎は朝日が反射し、まるで宝石のような輝きを見せている。


 …きちゃない。


 これで167歳…だっけか? まぁそんな歳なんだから笑えてくる。

 歳を取ってもこういうのは変わらないんだな。


「うっ……」

「起きれるか?」


 目を覚ましたのか、呻き声を上げるシュトルム。

 他にも寝ている人は多くいるが、仲間を先に起こすのが先決だ。


 そして…


「………ほへっ?」

「………は?」 


 眠気眼のシュトルムが変な人語を喋る。


 なんだ、ほへっ? て…。起きて一番の声がそれかよ。じゃあ俺ははひ? とでも返した方が良かったのかね? 

 まぁやらんけどさ。 


「ん~…朝…か。よぉツカサ…」

「…お前も二日酔いか、ハハハ…」


 俺を認識すると、シュトルムはフラフラと立ち上がる。


 俺と同じ状態のコイツを見て、自然と笑みがこぼれる。お互いに馬鹿をやったという共感みたいなものだ。

 酔いで誰かに迷惑を掛けるのは大変よろしくない。だが、それを意識しないで好き放題飲んでやりたい放題したい時はどうしてもある。それが今回の場合だ。


 偶にはいいじゃないか。


 とそこに…


「おうおう、昨日ドンチャン騒いでる奴らがいるとは聞いていたが…もしかしてお前らだったのか?」

「んあ?」


 店の前で、茶色の髪をした青年がこちらを見ていた。

 髪は後ろ髪の一部だけを伸ばしてひと括りにまとめており、動けばあちこちへ跳ねてしまいそうな長さである。

 他は…清潔そうに見える短髪が印象的だろうか。


 その声と顔に心当たりのあった俺は、久しぶりだなと感じつつも返事を返す。


「よぉヴァルダ…えらい早起きだな」

「フッ、まぁな。それよりも…やはり東から帰ってきていたのか」


 こんな朝早くから散歩をする青年はあまりいない。

 そのことに純粋に疑問を感じたが、コイツの言葉を聞いて、まだ帰ったことを知らせていなかったことに気づく。




 この茶髪の青年。コイツの名前はヴァルダという。

 年齢は俺と同い年で、この町で細々と情報屋を営んでいる変態の化身である。…いや、マジで。本気と書いてマジって読みます。

 その変態度は俺の持つ変態性とは異なり、格、次元が違うという表現が正しいと思う程のものだ。

 変態の天才…かもしれない。なんじゃそらって話ですけども…。

 まぁ、そんな奴だ。


 覚えなくても平気ですからね? だってそんなことしなくても嫌でも覚えますもん。


「悪いな、疲れてて報告してなかったわ」

「そうか。…というより、俺は毎日このくらい早く起きているぞ」

「え、そうなのか? なんでまた…」

「…聞きたいか?」


 俺が理由を求めると、コイツはニヤリと俺を見てくる。


 あ。しくったわこれ…。なんか変な理由だきっと…。


 嫌な気配を感じている俺のことなんて知らず、ヴァルダはキザな感じに空を見上げると…


「朝起きるとさ…お前は何に目がいく?」


 突然、突拍子もないことを言いだした。


「え? …ん~、なんだろう、朝日…かなぁ?」

「フッ…可愛い奴め。お前はそれでも本当に男か?」


 男ですが、なにか?


「男ならまず…一緒に目覚めた愛すべき分身……自分の息子を見るべきだろ」

「はあ?」

「……?」


 ヴァルダのいきなりの下ネタ発言。

 俺はもちろん、シュトルムがヴァルダの物言いに意味不明という顔をしている。


 …そうか、お前はコイツとは初対面だったか。取りあえず今は流せ。

 絶対まだこんなもんじゃないから。


 シュトルムに向かってそう思いつつ、ヴァルダの話は続く。


「…そして気持ちよい一日を迎えるために、まず起きてすることといったら…息子を拝んでからのヌキヌキしかないだろうが」

「んなわけないだろうが!」


 話し始めてから十数秒ほどでこんな会話をぶっぱされて面食らう。

 ヴァルダは手を軽く握りしめては、それを上下に動かす仕草を繰り返す。


 何がヌキヌキだ。完全にオ〇ニーじゃねぇかよ。キショイわっ!

