表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第二章 堅華なる鉄の守り 
113/531

111話 皆の秘密、そして出立

またもや1万字を越えるとは…

 ◆◆◆




「さっき轟音と一緒に、空に昇る龍みたいなのが見えたが…ありゃお前か」


 それは多分…『龍の脚撃(レグナート)』だろうな。

 龍と言ったらそれしか思いつかんし…。


「多分俺だ。どうしても空間から出られなくてな…破壊したんだよ、空間そのものを」

「…お前がそうまでするほどの奴ってことか」

「…うん」




 一通り、今の俺を取り巻いている状況を簡単ではあるが説明する。

 言いふらしが駄目な部分は省き、取りあえず仮面野郎と、その仲間に狙われていることを伝える。


 皆、黙って俺の話を聞いてくれていた。


「なんだ…ならお前がそこまで気にする必要ないだろ」

「へ?」


 正直巻き込んだも同然なので軽蔑されるかと思ったが、シュトルムの声からそんなものは感じられない。


「今回分かったのは、お前がやっぱり悪い奴じゃないってことだ。んで、必要以上に自分を責めちまうくらいの心を持っている奴…それだけだろ?」


 シュトルム…。


「確かにお前を狙ったのかもしれねぇけど、だからってお前に罪があるとかじゃねぇだろ」

「…だけどさ。俺がここに来なきゃこんなことにはならなかったのは事実だ」

「じゃあ、縮こまってずっと同じ所にジッとしてるってか? そんなん無理だろ。…理不尽な罪ってのはどこにだって転がってんだ、お前はそれに嵌っただけ。気にすんなとは言わないが、そこまで気負う必要はねぇ」

「……」

「…まぁ、難しいよな…こういうのは…。俺は当事者じゃねぇから今は言えてるが、お前の立場だったら分からねぇし」


 そうだ、当事者になってみれば分かるんだよ。

 これは…そう簡単に割り切れるものじゃない。


 だがそこに…


「安心して…ツカサが悪気がないのは分かってるし、悪いこととか考えてないのは前から知ってるから…それは今も変わらないよ」


 いつの間にか俺の正面へとやってきていたセシルさんが、俺の両手を取って自分の手で包み込む。


 暖かかった…。


 手を握って…そう言ってくれたこと。それが…たまらなく嬉しかった。


 …ったく、なんでこうも恥ずかしい台詞を素面で言えるのかね…。

 ……でも、ありがとう。


 少し…落ち着くことができた。


「そういえば、災厄の時…あの時も、似たようなこと言ってたよね」


 災厄の時のセシルさんの言葉…それをふと思い出す。

 あの時の言葉は…


『自信持ちなよ。ツカサはその力を絶対に悪用したりしない…大丈夫………』


 って言ってたような…。

 最後は聞き取れなかったけど。


「…うん。私の力で分かるんだ。私…他人の心が少し見えるから…」


 …はい? 


「え? てことは…魔眼持ち…」


 セシルさんの発言に度肝を抜かれる。

 ギルドマスターと一緒とか…。


「ちょっと違うけど、それに近いかな。だから……」


 あれ? ちょっと違うのか…。

 それに近いってことは、一応は魔眼だけど、それには満たないくらいってことだろうか? だけどそんな類似してるのは聞いたことないんだが…。


「? セシルさん?」

「いや、なんでもないよ。まぁ魔眼ではないかな…」


 どうやら魔眼ではないらしい…。

 となると、スキル関連だろうか? もしくは特殊な力なのかもしれない。

 …まぁ余計な詮索はできないな。


「でもなんでそんな大事な事言うの? 皆聞いてるのに…」


 自分の情報を無暗にさらけ出すのは自殺行為に等しい。

 セシルさんは意外と慎重な人だと思っていたので、向こうから話してくれたことに驚きを隠せない。


「皆が言いふらしたりしないって信じてるから…だから平気…。ツカサも…だから私たちを信じて、私たちはツカサを軽蔑したりしないから。…それに、私がもし狙われることになったら…ツカサは守ってくれるでしょう?」

