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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第二章 堅華なる鉄の守り 
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104話 分断

 まったりした空間に突如として響いた轟音。それを聞いてその空間は一瞬にして崩壊。各々が目を鋭くし、何事かと目を見やる。


「何だ今のは!?」

「すっげぇ音だったみてぇだが…」

「何か…落下してきたみたいな音だったような…」

「随分近くからでした。外に出てみましょう!」

「っ!」


 俺は一番乗りで飛び出した。

 この時咄嗟にマズイ事態だと認識した俺は、体が自然と動いた。


 学院での騒ぎが脳裏をよぎる…。


 今回のはそれとよく似ている。また手遅れになりかけるのは勘弁だ。




 だが…それがマズかった。

 いや、ある意味では良かったと言えるかもしれない。




『ラッキー♪ 1名様ご案内~。ウォルちゃん後はよろしく~』




 俺が家を出た瞬間、一瞬そんな声が聞こえ、俺の視界は玄関を出たときとは別物の景色へと変わった。




 ◇◇◇




「なっ! ご主人!? …え? 今のは『転移』では…?」

「また感じられない…! ご主人! どこ!?」


 司が動いたのを見て、すぐに後を追った2匹。

 だが、司が玄関が出るのを見てすぐに、突如として消えてしまったのを見て動揺する。

『転移』で移動したというなら別に不思議なことではない。慣れた光景である。

 …だが、司と繋がった感覚は本来分かるのに、それが感じられないとなると、また以前感じた時を思い出してしまっても仕方がない。


 2匹は…不安に駆られた。


「どうした!?」


 遅れて玄関まで来たシュトルムが、慌てる2匹を見て尋ねる。


「ご主人が消えたんです! 『転移』でもなく…!」

「消えた? まさかそんな…」

「…駄目だ。やっぱり感じられないよ…」

「……マジか。…ったく、何が起こってんだ?」


 最初は冗談かと思っていたシュトルムだが、2匹を見てその考えはなくなったようだ。異常が発生しているのに、この2匹がおかしなことを言い出すのは変と感じたのだろう。


 そして…


「!? 悲鳴…。それから獣の鳴き声…。早く行った方が良さそうだ」


 近くから多数の人の悲鳴が聞こえてくる。そして…人間とは別の咆哮も…。

 気づけば…声のする方向からは、土煙のようなものが舞っていた。


 今何をすべきかを理解したシュトルムは、すぐに行動に移る。


 シュトルムは性格こそ軽いものの、エルフという長寿な種族なだけあってここにいる誰よりも長生きしている。そのため、冒険者としての活動もそれなりに長く、様々な状況に陥った経験があるのだ。