 んなもん夜に済ませとけ! 朝っぱらからどんだけ性欲強いんだよ。


「ヌキヌキ?」

「えっと…まぁ、男の性欲処理ですよ、ナナ」

「ああそういうことか…大変だね~」


 ナナ…。軽く流すね…お前は…。

 そういうのが平気な類なのかお前も。…まぁ俺は気にしないけどさ。

 でもお前…どんどん女の子要素がなくなってるぞ…将来がさらに心配になる。


「…それで? それが何で散歩に繋がるんだ?」


 我が従魔にそんな懸念を抱きながら、ヴァルダの話す内容がこれからどう繋がるのかを尋ねるが…


「…ここまで聞いてもまだ分からないとは、お前に付いてるそれはもはや飾りだな」


 俺の股間を指さしてくる。


 俺の息子はしっかり機能しとるわっ! 飾りじゃねぇよアホ!

 だってさっきまで元気に! ……あ、何でもない…です。

 これじゃコイツの思う壺だ。今は堪えろ…俺。


 ちと…黙って聞いてるか。


「…ったく、いちいちうるせぇな。さっさと言えよ」

「フッ、なら教えてやろう! 朝のこの時間帯…それは、人間が非常に無防備となる時間帯だ」

「ほぅ?」


 そう…なのか?


「寝ていた者達が目覚め、意識もまだハッキリしない目覚めとまどろみの間…そこにこそ狙うチャンスは存在する!」


 チャンス…? 何を狙ってんだ?


「お前はさっき…起きたら朝日を見ると言ったな?」

「ああ、言ったけど…それが何だ?」

「さっきは鼻で笑ったが、俺が狙っているのはまさしくそれだ。それこそが俺の目的、デスティニーを感じる瞬間」

「………?」


 ……それは? 


「俺は、朝日を拝むために窓に近づいた無防備な女性…それを見るためだけに散歩している!」


 はあぁぁぁっ!?

 何を言ってんだコイツは?


「前日に情事に耽っていた者らなんかは最高の獲物だな。以前何度か見た、服が乱れたあの姿…たまらん! もっと見てみたいものだ…バレて罵られるのもいいなぁ…ハァハァッ!」


 最低だよ! 何がたまらんだ。

 お前のその精神が俺には辛抱たまらんわ! ふざけるな!

 ったく! 息づかいキモいわっ! 


「過去最高のものは美人の裸体を拝めた時だな。エロティックなあの肢体が朝日に映え…乱れた金髪に胸のポッチ…ごちそうさまでしたあああぁっ!! マイメモリーに永久保存しましたよおぉぉっ!」