「え、そりゃ当たり前でしょ」


 セシルさんの言葉に即答する。

 もう随分と親しくなってるし、困っているのなら助けるのは当然だろう。

 シュトルムにしろヒナギさんにしろ、俺は助けるだろうな…。


 まぁ…随分と信頼されているようだ。


「だよなぁ…お前はそういう奴だもんな。…お前の普段の行いを多分一番見てきてるからな俺たちは。…俺も信じてるぜ。コイツらもそう言ってるしな…」

「コイツら?」


 シュトルムが目を横にやるが…そこには誰もいない。


 シュトルムの言うコイツらとは誰だ?

 ポポとナナではないみたいだし…。


「精霊達さ」

「精霊…?」


 精霊って…話だとこの世界の至る所にいるって言われてるけど、姿は見えないんだよな…。

 以前学院の本で見た記憶がある。


「多分この場だと俺以外には見えてないだろうが、この世界には精霊が至る所にいてな。俺はそいつらの力を借りることができるんだよ。…まぁそういうスキルなんだが。ヒナギちゃん達と別れるときに、微力だけど力を貸してやってほしいって頼んどいたんだが…」


 お前…そんなの持ってたのか…。

 ていうかお前まで…。


「なんか少し戦闘でも頑張ったって言ってるな…。女の子が危なかったから手伝ったって言ってるぜ?」

「あ、もしかしてあの時の…」


 ふと思い出したように、ヒナギさんがシュトルムの発言に反応する。


「何か心当たりがあんのか、ヒナギちゃん」

「ええ、ブラッドウルフが女の子に迫る時、間に合わないと思ったとところで、ブラッドウルフの動きが少し遅くなったんです。あれが不思議で…」


 ほぉ…そんなことが…。


「じゃあ多分それだな」

「えっと…見えないのですが、そこにいるのでしょうか?」

「いるぞ。3体くらいだけどな…」


 どうやら3体がこの場にいるらしい。


 一体どんな姿をしてるんだろうか…。やっぱり妖精みたいな感じで小さいのか? 

 見ることができないのが残念だ。


「ありがとうございました。おかげで助かりました」


 ヒナギさんがお礼を言うと…


「……どういたしましてだとさ」


 一拍置いた後、シュトルムが代弁してくる。

 そしてシュトルムが俺の方を向き…


「ま、そういうことだ。精霊は悪い心の持ち主にゃ寄り付かないと言われてる。…だが、お前の周りにはペタペタめっちゃくっついてんだよ。だからお前は大丈夫だ」

「え、そうなのか? でもさっき3体って…」

「それは精霊として個を持った奴のことだ。お前の周りにいるのは、不安定でまだ個を持っていない弱い精霊だよ。そういうのはあちこちにたくさんいる」

「そうなのか…」


 自分の体にくっついていると言われて、体をあちこち触る。

 しかし…特に何かくっついているようには感じない。普段通りのままだ。


 …ちなみにセシルさんに捕まれていた手は既に解放されている。


「見えなきゃ触れねぇぞ。まぁそんなに弱い奴らだと俺でも触れないだろうが…。お前にも触れてるような感じはしないだろ?」


 俺が体を触っているのを見て無駄だと思ったのか、シュトルムからそう告げられる。


「…みたいだな」

「特に気配とかも感じませんね」

「いるとは思えないね~」

「…害は与えないから空気みたいに思っときゃいいさ。むしろ良い方向に働く。…ま、正直俺よりもくっついてて嫉妬したいレベルなんだが…」


 …そんなについてんの?

 なにそれ…花粉みたいに言わないで欲しいんですが…。振り払いたくなる。


 …待てよ? てことはお前は良い心の持ち主ということになるんだろうか?