 今回は稀なケースではあるが、シュトルムは今までの経験を思い出し、今何をすべきかが明確になっていた。


「どうかされたのですか!?」


 そこに、ヒナギ達が遅れてやってくる。

 どうやら得物を準備していたようであり、準備は万端といったところだ。


「…ツカサは?」

「…消えたとさ」

「え? それどういう「あ~話は後だ。…取りあえずあそこに行くぞ。探すのはそれからだ。お前らもそれでいいな?」

「…了解です」

「…うん」


 セシルの問いを途中で遮るシュトルム。

 シュトルムが指さす方向からは、悲鳴や怒号が聞こえてくる。それを見たポポとナナも、シュトルムの言うことに素直に頷く。

 今自分達にできることを判断した結果がそうなのだろう。


「トウカさんは避難しててくれるか? 何があるか分からねぇ…。さっき獣の声が聞こえたから、戦闘になるかもしれねぇからよ」

「むぅ、そうか…。なら私は緊急時の避難場所に行こう。足手まといにしかならんだろうからな…」


 トウカはヒナギとは対照的に戦闘能力は皆無である。

 …皆無とはいっても一般のそれと変わらない程度だが、足手まといになることは当然のことと分かっていたため、素直に従う。


「頼んだぜ。パニックになってる人がいたら俺たちが向かったと言って、安心させといてくれ」

「あい分かった」


 シュトルムのベテラン顔負けの対応に、皆は表情にこそ出しはしなかったものの驚愕していた。あまりに普段のおかしな言動とは違ったからである。

 自分たちのことだけではなく、周りのこともよく考えている。

 ランクで全ては語れない。シュトルムは…その語れない部分を十分に満たしていた。


「お父様。すぐに戻りますから…」

「…分かった。気を付けるんだぞ」

「はい!」

「それじゃ急いで向かうぞ!」




 シュトルム達は、現場へと急行するのであった。




 ◇◇◇




「何だ!? これは…!」


 突然視界が切り替わる。まさに瞬きをする間に…。

 気が付くと…そこには何もなかった。ただ、何もない空間が広がっているだけだ。


 神様が作った空間よりも遥かに寂しく、無に等しい世界。


 それが俺が感じた感想だ。

 音も無ければ風も感じられず、何もかも死んでいるかのようだ。


「ポポとナナの気配も感じ取れない…。何だよこの空間は…。神様の空間と似てなくもない…か?」


 俺はまずポポとナナの気配を探るが、何も感じず無意味に終わる。

 そこに…別の人物の声が響いてきた。


『いや~まさかこんなに事が上手く運ぶとは思わなかったな~』

「!? 誰だ!?」


 この声はさっき聞こえた…!?


 この声は俺が玄関を出た瞬間に聞こえた声だった。

 すぐに今の自分が置かれている状況が、この人物によるものだと判断し辺りを見回すが、どこにも人影はない。


 俺が辺りを見回していると…


『あー、君からは見えないから探しても無駄無駄~。ちょっとの間お付き合いしてね~』


 声の主は俺を嘲笑うかのように告げてくる。

 俺の目には見えないが向こうからは見えているらしく、非常に不愉快な気持ちになる。


「ふざけるな! 皆をどこにやった!」

『別にどこにもやってないけど? …君が移動してきたんだよ。予想では何人かはこっちに来ると思ったけど、運よく君だけ招くことができたみたいだし? …まぁ、無事かは知らないけどね』

「ここは一体なんだ!」

『内緒~。でも言うならば、出口のない異次元空間だね。時間が経てば元に戻るから、それまでごゆっくり~』

「ゆっくりなんてできるかよ…!」


 無事か分からないというコイツの言葉を聞いて、ただ時間が過ぎるのを待って落ち着いてなんていられない。

 異次元空間ということに関しては、神様みたいな空間だろうと推測。似たような経験があるからそこまで不安にはならない。


 俺はどうすればこの空間から出ることができるかを頭のなかで考える。

 すると…


『何かしようとしてるみたいだけど、無駄だよ? 僕みたいに心が虚ろな人でないと、その迷宮からは抜け出せない。君みたいに心が豊かな人間には絶対に無理~」』


 あ? どういう意味だ?

 心が虚ろ? 何を言っている…。


「オイ、それはどういう意味だ?」


 俺の問いに対する返答は帰ってこない。

 それっきり、声は聞こえなくなってしまった。


「クソッ…!」


 どうやって出る!? 恐らく作り出された空間に今俺はいるはずだ。そこから出るにはどうすれば…。

 というより、さっきの轟音の原因は恐らく今の奴に違いないのは間違いない。…多分、皆はその事態の解決に乗り出してるはずだ。

 またこの前みたいに時間がかなり経過しているとかだったら洒落にならないぞ…! 手遅れだそれじゃ。早く戻らねぇと!


 ひたすらに思考を繰り返す。

 そして…


「取りあえず、考えられることを手当たり次第にやるしかないか…」


 俺はこの空間から逃れるべく、行動を開始した。




 ◇◇◇




 司があれこれやっているのを、『虚』はニヤニヤしながら見つめていた。

 見ることはできるようだがどうやらこちらも手出しはできないらしく、傍観を決め込んでいる。


「(『虚構迷宮(ホロウミラージュ)』からは逃れられないよ、無駄無駄。これで彼はしばらく動けないはず。…ハハハ! こんな簡単な手に引っかかるとは思わなかったな~)」


 司だけをここに連れてくることに成功した『虚』は、自分の運の良さを喜んでいた。欲を言えば、ポポとナナも連れてきたい所ではあったが…。

 司からしてみれば自身の経験の元行動した結果がこれなので、『虚』の運の良さは腹立だしいことこの上ないだろう。…それを知る術もないだろうが。


「(というより、彼…『神様』とか言ったよね? …もしかして、もしかしちゃったりする? だったら大収穫なんだけど…)」


 この時『虚』は、司が独り言で『神様』と言ったことをしっかりと聞いていた。

 まず、この状況に陥った者が、すぐにそんな用語が出てくるのは考えられない。『虚』はそれに対してある懸念が浮かんできていた。


「(ま、いいや。さてさて、『鉄壁』の魂は上手くいけば回収できるかな? 従魔ちゃん達がいるから安心はできないけど…。ウォルちゃん頑張って☆)」




 司のことを一旦放置し、別々に動いているもう1匹の共犯者に、『虚』は声援を送るのだった。

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