 手を強く握りしめて天に突き上げ、心の叫びを空に放つ。

 …何やら涙を流しているのが確認できるが、あれは流してはいけない部類の涙だ。


 うへぇ…。

 こんな朝っぱらからなんつー内容を大声で叫んでんだ…。

 ドン引きだよ。


「…じゃあお前…まさか今も……それを狙うためにわざわざ…?」


 取りあえずコイツの散歩の理由が分かった俺は、確認のため聞いてみるが…


「当ったり前だろう? 残りのポイントに向かう最中サ☆」


 どうやらその通りだったようだ。


 ゲスだ…どこまでもゲスで…そしてゲスだコイツ…。

 ゲスの中のゲス。その中の選りすぐりの中さらに輝いたゲスの王だよコイツは。

 起承転結という言葉があるなら、コイツはまさに起承転ゲス。始まりがどうであれ、確実にゲスに終わる。

 やはり真正の変態であったか。俺の目に狂いはなかった……。呆れてというよりも、格が違いすぎてものも言えん。

 餌食となった金髪の方…ご愁傷様です。…まぁ知ることがないのがせめてもの救いか…。


 名も姿も知らぬその人に、お悔やみ申し上げる。…死んでないけど。


「…ツカサ、コイツはいつもこうなのか?」


 そこに、コイツの狂言を流しきれなかったシュトルムが俺に聞いてくる。


「ここまでインパクトの強いのは初めてだけど…まぁそうだな。大体こんな感じ」

「マジか…ひでぇなこりゃ」


 あのシュトルムが初対面の奴に対してコレである。

 シュトルムは基本的に誰にも分け隔てなく接することのできる奴だ。これまで誰かと話す姿を何度も見て来たが、それは誰にでも分かるほど。

 その時のシュトルムの目は無邪気な子供のような感じだが、今目の前にいるシュトルムは違う。ヴァルダを見る目がいつもと違い、完全にゴミを見るような目になっている。


 それを見て俺は思った。

 あぁ…今まで見て来たコイツは、社交的なシュトルムさんだったのだと…。今は完全に鎖国的なシュトルムさんというわけだ。

 きっと今のシュトルムなら、〇リーも真っ青な対応をしてくれることだろう。

 …まぁ今回は黒船なんかは来ちゃいませんがね。代わりに来たのは変態だったが。


「フフフ…もっと言ってくれたまえ。…イってくれても構わんぞ?」

「何かにつけてそっち方向に持っていくな!」


 シュトルムにひでぇ呼ばわりされたヴァルダは、今度はドMなスタイルへと変化した。

 スタイルチェンジ。コイツの得意技の一つである。


 俺がヴァルダの発言にしょーもない違和感を感じてツッコミを入れると…


「…はて? 俺は別にそんなつもりで言った訳ではないんだけどなぁ。あれれー? もしかしてそんなこと考えてるのツカサきゅん? キャッ、イヤラシー!」


 これだよ…。コイツは全てをカウンターしてくるから、何も終わらない。

 腹立つなーコイツ…。コロコロキャラが変わるのも腹立つし。


 すると…


「…して、君にはまだ挨拶をしていなかったな。俺はこの町で情報屋を細々とやっているヴァルダという者だ。よろシコ」


 キャラを標準? へと戻し、まだ挨拶をしていなかったシュトルムに簡素に自身を紹介するヴァルダ。


 最後のはいらないから、できればずっとそのままでいてください。お願いします。


「…ああ、知ってはいたが、今初めて知った気がする」


 …シュトルムにはヴァルダのことを多少は話していたのだが、コイツを目の当たりにしたことで俺が伝えた情報を全て一新したらしく、何も知らないまっさらな状態で接することに決めたようである。


「はて? 既に知っていたのか?」

「いや…ツカサから情報屋がいるってことは聞いていたんでな」

「ほほう♪ なんだツカサ…。私のこと話してたのね…んもうっ! このいけずぅ~」


 標準状態はすぐに元に戻る様で…今度はオカマみたいなキャラへと変わり、標的をシュトルムから俺へと変更して襲ってくる。


「いい加減にしろ。口裂いてやろうか?」

「あ、はい。スンマセンした」


 いい加減嫌気が…いや殺意が芽生え始めた俺が、割と本気で口裂きを告げると、以前それに似たことをやりかけたこともあってか、素直に言うことを聞いたヴァルダ。


 …忙しい奴だな。でもどーせ反省なんかしてねぇんだろ? 


 コイツのメンタルはそんなことではへこたれないし、意味もない。

 そもそもメンタルという概念があるのかさえ分からない。

 すぐさま…


「それで…どうだ? 俺と共に今から散歩に繰り出してみるかね? お二人さん。ナイトフィーバーならぬモーニングフィーバーと洒落込もうではないか」


 やっぱり懲りてねーじゃねーか!

 3歩歩く間もなく忘れてんじゃねーよ! 鶏以下かてめぇは!


「いや…興味ないんだが…」

「ふむ? …まぁ機会があればいつでも来たまえ。歓迎しよう……シュトルム君」

「あ、ああ……」


 あぁ…シュトルムがさらにドン引きしている…。

 シュトルムをこんなにするなんて、ヴァルダ恐ろしや…。


 取りあえず、このことから分かることは、ヴァルダ>>>シュトルム>俺…という具合にヤバさが計れるということである。

 ヴァルダがいかに頭がおかしいかお分かり頂けただろうか?


 でも…





 …知ってるか? コイツ…イケメンなんだぜ? 





 肝心の顔についてなんだが…。

 コイツ、認めたくはないが…めっちゃイケメンなのだ。それはもうあのイケメンプリンスのラルフさんとタメを張れるほどに。

 ぶっちゃけコイツの半径100m以内の全男性を集めたとしても…コイツよりイケメンな顔を持つ奴は存在しないだろう。それほどの逸材である。…だが変態である。

 その言葉の威力は、想像しているよりも大きいのだ。


 めっちゃ恰好よくて、情報屋という渋い仕事してて、まだ若い。

 女性の皆さん。…こんな優良物件を見逃す手はないですよね? ですが……


 …舐めてんのか? そんな感情なんざ一瞬で消え去るわ。

 コイツの見た目に騙されたら、そりゃコイツの思う壺だ。引っかかったな馬鹿め! になってしまうのは必至。悪いことは言わない、諦めた方がいい。


 ヴァルダの変態性は…人類には早すぎたんだ。…あぁそうさ、きっと。


 ふぅ…宝の持ち腐れってこういうことを言うのかねぇ?