 う~む。馬鹿に悪い奴はいないってことなのかねぇ…。でも意外に博識だし、今回みたいに他人を思いやってくれる精神もお持ちですし? 悪い奴じゃないってのは十分分かってますが。


 なんにせよ、シュトルムの言うことが本当なら俺は悪い心を持っていないということになる。

 …まぁ本当に悪いことなんぞ考えてないから、不思議ではない…のか?

 分からん。


「…まぁ、分かったよ。…シュトルムも…ありがとな」

「おう。仲間だろ、俺たちゃ…」


 …おうよ! 


 シュトルムの間に男の友情を感じた瞬間だった。


「私もですよ、カミシロ様。私もカミシロ様のことを優しいお方だと信じております」


 セシルさん、シュトルムときて、次はヒナギさんだ。


「だって、わざわざ1月もの間毎日稽古に付き合って下さるお方です。私の我がままにも関わらず…。自分の時間を減らしてまで時間を作ってくださっているお方が、悪い人なわけがありません」

「…ヒナギさんも、ありがとうございます。ただ…我がままじゃないですよ。俺だって何だかんだヒナギさんとの稽古を楽しんでましたから。お互い様です」

「それでもです。本当に感謝しています」


 フワッとした笑みを浮かべて、ヒナギさんは俺を見る。


 …ヤバい。この人…マジで女神様かも。

 今度こそ…ありがとうございます。おかげで元気出てきました。


 皆からの言葉。

 それを聞いて少しずつ本調子に戻りつつあった俺は、ヒナギさんの言葉を最後に元に戻ることができた。


 …最後の一押しが不謹慎なのは分かってるが。




 ただまぁ…


 皆…俺を信用してくれてるのか…。こんな俺を…。

 こんな人達に巡り会えることなんて、もう2度とないかもしれない。ならば俺も……それに答えるべき…なんだろうな。


 ただ…ほんのちょっと時間をくれ。最後の踏ん切りをつけたいから…。


 内心で、皆に全てを打ち明ける意思を芽生えさせる。




 そこに…


「話はまとまったかね?」


 シュトルムが割って入ったことで喋る機を失ったトウカさんが、タイミングを見計らったのか口を開いた。


 …スイマセン。最初に話してたのはトウカさんでしたよね。

 あの…忘れてたわけじゃないんです。状況がそうさせなかったというかなんというか…。決してトウカさんのこと忘れてたわけじゃないですから。


 俺のそんな内心など知らずに、トウカさんが俺の近くまで歩み寄る。


「ツカサ殿。気にされることはない。今回の件、断じて其方のせいではない」

「…」

「今ココにあるのは、其方たちにこの地が救われたということのみだ。村の者らに代わって私からお礼を言わせてもらう。…此度の騒動の解決…感謝申し上げる」

「いえ…当然のことですから…」


 俺が招いた結果だからな…当然だ。


 すると…トウカさんが俺にしか聞こえないくらい小さな声で…


「(あとは任せなさい。其方たちを悪人になどさせてたまるか)」


 そう…言ってきた。

 そして俺も反射的に小さな声で話す。


「(トウカさん…)」

「(だが、この村の者を…悪く思わないでやってくれ。今のこの状況では…そう思われても仕方のない状況ゆえ。この場は私が納め、状況が悪化せぬよう取り計らう。…行きなさい。しこりは残るだろうが、留まればしこりは埋まらぬ溝へと変わってしまう。そうなる前に…)」

「(…ハイ、最後までご迷惑をお掛けしてすみませんでした。ありがとうございます)」


 トウカさんの提案とご厚意に深く感謝する。


 本来であればこんな逃げるような形はしたくない。

 …だが、それはあくまで俺の個人的な感情が含まれた我がままだ。トウカさんを始め、シュトルムとセシルさんもそれに同意しているし、間違った対応ではないのだろう。…俺よりも長く冒険者をやってる二人は、俺からしたら先輩だ。ランクは確かに俺が上だが、それ以外は全然向こうの方が上…。見習うべきところは多くある。

 ここは皆の判断を優先する方がいいと感じる。


「何を話されているのですか?」


 ヒナギさんが、俺とトウカさんがコソコソと話しているのを不思議に思ったのか声を掛けてくる。

 それに気づいたトウカさんはヒナギさんへと向き直り、静かに口を開く。


「ヒナギ」

「は、はい…」

「ヒナギ、ツカサ殿達はもうこの地を離れる。これ以上変に事を大きくする訳にはいかぬからな…」

「…はい」


 ヒナギさんが少し影を落とし、顔を下に少し俯かせる。


 昨日話を聞いてはいたから、ヒナギさんがなぜこのような顔をしていたのかはもう既に分かっている。


 そんな状態のヒナギさんにトウカさんは…


「…だから、一緒に行ってきなさい」

「……え? で、ですが私は…」


 そう告げる。

 対するヒナギさんは突然のことに動揺しているようだ。…まぁ無理もない。


 本人はここにしばらく残り、俺たちとはお別れをするつもりだったのは俺も知っているし。


「この地に…残ろうとしていたのだろう? お前のことだ、これ以上は迷惑になると考え、ツカサ殿達とは別れるつもりだったんだろう?」

「…ハイ」

「だがな、ツカサ殿と昨日話をして…もう済ませてあるのだよ。…ツカサ殿もお前が一緒にいても構わないと言っている」

「……え…?」


 ヒナギさんは目を丸くして間の抜けた声を出している。

 余程意外だったのだろうか?


 まぁ…


「昨日ちょっとトウカさんと話してまして…。ヒナギさんの過去のこと、トウカさんから聞きました。ヒナギさんの小さい頃の話、それから今に至るまでのことを…。自分と同じ強さを持つ人を求めて冒険者になったと…」

「お父様が…」


 チラリとトウカさんの方を見て、すぐに俺の方へと向きなおるヒナギさん。

 その目は、何かに期待しているかのように俺には見えた。


「まだ、皆には話してないんですけど…きっと俺と同じ答えだと思います。…セシルさん! シュトルム! 全然気にしないよな?」

「…いまいち何のことかは分からんが、取りあえずヒナギちゃんが一緒に来るってことだろ? 全然構わないぜ?」

「ん、いると助かる。大歓迎」

「え? ヒナギも来るの? わ~いやった~。またおやつ作って~」

「よろしくお願いしますね、ヒナギさん」


 ポポとナナの声も加わり、全員が歓迎の意を示す。

 特に伝えなくとも、皆が俺と同じ答えなのは考えるまでもなく分かったくらいだ。


「っ…!」


 ついに、と言った方がいいのだろうか。

 感極まったヒナギさんの目からは、決壊した涙がポロポロと零れ始め、頬を伝っては地面へと落ちていく。


 悲しんでいるのではない。…これは、嬉し泣きだ。

 それは誰からみても分かるものだった。

 トウカさんを見れば、柔らかい笑みを浮かべていた。


「本当の友人が…お前にはできたのだよ」

「お、とう…さま…! …っ!」


 ヒナギさんがトウカさんの胸に飛び込む。それをトウカさんは優しく受け止め、優しく抱きしめた。


「良かったな、ヒナギ…。そして、済まなかったな。ミナギが死んでからいつも1人ぼっちだったお前に…私は何もできなかった…」


 ミナギ…。

 これは恐らくヒナギさんの母親のことだろう。


「いえ…お父様は、いつだって私を見守ってて下さいました。それがどれだけ救いになったか…!」

「…そう…思ってくれるのか?」

「勿論です。今までずっと、お父様は私を大切にしてくださってます。お母様が亡くなって塞ぎこんでいた私を、お母様の代わりになろうとしてまで…。それを邪険にしてしまったのは…私なのに…」