 わたしゃ世の中が理不尽だなと思いますよ…やれやれ。



 さて、ちと話が逸れましたが…話を戻しましょうか。



「…ん? 俺…名乗ったっけ?」


 これまでの会話で、ヴァルダが来てからシュトルムの名前は口に出した者はいない。

 シュトルムとヴァルダは初対面であるし、シュトルムがなぜ自分の名前を知っていたのかに疑問を感じても不思議ではない。


「…チッチッチ! これでも伊達に情報屋はやっていないのでね。君のことくらいは知っているさ。…ちナニに俺のナニはそこにいる奴と違って伊達ではないナニよ?」


 俺を指さしながらナニナニ言うな。そして毎回俺を引き合いに出すんじゃない。

 抜け目ねぇな。


「あーはいはい。ヴァルダさん、その辺で終わりにしましょう。ご主人が本気でキレちゃいますので…」

「…仕方ない。弄るのはこの辺にしておこう。…後は自分のを弄って我慢するさ」

「やめろって…」


 ポポの仲裁が入り、ヴァルダの暴走は沈静化する。

 奴の下はまだ沈静しないようだが………なんちて。


 ………。


 ……下らん下ネタはほどほどにしとかないと、俺もアイツみたいになるな。

 それだけは嫌だ。




 ん? でもこれだと俺のち〇こがショボいことになったままじゃね?


 ふと先ほどの会話を思い出し、納得のいかない気持ちを抱いていると…


「ふむふむ……おお? あそこにいるご令嬢達は…」


 ヴァルダの登場ですっかり頭から抜けていた、この場で寝ているあと2人の仲間をヴァルダは見つけたようだ。

 俺もヴァルダの視線の先を追い、2人を見つける。


「ハハ…ヒナギちゃん達、気持ちよさそうに寝てらぁ」


 シュトルムの言う通り、2人は店の壁を背にして仲良く寝ていた。外で少し寒かったからかお互いを抱きしめ合うようにして寝ており、身長差が多少あることもあって姉妹のようにさえ見える。

 良い寝顔だ。まるで女神と天使がいるかのよう…。


 …ただ、無防備すぎる気がしないでもない。この2人以外には野郎しかいないし。

 まぁ、起きたら一応伝えておこうかな。


 そんなことを思いながら、シュトルムの発言に同意する。


「だな。…なんていうか、ほっこりする光景だよな…」


 俺とシュトルム。それからポポとナナもそれを見て微笑ましい気持ちになっていると…


「ああ、朝からもっこりしそうな光景だ、うむ」


 これだ。また来やがったよコイツ…。

 さっき終わったはずだったろ。


 俺達の気持ちを返せこの野郎。

 台無しだよ。そのまま爆発四散して使い物にならなくなっちまえ。誰も困らんから。てか汚い目で2人を見るんじゃない。


「見るなっ。2人が汚れるわっ!」

「あんっ!」


 2人を見るヴァルダを別方向へと向かせるべく、肩を掴んでこちらを向かせるが…なんとも気持ちの悪い声を上げるヴァルダ。

 そして…


「なんだ? そんなに俺の顔が見たかったのか? でもやめとけよ…惚れさせちまうから」

「惚れるかっ!」

「フフフ…ならこの手はなんだ?」


 気味の悪いことを口にするヴァルダに反論するが、言われた通り自分の手を見てみる。


「口では邪険に扱えても、心までは抑えることができない…気にするな。体は正直だから、よくある話だ」

「あってたまるかっ!」


 掴んでいた肩から、すぐさま手を放した。


 文面だけだとその通りだけど…そんな気は実際には一切ないから! 

 気色悪い!


「ツカサお前…そっちの気があったのか?」

「えーごしゅじんそれほんとなのー? だったらげんめつー(棒)」

「んなわけあるか! っ! つ~…」


 頭痛ぇ…。

 リアルな痛みと精神的な苦痛のダブルパンチは答えるな…クソッ。

 下らんことをノリで言うんじゃないよまったく…!