「フフ…そんなこともあったな…。だが、そんなものは父親としての責務の範疇だ。もっと…何かできたはずだった…」

「いえ、そんなこと…ないです」

「「………」」


 しばらくの間、2人は俺達に見守られて抱きしめ合う。


 …良かったなぁ。

 親子はやっぱり…確かな繋がりがあってこそだよな…。


 ………。




 暫くの間この状態は続いたが、それも遂に終わりを迎える。


「さて、本当はお前ともっと話したいことがあるが、そうもいかん。流石に不自然に思った者が来てしまう」

「お父様…」


 確かに、もう戦闘は終わり、辺りは非常に静かだ。

 …第一、戦闘が終わったからナナがトウカさんを迎えに行ったのであって、村の人らも事態が収束したことは分かっているはずだ。

 来るのは時間の問題…トウカさんの言うことはもっともだ。


「後のことは任せなさい。これでもそれなりに融通は効く方だ。上手く収拾をつけておく」

「…はい。ありがとうございます」


 えと…重ね重ねありがとうございます。

 いくら頭を下げても下げたりないくらいだわ。


「ヒナギ。今まで寂しい世界がお前には見えていたかもしれない。だが…これからは世界が違って見えてくるはずだ。今まで出来なかったことを…自分の人生を満喫してきなさい。私はその報告を楽しみに待っていることにするよ。お前が帰ってくるとき、安心して帰ってこれるよう…私も努力する。…お前も精一杯楽しむことに努力を注いでくれ」

「ハイ!」

「さて、ツカサ殿。ヒナギに関してはあまり心配しておらんが、それでも私の娘だ。何かあったときは助けてやってくれ」

「勿論です」


 トウカさんのお願いに俺は即答で返す。


 …だが、その即答で返すのが、少々誤解を招くことになる。


「…そして、傍にいて笑顔を絶やさないであげてくれ。今度は偽りの笑顔でもなく本心での笑顔を…」

「はい、ちゃんとヒナギさんの傍にいますよ」

「…カミシロ様!?」

「え?」

「あ?」


 俺の発言を聞いた皆が、一様に俺をギョッとした感じに見てくる。


 え? なになに一体…? 

 俺…何か変な事言ったか?


 自分の言った発言におかしな点があったかと考えを巡らせるが、それはポポの発言で分かることとなった。


「ご主人、それじゃまるで…プロポーズみたいになってますけど」


 はい!? 


「もうちょっともの考えて~」


 …そ、そういうことかい! ヤベッ!


「え? ああ! いや!? そういう意味で言ったわけじゃ!?」


 すぐさま自分の発言が誤解を招くような言い方だったことを訂正する。手をパタパタと振って…。

 すると…


「で、ですよね! ビックリしちゃいましたよ私…」


 若干頬を赤らめたヒナギさんが、胸をなで下ろしている。

 赤いのは…涙のせいか。さっき結構頬を伝ってたしな…。それに急に変なこと言われたらビックリしますよね…すんません。

 反省しますです…。


 もうヒナギさんの目からは涙は流れてはいない。

 どうやらおさまったようである。


「ふむ…?」


 トウカさん、「ふむ…?」じゃないですよ。

 なんで意味ありげに首傾げてんですか?


「ポポ、ナナ。お前ら、アイツしっかり見張っとけよ? 何を無意識に言うか分かんねぇぞ」


 シュトルムがポポとナナに忠告のように言う。


「「確かに…」」


 それに2匹はキレイにハモって反応し、翼を組んで真剣な顔をする。


 ぐっ! 何も言い返せねぇ…。

 仕方ない、ここは甘んじて受け入れよう。いつか言い返してやる!




「あの…皆さん」

「ん?」


 一気に場が騒がしくなったところで、ヒナギさんが全員に呼びかける。


「これから…よろしくお願いいたします!」

「「「「「………」」」」」


 ヒナギさんからの言葉に、誰も口を開かない。

 しかし…


「あ、あの…?」

「……プッ! ヒナギ~、ちょっと固すぎるって~」


 ナナが笑いながらヒナギさんに対して笑う。


「そんな畏まんなくていいんだよ? もっとフレンドリーにいこ?」

「で、ですが…」

「まぁ、急に言っても難しいだろ。徐々に慣れてきゃいいさ」

「そうだな」

「ヒナギ…自分のペースでいいから。慣れてこ?」

「は、はい。善処…します」


 ナナの言う通り、畏まった物言いは必要ない。

 その理由は…各々がもう既に分かり切っている。




 仲間なんだからな。




 だから俺も…。


 先程の決意を打ち明ける決心が…今やっとついた。

 この場で話すのはタイミングが悪いから言わんが、グランドルに戻って落ち着いたら、話すことにしよう。

 逃げてるじゃんと言われるかもしれないが、今はもうあまり時間がないし仕方ない。


「さて、じゃあ行くとしようか。ポポ、ナナ、頼むぞ?」

「了解です」

「あいさー!」

「『才能暴走(アビリティバースト)』」


 俺が『才能暴走(アビリティバースト)』を発動すると、二匹は神々しい姿へと様変わりする。

 相変わらず零れ落ちていく光の雫が綺麗で、まるで宝石のようだ。

 俺はごっそりと魔力が減ったことで若干の脱力感を感じるが、それもそこまで気にする程ではない。

 …もう慣れたもんだ、これには。


「ほぅ。これが君が『神鳥使い』と言われる所以かね?」


 始めてポポとナナの『覚醒状態』を見たトウカさんが、感心したように呟く。


「まぁそうですね」


 ポポとナナを『覚醒』させたのは、単に疲労していた体を楽にするためというのが一番の理由だ。

 俺の魔力で発動するからか、ポポとナナは『覚醒状態』になると全快するらしい。

 そんで副作用もないというからびっくりである。


 まぁ他の理由としては移動速度が単純に速くなるからだ。

 東の地は辺境の場所に位置しているので、近くにはあまり村や町が存在しない。あるのは過酷な環境の土地だけである。なのでなるべく早く移動する必要がある。


 …てかそうしないと野営をする羽目になるし。私そんなの嫌。

 ヒナギさんは…初めてここを出る時、どうしたんだろうか…。意外とサバイバルの心得をお持ちだったりするんだろうか?


 …多分、持ってるんだろうな。じゃなきゃあれを生き残れるとは思えんし…。

 まぁ今はそんなことはいいか。


「なんと神々しい…。シュトルム殿の命名もあながち間違いではないな、こうして見ると…」

「だよなぁ。トウカさん、分かってるな」


 むむむ!? トウカさんがまさかシュトルムの肩を持つとは…!

 これじゃあ何も言えないじゃないか!


「俺は好きじゃないんですけどねぇ…」


 精一杯の抵抗を見せてみるが…


「そうなのですか? 私も良いと思うのですが…」


 ぬあ!? 思わぬところに伏兵がいたか…。

 まさかヒナギさんもとは思わなかったぜ…。


 あ、でもヒナギさんも二つ名持ちだし、もしかしたらそういうのには抵抗がないのかも…。

 ちくしょう。


 じゃ、じゃあ最後の頼りは!?

 セシルさんを見るが…


「ドンマイ」


 チーン…。


 試合終了。…なんてこったい。


 一刀両断の如く、ピシャリと言いますね貴女は…。

 可愛いなりしてなんて鋭いもんを…。


 いいもん…持ってんじゃねぇか……(グフッ)