 さっきから怒鳴ってばっかだったから頭が痛い。


 二日酔いは辛いってのに…。


「フッ、照れるなよまったく…可愛い奴め。さあ! 俺の胸に飛び込んできな!」

「もうお前黙ってろ!」

「あふん」

「キモイわっ!」


 もう耐えられん! 


 俺はコイツの体をどつき飛ばして転倒させる。

 ドシャッと勢いよく地面を転がるヴァルダを見て、若干やり過ぎたか? と思ったが…


「うぅっ…! 酷いわ。あなたと私は体を重ね合わせた仲だというのに…」


 訂正。地の果てまでどつき飛ばせば良かった。

 どうせコイツは死なないだろうし、そのくらいがちょうどいい。


 ヴァルダは上手く、およよ…というポーズを取っては、また気色の悪いことを口走る。


「あることないこというんじゃねぇよ! するわけあるか!」

「酷い! 私で遊んだのね! ツカサのばかぁっ!」


 うぜえええぇぇぇっ!!! 

 死ね! 100回は死ね!

 コイツに調査依頼なんてしたくねぇっ!


「…とまぁ冗談はさておき、そろそろ息子が我慢ならんようなのでな、俺はヌキヌキポイントに向かうとしよう。…さらばだ!」


 そして、そのまま店から遠ざかっていく。


 最初からそうしろよ! 余計な時間を取らすなよな、まったく…。

 ただ逃げて! そこのポイント付近の女性超逃げて!


 奴のターゲット候補になりかねない女性達に、心で勧告する。




「…行ったな」

「ああ…終わったんだな」


 ヴァルダはいなくなり、この場に静かな朝が戻ってくる。


 嵐は、去ったんだ。


「ん? 何か落ちてますね」


 俺とシュトルムがやり切った感を醸し出しながら佇んでいると、ポポが何かを見つけたようで、そちらにトテトテ走っていく。

 その走る先には…何やら小さな紙が落ちている。


「…紙?」

「何か書いてあります。えっと…」


 紙を拾ったポポが、どうやら何か書いてあったらしい内容を読み上げ始める。



『漢になりたかったらいつでも来な。慰める? 犯す? どちらも歓ゲイ! ――ツカサの親愛なるゲイ友 ヴァルダより』



「……だそうです」

「「………」」


 やはりか…。そんな気がしてたんだよな…したくなかったけど。

 アイツはこういう奴だ。


「あいついつ書いたんだこれ…」

「…それが分からないのがヴァルダ…か。なるほど、全く分からん」


 ヴァルダの驚きの速筆はさておき、シュトルムがヴァルダに対しての評価を口にした。


 …それでいい。お前は正しいよ…シュトルム。


「アハハハハ! ヴァルダサイコー! 毎回面白いねー!」

「ナナ…」


 ナナが今まで堪えていたのか、俺の耳元で大爆笑している。ちょーうるさい。

 ナナの笑いの壺にどうやらハマったらしい。


 俺はここまでとなると笑えまへん。

 下ネタやキモネタというのは、適度に挟むことでその場に笑みをもたらすものなのだ。 ※違います

 だが、アイツは最初から最後まで、下ネタ下ネタ時々キモネタ…である。てかアイツが下ネタの象徴みたいなものだ。




「よーツカサ~。朝っぱらから面白いもん見せてくれてありがとよ~」

「……見てないで止めてくださいよ」


 気づけば俺達の騒ぎで起きた近くに住む住人らが、家から顔を出してこちらを見ており、そのうちの一人である一般男性Aが俺に話しかけてくる。


 …なるほど、アイツはこの状態を狙っているというわけか。確かに中には薄着でエロt…ゲフンゲフンッ! …普通の人ばかりですね。


 今窓から顔を出している人達を見て先ほどのアイツの狙っていることを思い出すが、そこは流石に俺の良心が機能し、思いとどまることができた。


「……シュトルム、ヴァルダは…どうだった?」

「……あぁ、凄かった。としか言いようがないな…」

「それほどでも~♪」


 どこからともなく聞こえてくるヴァルダの声…。


「「「「………」」」」


 これが、ヴァルダである。




 こんなひと悶着があったが、俺達はこの後ヒナギさんとセシルさんを起こし、屍共を起こし、店の片づけを手伝った後に、ギルドへと顔を出すのだった。

 なんとも先が思いやられるスタートとなったが、これがいい思い出になるのか、それとも戒めになるのか…。それが分かるのはもっと先のことだろう。

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