 …しょーもない冗談はさておき、行くとしましょうか。


「…じゃ、グランドルに戻ろうか。皆乗ってくれ」


 俺がそう言うと各々が動き、ポポとナナの背に乗り始める。

 ポポの背には俺とシュトルム。ナナの背にはヒナギさんとセシルさんだ。


 …まぁ妥当だな。

 2人でも結構触れ合うくらいだし、女性だとイヤンウフンな展開があるかもしれないから、これがベストだろう。


「…ではトウカさん。最後までご迷惑をお掛けしてすみませんでした。…また、ここに来ます。その時にお詫びと、最高の酒を持ってきますね」

「フフフ…楽しみにしていよう」


 俺がトウカさんに最後の挨拶を澄ますと…


「ヒナギ」


 トウカさんが、ヒナギさんに何か言うことがあるようである。


「我が家の家訓…覚えているか?」

「え? …っ!!! もう! お父様ったら!!!」

「ハッハッハ! まぁ楽しんできなさい」

「最後の最後で…」


 …? な、なんだろう一体。

 家訓? そんなのあったのか? てか、ヒナギさん顔真っ赤だけど…どんな家訓なんだ?

 う~む。分からん…。


 気にはなるけど…取りあえず行くか。


「ポポ、ナナ、行こう」


 俺は色々気になりつつもそう声を掛ける。

 すると、ポポとナナは地面を離れ、まるで浮くように空へと翼をはためかせて昇っていく。


 やがてそれなりの高度に達すると…


「お父様! 行って参ります!」


 ヒナギさんが下にいるトウカさんに声を上げた。その声が聞こえたのか、トウカさんは手を振ってそれに答えている。


「しっかり掴まってて下さいね」

「行っくよ~」


 ポポとナナがそう言うと、俺たちは随分な速度で飛び始める。


 ここでは色々と印象的なことばかりだったな…。

 だが、そんな土地ともサヨナラだ。




 俺達は、東の地アネモネに別れを告げ、グランドルを目指すのだった。




 ◆◆◆




 飛び始めてから数分後…


「ヒナギさん…あの…その服どうしましょうか?」


 俺は、ヒナギさんの服の肩の部分が切れていることを伝える。

 当然ヒナギさんも分かってはいるとは思うが、なんというか…そのままなのは色々とマズイ気がしたため、こうして話を振ってみた。

 すると…


「ああ、大丈夫ですよ? これくらいなら自動で直るようになってますから」

「あ、自動修復機能付いてるんですね」


 ヒナギさんの言葉に、じゃあ平気かという考えが頭に浮かぶ。


 自動修復機能は、一定の損傷であれば武器・防具等を損傷前の状態に自動で戻すというものである。

 それにはとあるモンスターの素材が必要になるのだが…ヒナギさんの和服にはどうやらそれが使われているらしい。


 俺のジャンパーには特に特殊な機能は付いていない。ただ頑丈なのと、3つのスキルが付与されているだけである。…まぁそれだけでも凄いんですけどね。

 そもそも傷つくということがあまり考えられん。生半可な攻撃じゃ、むしろ攻撃した方が痛手を負うかもしれないし…。


「…なぁツカサ。苦楽を共にしたってのに、まだ敬語のままなのか?」


 そんなことを考えていた俺に、シュトルムが俺とヒナギさんの会話を聞いて、後ろからそう言及してくる。


「え? だってヒナギさん年上だし…」


 と、首だけ後ろを向けて答える。


 単純に年上には敬語使ってるだけなんだが…。


「…それを言ったら俺もそうなんだが?」


 どうやら俺の言葉が若干不服なのか、シュトルムが訝し気な顔で俺に言う。


 そういえば…


「…お前何歳なの?」


 思えば、確かに年上なのは知ってたが、何歳なのかは聞いたことがなかった…。

 エルフは長寿。結構いってるのか?


「…167歳だ。エルフは長寿だからな。これでも子供の部類だぜ?」


 フフン、と…シュトルムが得意げに言い、ニヤニヤしながらこちらを見る。


 あら~気持ち悪い。

 ここから蹴り落としたいくらい。


「へー。…よし。じゃあ平気だな」

「オイ!」


 まぁ、シュトルムに敬語を使う必要はないな。うん。


「確かに歳はな? でも中身が俺以下だとな~。適用外だ」


 これに限る。

 なんというか…司君の脳内ではシュトルムに対しては敬語は使わなくてもいいという認識になっていましてねぇ。セキュリティには引っかからんのですよ。

 いやね? 俺だって敬語使いたいよ? でもさ、出来ないもんは……


 仕方ないよね?


 だが突然…


「馬鹿にしやがってコノヤロ!」

「あっ! 馬鹿! 何すんだ!」

「ヘッヘ~。いい子でちゅね~」

「ちょっ! コラッ! 離せてめっ!?」


 シュトルムが…俺の頭を両手で押さえて、所謂いい子いい子をし始めたのである。


 正直気色悪くて仕方がない。これが女の子だったら大人しくしていたかもしれないが…。

 男に関してはダメダメGN、NGです。許さず・許可せず・承諾せず…だ。

 3拍子揃ってデストロイです。


「ツカサは見た目がお子様でちゅね~」

「うるせぇ! 気にしてることを今更言うな!」


 赤ちゃん言葉を使うな! お前には似合わんから!

 てかぶっ飛ばすぞてめぇ!


 ポポの背でドタバタ騒いでいると…


「ちょっと2人共! 暴れないでください! 落としますよ!」


 怒られちゃいました。


「ポポ! 器用にコイツだけ落とせっ!」

「無茶言わないでください!?」

「無駄だ。お前も一緒に道連れだ!」

「落ちるのはてめぇだ! 地べた這いずってグランドルに戻ってきやがれ!」


 ポポが苦しそうにしているのにも気にせず、俺とシュトルムは取っ組み合いを続ける。


「ふふふ…楽しそうですね」


 何やら横で、ヒナギさんが笑っている気がする。


「ん。ヒナギもそのうちそうなるよ」

「そうなのですか?」

「だね~」

「…それは、楽しみです♪」


 ん? 何の会話してるんだろうか? こっちみて笑ってるけど…まぁいい。今はコイツを蹴落とすことを考えなければ!


 俺達の空の旅は、こうして進んでいく。




 ◇◇◇




 アネモネから少し離れた山中。


「うわーーーーーあっぶなあぁぁぁ!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 死んじゃうって! 本当にヤバいねあの人。命がいくつあっても足んないよこれじゃあ…」


虚構迷宮(ホロウミラージュ)』を破壊され、司から辛うじて逃げることに成功した『虚』は、全身に冷や汗をかきながら自らが助かったことに安堵を覚える。


「『クロス』でも勝てる? いやいや! 勝てないってこれは…。『闘神』でもいけるかどうか…。いや、多分難しいだろうなぁ。キツすぎる…。取りあえず放置しておいた方がいいんじゃないかなぁ?」


『虚』は、司の予想以上の強さに驚きを隠せない様子だ。

 今回は司達の見物を目的に来てはいたが、一応本気で殺す気で掛かったにも関わらずそれをあしらわれ、力を見せつけられてしまったことで関わらない方が良いと考えているようだ。


「うぅ~、くっそぉ~。せっかく準備したのになぁ…」


 心底悔しそうに、そして悲しそうに『虚』は言うが…


「ま、仕方ないか。ウォルちゃんは…ゴメンゴメン」


 すぐに表情を虚ろなものに戻し、淡々とそう告げた。

『虚』が使役していたブラッドウルフ。今回司によって滅されてしまったというのに、それをまるで何も思うことがないかのように、冷たく暗い一声で済ませてしまう。

 そして…


「でも、これは…当たりかな。なら安いもんか…」


 ブラッドウルフを失ったことを安いと言い捨て、その代償と引き換えに得たものに満足する『虚』。




『虚』はある確信を得て、出現させた『ゲート』の奥へとそのまま消えていった。

これにて東編終了になります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